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【Q & A 集】第10回若手研究者賞記念講演

印刷用ページを表示する 更新日:2021年9月2日更新

 

 

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Q & A

第10回若手研究者賞受賞記念講演の中で、視聴者の皆様より寄せられた質問に、受賞者の先生たちが答えてくれました。

全員の先生への質問

1. 受賞者の方全員にお聞きします。もし似通った研究を行なっている機関があったとして、協力して研究を進めることなどもあるのでしょうか。

 

Dr. LEONARDI:This is a very interesting question. The answer is that it depends on the situation. In the gravitational wave field, the community is quite small (about 3000 researchers around the world) so we know what other laboratories are doing and we share our knowledge and experience. However, this is not so common and many times we discover someone was doing the same research only when the results appear on a scientific journal.

 

河村先生:全く同じことをしているということは基本的にありませんが、同じ道具を使っていたり、同じ現象を別の状況で扱っていたり、ということはよくあって、情報交換することがあります。また、あるテーマに必要な専門分野が広くて、自分だけでは抱えきれないことも多く、関連分野の方に協力を仰いだり、協力を求められたりということもよくあります。そういった中で、一人では気づかなかったことが見えてきたり、新しい方向に進むことができたり、ということもあり、とても大切な活動です。核融合科学研究所はそうした共同研究の輪を支えて広げる役割も担っています。余談になりますが、身近にいる人とは日本語ですし楽に話を伝えられますが、専門的な話は分野が離れていると通じにくかったりします。一方、外国の方とは英語なので言葉で苦労するのですが、同じ専門分野だと研究の話は以心伝心のごとく通じることがあり、研究者ならではの面白い体験だと思います。

 

キム先生:はい、私は他の研究者や機関との共同研究をしており、もっと共同研究を拡張したい派です。研究分野によって競争する分野もありますが、自然科学分野は共同研究が活発に行なっている分野だと思います。特に私が研究している光合成は歴史が長く多くの国で研究している分野であり、「効率的・効果的」な研究のため知識や記述を共有する共同研究が活発に行っています。

 

小林先生:その機関あるいは研究者との信頼関係にもよりますが、お互いの得意な部分を活かして協力することはよくあります。似通っているもしくは同じ方向性の研究となると、どうしても競争になりがちですが、一番は科学の進歩に貢献することなので、個人的には変な功名心・独占欲を持たず、協力できるところは協力してよりよい結果が効率的に得られる方を選ぶようにしています。私は元来、人がやっているならその人にお任せしたいと思いがちですし、無用な競争に巻き込まれるのも避けたいので、できるだけ独自の技術や路線、別の角度から重要な課題にアプローチできたらと常に考えています。…と言うとカッコいいのですが、それはなかなか難しくもあります。

 

矢木先生:もちろんあります。例えば、私はNMR法を用いたアミロイドの構造解析が専門ですが、自分の研究機関のNMR計測だけでは不十分な場合、他機関のNMR(溶液/固体の違い、磁場・プローブが異なる)も利用して、協力して解析を進めることもあります。また、他の構造解析手法の専門家(他機関であることも多いです)と共同で研究を実施することもありますし、得られた実験結果をもとに、計算科学・理論科学の専門家と共同で研究することもあります。

Q & A LEONARDI Matteo先生『重力波で宇宙のささやきを聴く』

1. 研究者になって一番「良かった」と思うことや嬉しかったことは何ですか。

What has been the most “GOOD” and/or “JOYFUL” experience in your life since becoming a researcher?

The most rewarding experience I had as researcher was in January 2020 when, for the first time in history, we measured frequency dependent squeezing in our laboratory. This experience was important not only because of the scientific importance of it, but also because it came after a lot of hard work from me, my students, and my collaborators. In fact, when we finally performed this measurement, it was late in the evening and everyone was tired, but we kept working together since we all love it so much, and it paid off.

 

2. 日本で研究しようと思ったきっかけは何ですか。

Why did you decide to do your research in Japan?

I decided to come to Japan because here at NAOJ there is a unique facility: the TAMA300 interferometer. This facility is the only one in the world that can help the type of research I am doing. Moreover, when I came to Japan in 2017, the gravitational wave detector KAGRA was being constructed, and it was a great opportunity to work together many people of this field to learn many new things together.

 

Q & A 河村学思先生『枯渇しないエネルギー源「核融合」の実現にコンピュータで挑む​​』

1. シミュレーションに使用するコンピュータは、一般的なPCと何か違いがあるのでしょうか。違いがあるとすれば、何が違うのでしょうか。また、そのコンピュータはどのように作られたのでしょうか。

基本的な仕組みは同じで、演算処理をするCPU、情報を記憶するメモリー、外部と情報をやり取りするバスで構成されています。昔はシミュレーション特有の計算処理に合わせたCPUなどを専用に開発するのが当たり前でした。しかし光の速さより早く情報を伝えることは不可能ですし、原子サイズよりも集積度をあげることも不可能ですので、1台当たりの性能には限界が見えてきました。そこで、最近ではPCと同じ、またはカスタムした部品を大量に使って、コンピュータ間を相互につないで手分けして計算するのが主流になってきました。PC換算で10万台やそれ以上のコンピュータを効率よくつなぐには汎用部品では追い付かず、特別に開発されたネットワーク部品が使われています。また、計算するソフトウェアの方でも、効率よく手分けする手法が必要で、コンピュータの仕組みが新しくなると、その性能を引き出せるように研究者が改良を加えています。世界トップレベルの大規模な計算が必要な場合について書きましたが、小規模な計算ですむ分野も多く、昔であればスーパーコンピュータが必要だったシミュレーションを普通のPCで行っている研究者もたくさんいます。ちなみに、量子コンピュータのことがときどきニュースになりますが、量子力学の原理に基づいて四則演算を使わずに解ける問題がいくつか知られていて、それについては現在のコンピュータには太刀打ちできない速さです。しかし、計算の積み重ねで問題を解くという現在のコンピュータが行っていることは苦手で、量子コンピュータは特定用途専用に開発が行われているというのが現状です。

 

2. 何故シミュレーションをする必要があるのでしょうか。「直接観測できないから」「危ないから」以外にも何か理由はありますか。

何を目的にするかによるので理由はいろいろあります。たとえば、実験は特定の装置や試薬や試験資料を使いますが、いつも同じ条件を準備できるとは限りませんが、シミュレーションであれば全く同じ条件を整えることができるため、理論的予測との比較がしやすいという利点があります。また、実験では実物と違う条件を使ったり、見たい現象以外が起きないようしたりすることは難しいですが、シミュレーションであれば設定を変えることで狙った条件を作ることができます。また、複数の条件(例えば密度と温度と材質など)が絡む場合に、特定の一つだけを変えるということができますので、注目している現象が条件によってどのように変わるかを簡単に調べることができます。もちろん、好き勝手にいじると間違った結果になることもあるので検証は必要ですが、アイデアを柔軟に入れこめるという大きな利点があります。

 

3. 10年後に色々便利な世界になると、人は反対に退化してしまうと聞きました。しかし、便利にするために人はむしろ賢くなっていくと私は思いますが、先生はどう思いますか。

確かに退化する部分はあると思います。たとえば、スマホで情報がいつでも得られるようになって、入念に準備しなくても気軽に行動できるになりましたが、災害や社会の変化でひとたび前提が崩れると何もできなくなってしまう危険があります。社会的な面では、人が知識と経験をもとに状況判断したり物を作ったりしてきましたが、一部はコンピュータを使った技術で肩代わりできそうだという話があります。5年や10年ならば、まだ人が残っていると思いますが、いずれ人も失われて、なぜそのやり方をしているのかわからないけれど、とりあえずうまくいっている、というようなことが身近に増えてくるかもしれません。そうなると、想定の範囲内でしか対応できない、とても危険な社会になりそうで心配です。しかし、今までできなかったり、とても苦労したりしていたことが、いとも簡単にできるようになれば、その分の時間や労力を別の新しいものに向けることができます。物事の見え方は時代とともに変わっても、本質はそうそう変わるものではありませんから、きちんと地に足をつけて、大事なポイントからは目を離さないで、便利な道具を臨機応変に利用するという考え方をしていれば、質問者が書いている賢い人になれるのではないかと思います。人とのつながりという意味では人文科学、物とのつながりという意味では自然科学の重要性は、社会が複雑で便利になるほど、心のとめておかなければいけないものになると思います。最後に、私が高校生の時、担任の先生から聞いた話をご紹介します。ピラミッドは素晴らしい技術と途方もない労力で作られた唯一無二の建造物ですが、作る技術は失われ、それを必要とする社会も歴史資料の中にしかありません。しかし、神宮は20年に一度作り直すことで、宮大工の人々の中に技術を、社会の中に理由を保ち続けてきました。昔のものをそのまま守るべきという単純な話ではなく、根底にあるものを知ったうえで、それを人や社会の仕組みとして未来につなぎながら、新しい便利さを追求していくことが大切だと感じます。

 

4. 海水を全て核融合に使おうと思ったらどれくらいの年月が必要ですか。

講演の中で、海水とほぼ同量の石油の発熱エネルギーが生まれるといいました。これは重水素とリチウムの両方を海水から取り出したらという試算で、リチウムを鉱石からとるならば海水と同量どころか、はるかに多くの石油に相当します。ですが、ここでは厳しい方の試算を使うことにします。Wikipediaによると、海水の量は約13.7億km3で、世界の年あたりのエネルギー供給量は原油換算で約138億トンだそうです。比重1として大雑把に換算すると、約1億年分になります。ここでは、重水素と三重水素の核融合反応を前提にしましたが、より性能のいい核融合炉ができると、三重水素を使わずに重水素だけの核融合反応が利用できますし、他にも核融合反応の種類はあって、技術の進歩が進むことを前提にしてよければ、はるかに多くの燃料を手に入れられると期待できそうです。

 

5. なぜ、「枯渇しないエネルギー」と言えるのでしょうか。

太陽にも寿命はありますし、宇宙も永遠の存在ではないでしょう。永遠はあり得ないという前提で、事実上無尽蔵に利用できうるエネルギー源という意味で枯渇しないという表現を使いました。厳密には間違いですが、講演タイトル中の言葉の綾として見逃していただければと思います。科学者は数字や量を表す表現をよく使いますが、厳密とはかぎりません。むしろ何らかの前提をもとに許容範囲を意識したおおよその表現だったりします。たとえば、熱になるエネルギーのうち、利用できるのはごく一部です。また、海水からリチウムを取り出すほど薄まるので取り出しは難しくなっていきます。このように、前提条件がかわると結果も大きく変わるため、数字を正しく理解するというのはなかなか難しい問題です。ひとつ前の質問で約1億年と書きましたが、効率や取り出し技術などを考えると、その10分の1は厳しいけれど、100分の1はなんとかなるだろう、という程度の見積もりになります。この例のように桁数しかわからないということもよくあります。人の社会の尺度がせいぜい1万年ですので、それを十分に超えるならば枯渇しないと表現しても許容範囲だと考えて、言葉を選びました。共通認識があると誤解が生じにくいのですが、共通認識がない場合は書き手の責任で説明をきちんとする必要があると改めて感じます。

 

Q & A キム・ウンチュル先生『植物も眩しい時がある​​』

1. 研究する上で、大切にしていること、したいことは何ですか?

私が研究する上で、大切にしているのは集中力の源である「頑張ること」と持久力の源である「楽しむこと」です。「頑張ること」は自分の意地で左右されると思いますが、「楽しむこと」は一緒に共感及び協力してくださる方の存在がかなり大事だと思います。したがって、同僚を大事にし、お互いにプラスの影響を与える関係になることを大切にしています。したいことは、世界に少しでもプラスになる、せめてマイナスの影響はない人になりたいことです。

 

2. 研究することにどのような「やりがい」を感じられますか。

研究することで感じられるやりがいは新しいことを発見・究明したときの 「満足感」です。そして、その研究成果が他の研究者から引用され人類の自然科学知識の中で一つのビスになったと感じるときです。

 

3. 研究する上で一番大切にしていることは何ですか。

私が研究する上で一番大切にしているのは「事実(Fact)」をそのまま見ることです。人(私を含む)は流れや環境状態の影響で事実を主観的に解釈することが多いですが、私は事実をそのままにすることを大切に思って気をつけています。

 

Q & A 小林俊寛先生『多能性幹細胞を使った臓器の再生』

1. 多能性幹細胞の研究は盛んに行われているホットなテーマだと思います。その中で、臓器の再生に挑戦しているのは先生がおられた生理学研究所のみなのでしょうか。

 

臓器の再生は生理学研究所に限らず国内外の多くの研究室で様々な研究が進められています。オルガノイドと呼ばれる小さな臓器様の構造体を試験管内で作り、薬の評価や、移植による治療に用いる研究も最近とてもホットな研究の一つです。また胚盤胞補完法に関しては 2010年に私たちが東京大学医科学研究所の中内啓光先生の研究室でラットの iPS 細胞からマウスの体内で膵臓を作り、動物体内での臓器再生の可能性を示して以来、この約10年間で様々な臓器の再生が世界中の研究室から報告されてきました。大型動物の中でヒト臓器の再生を目指した研究では国際的に激しい競争が進められています。

 

2. 講演の中で倫理観の話がありましたが、今後、倫理的な許容範囲が広がることは考えられますか。また、どのようなきっかけ、社会の変化で、そのような変化は起こると考えますか。

 

社会の変化に応じて許容範囲が変わることは十分に考えられます。例えば 1970 年代にイギリスで初めて体外受精によって元気な赤ちゃんが生まれたとき、”ヒトは神の領域を侵した” と大きな反響を呼びました。しかし今では約 16 人に 1 人が体外受精を経て生まれた子どもであることからも一般的な技術になっています。そこには科学者による慎重かつ丁寧な説明とそれに対する社会の理解および成熟があったかと思います。一方で、歴史を振り返ると、有効な技術・治療法であっても科学者の暴走により逆に大きな拒絶反応がもたらされ、結果として患者さんに届くのが大きく遅れてしまった事例も多々あります。功を焦らず、有効性や将来性と共にデメリットも含め正確かつ堅実に示し続けていくことが重要かと思います。

 

3. 特定の臓器が作れない胚盤胞はどのようにして作ることができますか?

 

今回の講演では話を分かりやすくするために細かくは説明しませんでしたが、実は特定の臓器が遺伝子の欠損により作れない動物というのはその多くが生後、臓器がないために育つことができません。そこで臓器が作れない胚盤胞を作るためには、父母から受け継いで 2 本ずつある染色体のうち一方の染色体にある遺伝子だけを欠損させた動物を雌雄用意します。これらは半分の遺伝子はありませんが、もう一方の正常な遺伝子が補ってくれるため成長可能です。この雌雄をかけ合わせることで 1/4 の確率で染色体上の両方の遺伝子を欠損し、後に臓器の作れない動物になる胚盤胞を得ることができます。またあらかじめ遺伝子操作により投与された薬剤に応答して発生段階で臓器が作れなくなるような遺伝子改変動物もあり、そのような方法で臓器が作れなくすることも可能です。

 

4. もともと人体にない臓器を別の生物から取り込んで、新しい機能として獲得することはできるのですか。

 

例えばヒトやマウスには胆嚢という、脂肪の消化に必要な胆汁を一時的に貯めておく袋構造があります。しかしながら、ラットはマウスと同じ齧歯類であるにも関わらずそのような構造を持っていません。一方で、マウスとラットのキメラを作ると、ラット由来の細胞をもつ胆嚢があるキメラが産まれてくることがあります。そのためラットの細胞自体は本来、胆嚢の細胞を作り出せる能力を持っているけど、何らかの理由でラットの体内ではそれが抑えられているのかもしれません。そのように環境を整えれば、もしかしたら新しい機能をもった臓器ができるかもしれません。

 

5. 「脳細胞」を再生することは将来的に可能ですか?

 

胚盤胞補完法での脳の再生は、マウスにおいてですが 2018 年にアメリカのグループからNature 誌に報告されています (https://www.nature.com/articles/s41586-018-0586-0)。

 

6. 将来的には一人の完全な人間を作ることも可能になるのでしょうか。

 

倫理的・社会的に許されるかは別として、理論的には可能になるかもしれません。例えばマウスでは、臓器の作れない胚盤胞ではなく、胎児になる部分が成長しない胚盤胞にマウスの ES 細胞や iPS 細胞を移植すると、キメラではなく完全に ES 細胞・iPS 細胞由来のマウスが生まれてきます。またパネルディスカッションでも取り上げた発生可能な胚盤胞自体を ES 細胞・iPS 細胞から作ることができれば、個体を作ることも可能なるかもしれません。ただしヒトの場合、作製した胚盤胞を体内に移植して発生させることは国際幹細胞学会 (ISSCR) により禁止されています。

 

7. キメラのお話をされていましたが、もともと人体に存在しない臓器や器官(ロレンチーニ器官やピット器官など)を、発生段階から取り込んで新しい機能として獲得することは可能でしょうか。

 

4. の質問にも関連しますが、そのようにプログラムした細胞を発生段階から取り込ませれば可能かもしれません。

 

8. 1つの脳細胞から、脳全体を再生することは将来的に可能でしょうか。再生できるとすれば、記憶や人格も再生できるのでしょうか。

 

1つの脳細胞そのものから脳全体を再生するのは難しいかもしれませんが、例えば 1 つの脳細胞に山中因子を加えて iPS 細胞にすることで元の脳細胞と遺伝的に同一の脳を胚盤胞補完法によって作り出すことはできると思います。ただし、特に記憶のような後天的に獲得するものが再構築されるかは疑問ではありますが、人格に影響するような遺伝情報があれば作られた脳およびそれを持つ個体に一部受け継がれる可能性があるかもしれません。

 

9. 研究を進めていきながら、自分の中で「こんなところが成長したな」と感じることはありますか。

 

成長したかは分かりませんが、国内外様々な研究期間で研究を進めながらいろいろな経験ができたと思います。もちろんうまくいったことはほんのわずかで、実験に関していえば、試薬の入れ忘れや分量を間違える等の本当につまらない失敗や、時間と労力をかけたにも関わらずうまくいかなかった実験等、とても多いです。しかし自分が失敗した経験が人に教えるときに役立ったり、うまくいかなかったデータが思わぬところで使われたりと、本当に無駄になることはないような気がします。やらない理由を探すよりまずやってみる (←恩師の言葉です) という精神でいろいろと経験してみるのはとても重要だと思います。

 

10. ラットの体内でマウスの臓器ができた場合、ラットの免疫系はその臓器を「異物」として攻撃したりしないのでしょうか。

 

基本的には免疫細胞が未熟な胚や胎児の時期に異なる動物種の細胞が共存していることで、それらを自己とみなして攻撃しなくなるため、臓器ができても攻撃されることはありません。これを免疫寛容と言います。ただし、キメラ動物が成長するにつれ、組織によっては免疫反応と思しき症状が見られることがあるので、そうした部分ではこれまで分かっていなかった排除する仕組みもあるのかもしれません。

 

Q & A 矢木真穂先生『タンパク質の“かたち”から病気のメカニズムを探る』

1. アミロイドβは認知機能に関わる特定の神経のみに沈着するのでしょうか。例えばαシヌクレインであればその沈着場所によりパーキンソン病やDLBと別の疾患を引き起こすと認識していますが(これは正しいですか。)、もし、アミロイドβが特定の神経のみに沈着するならば、それはなにによって決まっていますか。このタンパク質の構造などが関わっているのでしょうか。

 

2. アミロイドβは認知機能に関わる神経のみに沈着するのでしょうか?例えばパーキンソン病やDLBを引き起こすαシヌクレイン等はその沈着場所により異なった症状を引き起こすと認識していましたが,これは正しいのでしょうか?また,アミロイドβが特定の神経のみに沈着するとするならば,そのことに構造などがかかわっているのでしょうか。

 

※1と2はほぼ同じ質問なのでまとめて回答します。

αシヌクレインはレビー小体の主な構成成分ですが、パーキンソン病では主に脳幹の黒質や青斑核などにレビー小体が認められるのに対して、レビー小体型認知症(DLB)では脳幹に加えて大脳にもレビー小体が見られるのが特徴と言われています。確かにαシヌクレインの沈着場所により異なった症状を引き起こすと言えます。

アミロイドβ(野生型)の場合は、主に海馬や大脳皮質に沈着してアルツハイマー型認知症を発症すると考えられています。アミロイドβが神経系に沈着するのには様々な要因があると思いますが、その1つとしてGM1ガングリオシドと呼ばれる神経細胞膜上に豊富に存在する糖脂質の存在が挙げられます。アミロイドβはGM1ガングリオシドが集積したGM1クラスターに結合しやすく、GM1クラスターと複合体を形成して構造を変えることにより、凝集核ができ、アミロイド線維の形成が促進されると考えられています。そのアミロイドβの凝集核の構造は、まだ明らかとなっていません。その構造を明らかにしたい、というのがまさに私が取り組んでいる研究です。

一方、アミロイドβには複数の家族性変異型が知られており、アミロイドβ(変異型)の中には、神経細胞ではなく脳血管の内側や外側に蓄積して脳アミロイド血管症を発症し、そこからアルツハイマー病へと至るケースも知られています。したがって、アミロイドβも沈着場所により異なった症状を引き起こし得ると言えます。血管内壁や血管周囲の外膜、脳実質などにはそれぞれ異なる種類のガングリオシドが局在していること、また、アミロイドβ(変異型)はガングリオシドに対する結合特異性を有することが、変異体によってアミロイドの沈着部位と病症が異なる要因であると考えられます。現在、アミロイドβ(変異型)のかたちの変化に着目して、ガングリオシド認識の特異性の解明を目指しているところです。