▲先頭に戻る

自然科学研究機構シンポジウム

第17回自然科学研究機構シンポジウム
記憶の脳科学 -私達はどのようにして覚え忘れていくのか-(2014年9月23日開催)
高校生記者による取材記事

8名の高校生に、シンポジウムの企画者や講演者である、自然科学研究機構 生理学研究所 柿木隆介教授、大阪大学 苧阪満里子教授、生理学研究所 井本敬二所長と坂本貴和子特任助教に取材して頂き、「記憶の脳科学」についての記事を執筆頂きました。個性豊かな記事をお楽しみください。
※下記の記事タイトルをクリックすると、記事内容が表示されます。

脳と記憶 (長野県立松本深志高等学校 廣瀬 由悟 さん)
今回、記憶についてのシンポジウムに参加させていただき、ありがとうございました。今回のシンポジウムはとても興味をそそられる講演ばかりで楽しかったです。
さて、記憶についてもいろいろと分かったことがあります。
まず、記憶の忘却の種類についてです。記憶には、脳の前脳基底部、内側視床、海馬を含む内側側頭葉が強くかんけいしていて、これらのうち1つでも冒されるとエピソード記憶に障害がでる健忘症になり、さらに脳全体が冒され、萎縮した状態を認知症といい、エピソード記憶以外も冒されます。
次に、記憶に対する脳の働きについてです。記憶には短期記憶(STM)と、長期記憶(LTM)の、2種類が存在し、これらは脳の中央実行系によって制御されます。中央実行系はワーキングメモリの司令塔であり、この個人差を測定するリーディングスパンテストでは、ワーキングメモリの中央実行系にかかわる脳の領域間のつながりが強いほど高得点となります。また、高齢者はそのつながりが弱いことがわかっています。
これら2つのことから、高齢者は比較的健忘症または認知症になりやすいことがわかりました。確かにこのことはよく耳にしていましたが、どうしてそうなのかは実のところわかっておらず、その理由を明らかに出来たのはとても嬉しいです。
今回、隣の展示会場にも足を運び、いろいろなブースを見学しました。中でも生理学研究所のブースでは、逆さメガネをつけて迷路を脱出するというもので、実際に体験してみました。やってみると、自分の意志とは逆の方向によく進み、四苦八苦しながらなんとかゴールに着きました。ただ、最初とくらべて、最後の方はかなりスラスラ進みました。これは、脳が新たな環境に順応しようとしている証拠らしく、脳のすごさを改めて感じました。
今回、記憶だけでなく、脳について様々なことを知り、興味が湧きました。自分でもその不思議さについて調べてみたいと思いました。
ありがとうございました。
竹中半兵衛さえも語る、忘却の彼方 (明星学園高等学校 前田 黎 さん)
竹中半兵衛が生きていたとしても、とぼけることが不可能かもしれない技術が発明された。罪を犯した容疑者が嘘をついているかを見破る、いわばうそ発見器は、心拍数や皮膚の電気抵抗から嘘か誠かを見極めていた。すなわち、身体的な妨害工作をすれば嘘を見抜かれないことも容易なことだったかもしれない。しかしヒトが意図的に制御することができない分野で嘘を発見することが可能になったら、うそ発見器の精度がどのように変化するだろうか。

それを考案し、脳指紋の存在を発見したのは生理学研究所の柿木隆介教授である。ヒトには自らの思い出として持っている『エピソード記憶』というものがある。また、そのエピソード記憶によく反応するP300という特殊な脳波が存在している。柿木教授はヒトが嘘をついたときは、P300の反応が大きいということを発見した。例えば、ある事件の容疑者を例に挙げて考える。事件の犯人しか知り得ないような事件現場の証拠の写真と、その事件とはまったく関係のない写真を用意する。事件に関与していないヒトであれば、それらの写真は特に意味を成さないものであるためP300は検出されない。しかし事件に関与した人物であれば、本人が憶えていないつもりでも脳の記憶の引き出しには、写真と同じ画像が残っている。すなわち、本人が気づいていないつもりでも脳は反射的に反応してしまう、というものが脳指紋なのである。

しかしながらこれもまた興味深いことに、教授によるとマウスやラットでは記憶を消すことも可能だそうだ。ここでP300の特徴から再考すると、もしヒトでも記憶を消すことができたならば、記憶を消しP300を検出させないことも可能ではないかと考えた。そこで私たちは、柿木教授に『ヒトでも完全に記憶を消すことができれば、P300による脳指紋の技術は、従来のうそ発見器の精度と変わらなくなってしまうのではないか』と問いかけた。すると、『あくまでマウスやラットで成功しただけであり、人間で実験することは、物理的に不可能である。よって脳指紋の検出結果に支障はきたすことはない』とのことだった。「しかし記憶を消すことはできなくても隠すことは出来るんですよ」と柿木教授。「心理学的な意味になるのですが、辛い記憶をどうにかして忘れたいとき、あなたならどうしますか。このとき心理学的な考え方だと、解決策は二つあるんです。一つは恐怖心が消えるまで、その記憶を思い出さないという方法。脳科学的に考えても、ヒトはある程度の頻度で思い出すことがないと神経細胞のはたらきが衰えて、思いだしにくくなるんですよ。二つ目は一つ目とは対照的に、その恐怖心をあえて想起させるという方法。恐怖心に慣れさせることによって、その出来事に対しての特別な感情が薄れるということになりますね」。

今後柿木教授は『記憶を隠す』という方法で、知らぬ顔の半兵衛を決め込もうとする妨害の対策を考えていくという。
自分自身を理解する研究 (埼玉県立浦和高等学校 岡部 龍登 さん)
 9月23日の秋分の日、学術総合センターにおいて第17回自然科学研究機構シンポジウムが開かれた。今回は、「記憶の脳科学 ~私達はどのようにして覚え忘れていくのか~」というテーマだ。私達は生きていく上で、自然に物事を記憶したり忘れたりする。そのとき、私達の脳では一体何が起こっているのだろうか。
 東京女子医科大学名誉教授の岩田誠氏はまず、そもそも記憶とは何かという題目で話を始めた。一口に記憶と言っても、短期の記憶や長期の記憶、体が覚えている記憶など様々である。私達が何か思い出すとき、脳の働きで記憶を形成する。その仕組みは多様であり、アルツハイマー病はその仕組みのうち特定の能力だけが失われた状態の1つだという。
 さらに富山大学教授の井ノ口馨氏は、脳が記憶を蓄え想起するメカニズムの解説をした。記憶は脳内の神経細胞の組み合わせで蓄えられる。そのときの細胞同士は結合が強まり、一部の神経細胞が活動するとその強く結合した細胞も同時に活動を始める。これが記憶の想起となるという。また、記憶が想起したときに、記憶の再固定化を行う物質の働きを阻害すれば記憶は理論上失われる。特定の記憶のみを消去することは可能だと言われている。
 東京大学講師の平林敏行氏によると、私達の脳は外から得た情報を実に高度に処理しているという。例えばある物体を見たとき、脳では物体の傾き・動き・場所・輪郭・色・形などを別々の箇所で処理して認識して、視覚情報を処理する。この高度な計算のために、視覚障害者は線画を模写できなかったり、記憶で物を描くことが出来ても自分で描いたものが何か分からなかったりなってしまうという。
 大阪大学教授の苧阪満里子氏の話では、ワーキングメモリという目標とする行動のために必要な情報を処理・保持をしておく脳の機能について触れられた。日常生活において、本の読解など外からの情報を処理しながら記憶しなければならない場面は多い。ワーキングメモリは情報の処理と記憶という二重課題に対応し、思考や学習など私達の高次な認知機能を支える重要なものである。
 東北大学教授の森悦郎氏は認知症や健忘症などの障害の例を挙げた。認知症は脳の広範囲が侵され、記憶やそれ以外の高次脳機能の障害を指す。健忘症とは今まで覚えていたことを忘れる逆向性健忘と、新たに覚えることが出来ない前向性健忘の症状がある。
 また、自然科学研究機構生理学研究所教授の柿木隆介氏は、脳指紋について解説した。脳は外から入ってきた情報と以前に記憶した情報が一致すると、「P300」という特殊な脳波を発するという。これは脳指紋と呼ばれ、アメリカなどでは犯罪捜査にも使われている。
 そしてパナソニック株式会社研究員の佐藤佳州氏は、人間の思考を真似るコンピュータ将棋の仕組みについて話した。プロ棋士の「読み」や「大局観」を、計算力を活かした「探索」や「評価関数」によってコンピュータ将棋は学習・思考し、トッププロと互角かそれ以上の強さになったと言えるという。
 最後にジャーナリストの立花隆氏もパネルディスカッションに参加し、記憶が脳にどのように入っており、どのように紐解かれるかが分かって、やっと記憶や脳について理解できたといえるのではないかというように話した。
 脳や記憶を私達は自然に生活に用いている。あまりに自然すぎて、意識することさえ難しい。そして脳の機能は今分かるだけでもかなり高度で複雑である。それでも私達の脳と記憶についての解明のため、人工知能など様々な方面から研究が進められている。自分自身を理解する、という難しい課題に私達は向き合っているのである。
タイトルなし (渋谷教育学園幕張高等学校 林 香織 さん)
「事実と真実がぶつかった時、私たちは真実に道を譲らなければならないー」と、今回のシンポジウムのトップバッターである岩田教授が仰っていたことを私は今でも鮮明に覚えている。
私たちは、私たちの脳は、この世界で起きている全ての「事実」を自分の思うようにしか認識できない。それは逆説的に言えば、私たちは世界をどのようにでも認識できる、ということなのだろう。そして、私たち一人一人がどのような環境で何を経験しもう感じたかー具体的にいえば、ある経験をした時にそこの風景や温度、湿度、色、周りにいた人、聞こえる音、視界の端に映ったものまでもーという膨大な情報の数え切れない積み重ねが複雑に絡み合って私たちの物事の認識の仕方を決定する。科学的に言えば(私はただの高校生であって、実は何もわかっていないのかもしれない)それらの膨大な量の情報を認識した時どの神経細胞が活性化し、どうつながって何が連合したかなどということが私たちのそれぞれの脳の構造を現在の科学でも読み解けないほど複雑にし、私たちの脳、あるいは「心」を決定しているのかもしれない。
生まれた瞬間から全く同じ経験をしてきた人間などいないのだから、私たちは皆違う心を持ち、「事実」はそれぞれに異なる「真実」として一人一人に認識される。その無限の可能性が脳の面白さであるのだろう。
実は身近な脳科学 (埼玉県立川越女子高等学校 須田 華那 さん)
9月23日(火)千代田区の学術総合センターで、第17回自然科学研究機構シンポジウムが開催された。 今回のテーマは「記憶の脳科学~私達はどのようにして覚え忘れていくのか~」である。私にとっては難しいような身近なようなそんな印象だ。
 尚,シンポジウム終了後に設けられた、高校生記者対象の取材会に参加した。ここではその内容をQ&A型式で記したいと思う。取材させて頂いたのは生理学研究所井本敬二所長、坂本貴和子特任助教、柿木隆介教授である。

Q1:初めて食べた時にとても美味しく感じた物を後日もう一度食べた時に、最初のような美味しさを感じられないことがあります。また、思い出がどんどん美化されていくこともあります。どうしてこのようなことが起こるのですか?

●井本所長と坂本特任助教の回答
人間の脳には、欠けている部分を補うという性質がある為、記憶の美化が行われます。これは子どもで特に顕著な傾向で、良い方にも悪い方にも程度がひどくなります。

▼同じものを食べても美味しいと感じるか否かを判断する分かれ道は何であろうか。場所・時間・人など様々な環境が影響しているのだと思う。


Q2:父母が「携帯電話の無い頃は幾つもの電話番号を覚えていたのに、携帯電話を使いだしてからは全く覚えなくなった」と言っていました。また、私は最初から電話番号を覚えたことがありません。これはある意味「脳の退化」なのでは?と思います。この先、人間の脳が退化していくことはありますか?

●柿木教授の回答
あると思います。車や電車が生まれて人々の足腰が弱くなってきたように、きっと脳も弱くなるでしょう。筆記具を使って書くことを積極的に行った方が良いと思います。

▼私もスマートフォン依存に片足を突っ込んでいる状態かもしれない。この原稿もスマートフォンで書いている始末だ。とは言え、この便利さを捨て去ることは出来ない。まずは学校の電話番号を暗記してみようと思う。


Q3:私が通う高校はSSHに指定されていることもあり、医療系の仕事に興味を持っている人が多くいます。そんな高校生たちにメッセージをよろしくお願いします。

●坂本特任助教からのメッセージ
医療の仕事は、間違いなく人の役に立つ仕事です。今、医療に興味の無い人も、何かのきっかけでこの分野に興味が生まれ、そこがあなたの活躍の場になるかもしれません。私もその一人です。人生はどこでどうなるかは分かりません。知らない分野に興味を持つことが大切です。

▼やりたいことが決まっていない生徒は多い。私もその一人である。今すぐ道を決めずとも多くの経験を積んでいけば、自ずと見えてくるということだろうか。


今まで脳科学について全く知らなかった。今回この様な機会を与えて頂き、人間の活動の中心であるこの不思議な組織が、とても魅力的であることが分かった。未開拓分野も多く、今後の研究がとても楽しみである。

末尾ではあるが、このシンポジウムと取材会の企画・運営をして頂いた方々にお礼を申し上げ、記事を終わりにしたい。
脳指紋とは? (埼玉県立浦和高等学校 川鍋 篤史 さん)
 今回は「記憶の脳科学~私たちはどのように覚え忘れていくのか~」というテーマで7人の先生による講演が行われた。取材させていただいたのはその中の一人、柿木隆介教授である。柿木教授の講演内容は「記憶と脳指紋」というものだった。

 講演では脳指紋の記録方法や事例、問題点などを分かりやすく話してくださった。脳指紋とは、認知機能に関連する誘発脳波の一種である。これは記憶にも強く関係するので犯罪捜査などに利用される場合もある。脳指紋という名前は、まるで指紋のように人間の脳内で記憶として残っているからという理由でその名が付いたそうだ。わかりやすく言うと脳指紋は犯罪捜査など幅広く使われる特殊なP300という脳波の反応だという。刺激後約300ミリ秒後に出現する陽性(Positive)反応なのでP300と呼ばれる。 脳指紋は直近の記憶や強く印象に残った記憶に対して明瞭な反応がでる。記録方法は被験者の頭に脳波電極を付けて写真やイラストなどを見せ、脳波を測定するといった方法だ。アメリカでは犯罪捜査で実用され、冤罪を証明した事例も紹介されたが、条件と個人差によって精度が異なるという点など若干の不安があることから冤罪を作る危険性などが考慮されていて日本での実用化は進んでいないことも示された。

 取材ではもう少し深くお話を伺った。実際の脳指紋の記録では画像などの視覚的な刺激を与えるが、嗅覚や味覚など他の感覚でも記録することができるとのことだ。しかし味覚や嗅覚は感じ方が人それぞれであるため脳内に残っている記憶と正確に照合できず、正しい記録は期待できないという。また、刺激を受け取る感覚が違うと脳波が出現するまでの時間が異なるそうだ。聴覚の場合は約300ミリ秒、視覚の場合は約300~400ミリ秒、嗅覚の場合は600ミリ秒と大きく差が出る。この差は刺激を受け取る脳の部位の違いによるもので、例えば聴覚は耳の上あたりですぐに受け取れるが視覚は後頭部付近で受け取るため、聴覚に比べて時間がかかるからである。そして刺激を与えるときはできるだけシャープな刺激のほうがいいという。これは刺激が複雑だと直接関係のない余計な情報が入ってしまって正確な結果が出なくなることを防ぐためである。実際に、写真を見せて鑑定をする場合は衣服の模様や髪形などの情報で反応してしまうことを防ぐために短い時間しか見せないそうだ。

 最後に柿木先生は最大の問題点として「心の中の知られたくないことも簡単に見抜いてしまうため倫理の問題としての在り方が課題になる。」と話してくださった。お話を伺って、使い方によってはプライバシーの侵害に当たってしまうことがあると感じたので慎重に使っていくべきだと思った。
ワーキングメモリから考える脳科学 (埼玉県立川越女子高等学校 安藤 華蓮 さん)
9月23日(火・祝日)秋分の日、9:50~17:40にかけて自然科学研究機構主催のシンポジウム「記憶の脳科学」が開催された。
今回の講演のテーマである記憶の機能を脳科学者による、様々な視点から間近で聴くことができ、非常に有意義な時間を過ごせたと思う。 そこで私が注目したのは、苧阪満理子教授のワーキングメモリについての講演である。
ワーキングメモリ(作業記憶)とは、記憶の処理と保持を支える記憶システムのことだ。ワーキングメモリのメカニズムは、視覚的・空間的なイメージを操作又は保存する視覚空間的スケッチパッドや、言語理解・推論を行う為の音韻情報を保存する音韻ループと呼ばれる、短期記憶を司るこれら二つのシステムと、音声/視覚/空間情報を統合した表現を保持し、さらに長期記憶情報へのアクセスとの統合も担当しているエピソードバッファを中央実行系が繋いでいるというものである。中央実行系は、司令塔のように記憶すべき必要なものに注意を向け、必要でない情報の抑制をしており、これがうまく作動しない、つまりターゲットへの注意の移動が不得手な実験参加者のRST(リーディングスパンテスト)の評価値は、低得点であるという結果が出ているそうだ。
中央実行系の働きには注意のフォーカスを行う後頭頂葉領域(SPL・IPL)と、前頭葉の注意保持を行う前頭前野背外側領域(DLPFC)、抑制制御を行う前部帯状回(ACC)という三つの区分が関係している。
これらは互いに相互作用を及ぼしており、バランスが崩れるなどしてネットワーク強度が低下するとRSTの得点も低下するという結果が出た。これらの平衡が崩れる大きな要因の一つは加齢であり、特にACCの適切な活動が衰える事によって起こる。また、RSTは読解力の評価値と深い相関関係にある事が知られており、それには理解力が重要であることがわかっている。そのため近年のRST得点数の低下は、理解力の低下をも示唆していると考えられる。そして逆に高得点を記録した実験参加者は読解力も高くターゲットに向けた注意力も高かったという。さらに、RST課題で活性化した脳部位を調べると、高得点者はDLPFCとACCが同期しているという結果がでた。
これまでの結果を見ても、脳部位の働きは自分の意思ではコントロール出来ないのは確かだ。しかし、個々の努力次第でいくらでも補えるものと私は信じている。ワーキングメモリの容量の限界をいかに考慮し、それを踏まえて付き合ってゆくかが、これからの課題となるのではないだろうか。
また、今回の公演を受けて、改めて脳の機能の巧妙さを目の当たりし、脳科学に今までより一層強く興味を引かれた。人間にとって不可欠な存在である脳。私も将来脳科学の分野に携わり、その進捗を側で見て行きたい。
いま、記憶を考える (東京都立武蔵高等学校 梅本 真衣 さん)
 近年の科学の進歩は目覚ましいものである。SFの中だけだったものが、現実味を帯びてきている。そのなかでも私は、アンドロイドについて興味があり、脳科学に視点を置いてみたいと思い、このシンポジウムに参加した。
 シンポジウムの最後のパネルディスカッションにおいて「記憶とは何なのか」という話題になった時、柿木先生が「記憶とは、人間が人間たるゆえんである」とおっしゃっていた。では、アンドロイドに記憶を与えれば、アンドロイドは人間に近づくことができるのだろうか。
 柿木先生に質問したところ「赤ちゃんもアンドロイドと同じです。生まれたときは、記憶は何も持っていない。」だからこそ、記憶の与え方が大切なのだと先生はおっしゃった。「どちらかというと、人間の方がアンドロイドのようになるかもしれない。例えば小さい頃から隣の国は悪い民族だと刷り込まれていたら、会ったことが無くてもそう思ってしまう。アンドロイドと人間との違いは、記憶を操作できるかです。アンドロイドは記憶を消したり編集したりできるかもしれませんが、人間はできない。」だから、周りの環境しだいですね、と先生はおっしゃった。
 未来の機械文明より、今の人間の記憶をつくっていく環境の大切さを考えさせられた。

 また、今回はワーキングメモリーの研究をしている苧阪先生にもインタビューすることができたので、高校生として気になる「ワーキングメモリーを鍛えるにはどうすればよいか」と尋ねた。
 苧阪先生はシンポジウム内でもおっしゃっていたが、やはり読書をすることが大切だという。読書は、前に読んできた内容を記憶したまま先の展開を読んでいかなければ話が分からなくなってしまうからである。ワーキングメモリーは、目標に向かって必要な物事を覚えて必要がないことは忘れていくことに役立つシステムである。 長期記憶とはすなわちその人自身の知識となり、思考の要になるので、いかに短期記憶から長期記憶に持っていけるかが大切だ。
 しかし、苧阪先生曰く、近年の学生は電子機器などの発達により、便利なものに依存してしまっているという。もっと、記憶力を使って欲しいと先生はおっしゃっていた。

 最後に、お二人とも約二十年間、同じ研究をなさっていたということから、長い間研究を続けてこられた秘訣、いままで大変だったことについてをお訊きした。
 すると、驚いたことに別々にお尋ねしたのにもかかわらず、お二人から同じように「大変だと思ったことはない」といわれた。
 柿木先生は「自分の好きなことをやっているので、大変だと思ったことはないですよ。」と笑いながらおっしゃった。苧阪先生は「ずっと追い求めていても答えがなかなかでてこないから。」と、いかにも研究者らしいお返事をくださった。

 私は今、高校生として将来の進路のことを悩んでいるが、お二人の、長い間自分の研究を続けていても「大変だと思ったことはない」というお返事をきいて、思ったことがある。できる限り、後悔のない選択をしたいということだ。
 今回の経験をしっかり記憶に刻み、インタビューにお答えしてくださった先生方に感謝したい。

←第17回自然科学研究機構シンポジウム