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【Q & A 集】第31回自然科学研究機構シンポジウム ― 生きているとは何か? ―

印刷用ページを表示する 更新日:2021年4月8日更新
第31回自然科学研究機構シンポジウムバナー

Q & A

第31回自然科学研究機構シンポジウム「生きているとは何か?」の中で、視聴者の皆様より寄せられた質問に、講演者の先生たちが答えてくれました。

全ての講演者への質問

1. 物質と生物の境界はどこだと考えますか?(生きているとは何ですか?)

村田先生:決まった寿命があるかどうかかと考えます。生物の寿命はその生物において何回細胞が分裂できるかで決まります。物質であるウイルスは、その都度宿主細胞を変えるので寿命がありません。永久に増える癌細胞はどうかと言われると、とりあえず壊れた細胞と考えるしかないかと思います。

青木先生:現時点では、分子(DNA、タンパク質、脂質など)と細胞の間にあると思います。ただ、村田先生の紹介された巨大ウイルスや鈴木先生が話された極限環境生物などはちょうどこの境界あたりにいるもので、研究が進んでくると境界の位置が変わってくるかもしれません。

田中先生:代謝・複製・外界との境界の3要素をもつものを生物としたとき、それ以外が非生物と現段階では考えられます。クマムシの乾眠状態ではその一つの代謝が一時的に停止しており、この定義の中では、この状態も物質と考えられます。(田中)

鈴木先生:生体分子ではなく、生命は細胞システムとして動きます。自己複製が可能で、自立代謝可能なシステム、さらには、進化可能なシステムとして機能する点だと思います。

 

2. 素人です、生命の起源に興味があり質問します。ビッグバン発生で宇宙は無機質な物質で満たされてたと思います。しかし、現在には水も人間もいて有機物で満たされています。無機質な物質から水が生まれウィルスが生まれた理由が理解できません。あたかも石から猿が生まれたような話です。質問です、無機質な物質から水やウィルスが生まれたのは、なぜでしょうか?途方もない時間と空間の宇宙では科学で説明できないことが起こるのでしょうか?

村田先生:有機物は化学合成により無機物から作り出すことができます。このようなことから、途方もない時間と空間の宇宙ではそれが可能と考えます。そうでなければ、では有機物がどこから作られたのかというさらに悩ましい問題に直面することになるかと思います。

青木先生:あくまで個人的な妄想なのですが、生命の起源は、生き物かどうかよくわからない本当に原始的な物質の集まりだったのではないかと考えます。それが、偶然にも自己複製と進化をする能力を持ってしまったために、何十億年とかけて進化し、その結果、現在の地球に存在する多種多様な生き物が生まれてきたのだと思っています。ですので、無機質な物質から生まれてきた生き物を考えるうえで、この進化の過程を考える必要があると思います。これはまだまだ現在の科学でも解けていないことばかりで、とても興味深い内容だと思います。

田中先生:水の起源、アミノ酸などの生体物質の起源、生命の起源、それぞれ現段階でもいくつか仮説が挙げられています。また、ミラーのように「原始大気の組成から有機物はできるのか(化学進化)」といった仮説を実験によって確かめようした例もあります。地球を含めた宇宙や生物についての知見を得ていくことで、さらなる仮説を立て、それを検証していく。地球をもう一度作ることはできないかもしれませんが、科学は仮説の検証によって物事を理解していくことができる、と思っています。

鈴木先生:現在の知見では簡単には説明できません。しかし、様々な地球環境における反応、例えば、岩石―水反応、隕石衝突といったプロセスで、生命反応がなくとも有機物が作られる反応は確認できています。まだ、生命と有機物の間には距離がありますが、今後、科学的知見が収集されていく中で、徐々に明らかになっていくものと思われます。

 

3. マーグリスの共生進化説のように、細胞レベルの進化(変化)はこれまで何回も起こり、うまくいったことも失敗(絶滅)したこともあると思います。また、絶滅しない生物はいないという真理もあります。コロナ禍で深刻な事態でこんなことを言うのも不謹慎ではありますが、今がそのとき・・ではないですよね?映画「復活のとき」はまさに今を暗示する黙示録の如き言う人もいたりします。1人で介護の年寄り2人を抱えて生活していると不安しかありません。ウィルスワクチンの安全性と、治療待ちの困難と苛立ちで辛いです。

村田先生:コロナ禍の問題は、これまで出会うことがなかった生命体がたまたま出会ってしまったため、一時的な混乱が生じているだけで、生命の永い営みにおいてはそれほど大きな変革ではないと思います。

青木先生:ウイルスと同様に、人間もまた進化をする生き物ですので、このウイルスに打ち勝つ、もしくは共存できるように進化できるのではないかと信じています。(青木)

田中先生:生き物は常に環境変化に晒されています。この場合の環境は、自身をとりまくものすべてを指しています。一定期間生存できなければ、少なくとも次世代を残すこともできないため、種としての存続が危ぶまれます。そのため、生物も常に変化していく必要があり、その変化が環境変化に対して適応的であれば生存の可能性が高くなります。ヒトは一世代が長い生き物なので、遺伝的な変化ではなく、行動や技術によってそのような適応をする生き物の一つだと思います。

鈴木先生:現在、無症状感染者もいるように、これまでのウイルスー人間の共存の中で、人間も多様な免疫システムを獲得してきています。さらに、人間は、これまでの研究開発で、ワクチンを作ることに成功してきています。よって、コロナに打ち勝つ道筋は見いだせると思います!

 

4. なぜ人間の寿命は100歳を大きく超えることがないのでしょうか。

村田先生:細胞が分裂できる回数は、生物によってそれぞれ決まっていて、人間では百年ぐらいでもはや分裂しなくなるというとこかと思います。

青木先生:人間の寿命に限界があるかどうか、については現在でもまだ研究者内でも結論がでていないようです。今後の生命科学研究に期待ですね。

田中先生:生物の体は細胞や組織・器官からなっており、その各所で維持・修復がおこなわれています。この恒常的な働きの中にもわずかなエラーが存在しており、その蓄積がシステムの老朽化につながり、やがて機能が停止してしまうのだと考えられます。細胞レベルでも分裂回数の限界があることは知られていますが、器官や個体レベルでは制御系や連絡部分の老朽化が原因ではないかと思います。また、生き物による違いは、サイズ・温度・酸素消費量など様々な要因が絡んでいるのだと思います。

鈴木先生:細胞は可能な分裂回数があらかじめ規定されていると考えられています。それをうまく伸ばすことができれば、超えてくることができるのかもしれません。

 

5. 生物に関する様々な分野を深く研究されている皆様にとって、改めて生物の多様性の意味、またそれぞれの生物の存在意義について俯瞰的にどのように考えられているか?

村田先生:生物の多様性の意味は一言で言えばリスクの分散かと多います。多様化することで、全体が一度に絶滅してしまうのを防いでいると思います。生物の存在意義は、まずはだれに取っての存在意義かということを考えないといけないと思います。例えば人類にとっての生物の存在意義は、食糧を産み出し、老廃物を分解してくれることかと思います。

青木先生:生き物にとって生物の多様性は本質的です。多くの場合、多様性が失われると環境の変化に対して適応できなくなります。これは1つの種内の多様性の場合も同様です。ですので、人間同士もそうですし、人間以外の生き物に対しても多様性を維持、保護し、許容しあえる環境が続くとよいと考えます。

田中先生:現在の生物の多様性は、各環境に適応した進化の結果だと思います。さらに、各生物種それぞれが他の生物種と共存・共生・寄生などをおこなうことで、生息できる環境を構築し、環境そのものの多様性も増していきます。この多様性が増加する一方なのか、それともなにか制限があるのかは大変興味深い問題だと思います。

鈴木先生:我々が、植物が提供する有機物、酸素を利用して生きているように、地球に生きる生命は、様々な形で共存しています。多様な生命は、様々な生命の住処に適応し、役割を果たしていく中で、現在も進化・適応を繰り返しています。多様な生命が生み出されたのは、同じ地球環境を共有するものたちの役割分担結果であり、それが存在意義にもなっていると思います。

 

6. 最近のパンデミックは100年前のスペイン風邪で世界で5000万人位死亡、その時の世界人口は19億人です。今の世界人口は78億人で、まさに人口の爆発的増加でこれがコロナウイルス感染の引き金の要因の1つです。科学的、平和的、人間的解決が必要です。

村田先生:コロナウイルスパンデミックの問題は、まずは世界中での人の移動が容易になったことが原因かと多います。自然免疫を獲得するとともにワクチンなど科学療法を用いて最小限の被害で乗り越えるしかないかと思います。

青木先生:今、世界中の研究者や医療従事者たちがコロナウイルスに立ち向かっています。この1年間にかつてない勢いでコロナウイルスの研究がすすめられ、ワクチンの開発にも成功しました。人類の英知を結集することで、このパンデミックも乗り越えられると信じています。

田中先生:感染症の感染確率は比較的狭い範囲での人口密度に依存するとは思いますが、実際に感染するかは行動様式などによるのではないかと思います。ヒトのような社会性動物は、分業などのメリットの代わりに、感染症感染のリスクを背負っているのだと思います。

鈴木先生:人口増加とともに人口密度が高くなり、かつ、人間の移動がさかんになった結果、以前よりウイルス感染が拡大しやすい状況ができていることは間違いありません。今後も、様々なウイルスが出てくるかと思います。その都度、科学的知見に基づき、問題に対処していくよりほか、方法はないかと思います。今回の新型コロナウイルスとの戦いにおいても、人類は多くの科学的知見を手にしています。それが、大きな武器になると思います。

 

7. ウィルスと細胞のどちらが先に誕生したのでしょうか?現在の主流説はどちらでしょうか。また、その根拠をお教えください。

村田先生:進化がより単純なものからより複雑なものへと進むと考えた場合には、ウイルスの原型(核酸のかたまり)のようなものが先にあって、これが油滴のような一種外界とは隔絶された環境の中に取り込まれたと考えるのが、考え易いかと思います。(村田)

青木先生:専門ではありませんので、わかりません・・・。でも、たぶん、細胞が先なのではないかなと思います。(いわゆる現在の定義でいうところの)ウイルスですと、自分だけで自己複製できずに、どこかの細胞に自己複製やタンパクの合成などの装置を間借りしないといけません。しかし、大昔のウイルスは自己複製できたかもしれないという可能性も否定できません。面白い問いだと思います。

田中先生:細胞が先だと考えられます。それが現在の細胞とまったく同じであるかは不明ですが、ウイルスには完全な複製系が存在せず、細胞のものを利用していることから、ウイルスの発生のほうが後であると考えるのが妥当だと思います。また、寄生体の中には、縮小化を進めるものと、宿主から遺伝子を取ってくるものが知られており、一般的なウイルスと巨大ウイルスの違いはそこなのではないかと思います。よって、ウイルスは細胞より単純な構成ではあるけれど、その発生は細胞より後なのではないかと考えています。

鈴木先生:ウイルス単独では、自己増殖できないことから、細胞が先だと考えられています。

 

8. 現在主流の生命の定義を教えてください

村田先生:これは特に昔とは変わっておらず、講演でも度々出てきたように、(1)外界と隔たれていること、(2)自身で代謝すること、(3)自身で複製すること、と思います。

青木先生:現在の主流の考え方は、(1)自己複製できること、(2)エネルギー代謝があること、(3)外界との境界をもつこと、です。

田中先生:多くの定義が提案はされているのですが、「細胞により外界との領域を区別すること」、「代謝をおこなうこと」、「自己複製できること」の3つが軸になっていると思います。「進化可能である」や「環境に適応する」といった文言が追加されることもあります。しかし、それぞれが「生命定義における細胞とはなにか?」「代謝とは何か?」「自己複製とはなにか?」「進化とはなにか?」という疑問が次々に出てくるように思います。この言葉の曖昧さが各研究者を納得させられない要因であり、今後も研究者がこの定義を考え続けなければいけない理由でもあると思います。

鈴木先生:自己複製が可能であること、自己代謝が可能であること、外界と隔たりがあること、が基本的定義だと思います。

Q & A 村田和義先生「巨大ウイルスから物質と生命との境界を探る」

​1. ウイルスの酵素の活性中心における金属の種類と機能について教えてください。

ウイルスもまた多くの酵素の遺伝子を持っており、それぞれの酵素における金属種と機能は多様で、細胞のそれと変わりません。

 

2. 研究のモチベーションはどこにあるのか教えてください。

これまで誰も見たことがないウイルスの構造や形態を見ることで得られるインスピレーションです。

 

3. 最近の研究によると、ウイルスは人間にとって善悪の意味があるようです。ということは、ウイルスにとって生殖本能の他に生きる目的・意味は何であると考えられますか?

生物にとってのウイルスの最大の意味は、ウイルスによる遺伝子の水平伝搬が生物の進化を加速させるということかと思います。

 

4. 村田先生のお話、とってもおもしろいです。大大大応援しています!以下のことを、シンポジウムで、私たちに教えていただけないでしょうか?ピソウイルスが生物から退化したのでは?と考える訳を教えてください。ウイルスの大型化は、ウイルスにとって何かのメリットがあるのでしょうか?

ピソウイルスでは、本来ウイルスには見られない(ウイルスにとって必要かどうかわからない)特徴がいくつも見られました。これらは、ウイルスが独自に獲得した形質もしくは、宿主細胞からすべてもらったと考えるよりかは、細菌時代の名残と考える方が、考えやすいかと思っています。

 

5. ウィルスは生命から飛び出したものなのか、生命の誕生の元になったものなのか、まだ分かっていないのでしょうか?それとも、ウィルスが生命に依存しないと複製できないという事実だけで、生命の元になった可能性は皆無と考えられているのでしょうか?私は、進化が一般的に単純なものから複雑なものへと変異や融合を繰り返してきたことを考えると、元になった可能性も否定出来ないように思えるのですが。

ウイルスと生物との進化の関係はまだわかっていません。今回提案させて頂きましたように、(1)ウィルスは生命から飛び出したとの考え方、(2)ウイルスが生命の誕生の元になったとする考え方、さらには、(3)ウイルスは生物の3つのドメイン(真核生物、真正細菌、古細菌)のいずれにも属さない第4のドメインであるとする考え方(ブルーバックス「巨大ウイルスと第4のドメイン第4のドメイン」武村政春著)などがあります。いずれかは今後の科学の新たな発見に期待したいところです。

 

6. 今日バイオミメティクス関連の研究が注目を集めているという印象があるのですが、ご自身の研究を通してどのような技術に応用できるとお考えですか。

いろいろ考えられます。簡単なところでは、例えば巨大ウイルスはアメーバに感染して破壊しますので、コンタクトレンズの消毒液として使えるかもしれません。さらに高度なところでは、今回お話ししませんでしたが、巨大ウイルスの多くはウイルス工場(Virus Factory)と呼ばれる独自のウイルス核のようなものを宿主細胞の中に作って増殖します。通常は、その後宿主細胞を破壊して外に出ていきますが、この状態を維持できれば、宿主細胞を完全に乗っ取ってウイルス細胞へと変えてしまうことも可能です。このようなことは、人工細胞の作製などへ応用できるかもしれません。

 

7. ウイルスは種を残せますか?

ウイルスは、感染という手段を使って種を残しているため、現在の多様なウイルス社会があると思います。

 

8. ク​ライオ電顕の作業は細胞など傷つかないのでしょうか?

クライオ電顕は、これまでの電子顕微鏡の生物試料の調製に比べると格段に生物自体への影響が少ない方法です。もちろん、急速凍結寸前の溶液の表面張力によって細胞が物理的に変形を受けることはありますが。

 

9. 凍った資料は膨張しないのでしょうか?

電子線を照射すると、膨張してバブリング(気泡化)が起こります。クライオ電顕でその様になる前に画像を記録します。よって、撮影後の試料は壊れています。

 

10. 巨大ウイルスは人間に悪さしないのでしょうか?

現在のところはその様な確かな報告はありません。

 

11. 進化に逆行というより、単純化も進化なのではないでしょうか?

確かのその通りです。講演では、進化をより単純なものから複雑なものへと定義した場合に、巨大ウイルスで見られる形態は「進化に逆行」するように見えました。巨大ウイルスにとっては、無駄なものを削ぎ落とすことでより進化したと言えるかもしれません。

 

12. 巨大ウイルスの型が違うと構成タンパクの種類に影響するのではないでしょうか?

はい。ピソウイルスなどの壺型ウイルスでは、構造タンパク質の構成は全くことなると思います。これはまだ明らかになっていませんが。これに対して講演でお話しした正二十面体ウイルスでは、基本的に正三角形を作るタンパク質の使いまわしで殻ができています。ただ、殻が大きくなるにつれて多少補強用のタンパク質が必要になって来るようです。また、レンガ型と言われるワクチニアウイルスでは、前述の正三角形をつくるタンパク質がそのまま使われていることがわかっています。

 

13. 大きい塩基対を取り込むために巨大化したのでしょうか、それとも巨大化するために大きい塩基対が必要だったのでしょうか?

大きい塩基対を取り込むために巨大化したと考えられています。巨大ウイルスが持つ遺伝子の多くが構造を作るタンパク質をコードするものではないからです。

 

14. ご講演の中で,一般に生物とは栄養などを取り込んで自己複製するものと定義されている旨,ウイルスは生物ではない旨,村田先生は特に大きなサイズのウイルスを研究されてきた旨を伺いました.今後の研究で,サイズの大きなウイルスが生物だとみなされる可能性はありますか?それとも,今後も生物とウイルスの境界線の方が変化して,ウイルスは永遠に非生物とみなされるべきだと考えますか?村田先生の個人的な意見を伺いたいです.

私の意見としては、ウイルスはどんなに巨大化しても非生物とみなされるべきだと思います。逆を言うと今後さらに小さな生物が発見される可能性もあります。生物の定義が、「自己複製」「自己代謝」にある以上、これは踏襲して、その上で、巨大ウイルスや極小生物とかがなぜ存在するのかを議論した方が、科学的に有意義であると思います。

 

15. 生命の進化の中で、単純化が起こったという根拠となる理由や、意義が知りたいと思います。

先の質問でも書きましたが、巨大ウイルスでは、本来ウイルスでは見られない(ウイルスにとって必要かどうかわからない)特徴がいくつも見られました。これらは、ウイルスが独自に獲得した形質もしくは、宿主細胞からすべてもらったと考えるよりかは、細菌時代の名残と考える方が、考えやすいかと思います。これが、単純が起こったと考える理由です。意義は、巨大ウイルスに聞いてみないとわかりませんが、「それがなくても子孫は残せる」と言うことかと想像します。

Q & A 青木一洋先生「光で生命の本質に迫る」

1. 物理学に興味があり、宇宙論や素粒子の分野では、物理法則(方程式)で多くの自然現象が説明されことに魅力を感じています。生命現象についても、物理法則で説明することは可能でしょうか?物理学者リチャード・ファインマンの言葉を引用されている青木先生に質問いたしますので、よろしくお願いいたします。

生命現象の多くのことは物理学で説明がつきます。分子の拡散現象、神経細胞の活動電位、モーター分子(自己駆動するタンパク質分子)、細胞・組織の力学特性などは生物物理学と呼ばれる分野の研究対象です。一方で、物理学でもまだまだ分からない生命現象も残されていると思います。例えば、意識とか心とかでしょうか。生命現象を物理としてとらえることで、なにか新しい物理学の地平が拓けることが期待されます。

 

2. 分子遺伝学などで、エピジェネティクスについてもがキーを握っているそうですが、ERK意外にも、リン酸化に関わる酵素はありますか?細胞の運動はERKによらないリン酸化でも起こるのでしょうか?

ERK以外にも500種類ものリン酸化酵素がヒトの細胞には存在することが知られています。細胞の運動は多くの分子が協調してやっと成り立つ現象です。そこにはERK以外にも様々なリン酸化酵素が働くことが分かっています。

 

3. とても野心的な研究で、非常に興味が惹かれました。青木先生の研究は、生命の決定論的な理解という趣が強いように感じました。一方、分子と細胞の間には熱揺らぎがあり、この不確実性を利用した情報処理が、生命らしさとも言えると思います。青木先生は、生命の不確実性に対してどのような興味をお持ちでしょうか。

熱揺らぎや不確実性、とても興味深いです。今回のシンポジウムでは、おっしゃる通り、決定論的な話が多かったですが、実際には確率的な変動(時間的なゆらぎ)や細胞間の不均一性(集団としてのゆらぎ)に焦点を当てた研究も行っています。生命の不確実性は生物の適応戦略にとって非常に重要であり、本質的な問題だと思っています。

 

4. 細胞シュミレーターに関して、AIでも無理なのでしょうか

もしかしたら、将来、ものすごいAIが誕生し、細胞シミュレーターを勝手に作ってくれるかもしれませんし、このようなアプローチで研究を進めておられるかたも存じ上げています。予測性能の高い細胞シミュレーターを作るには、十分な定量性をもったデータがまだ足りないと考えていて、私たちは定量的なデータの取得を日々行っています。

 

5. トカゲの再生能力って、なんで秀でているんでしょうか?

これは基礎生物学研究所の所長の阿形清和先生に聞かれたほうがいいかもしれません。阿形先生はトカゲよりも再生能力が高いプラナリアの再生機構を研究されています。トカゲもプラナリアもどちらも再生能力が高いのは、進化の過程で再生能力 が高いことが有利であったから、と答えることができます。ではなぜトカゲやプラナリアがほかの生き物よりも再生能力が秀でているのかと言われると、それはまだまだ分かっていないのだと思います。

 

Q & A 田中冴先生「最強生物クマムシの仕組みを解き明かす」

1. クマムシは月で生きていけますか?

液体の水と酸素がないとされる月での生存は難しいと思われます。また、クマムシは従属栄養性の生き物なので、エサとなる生物も同様に生存している必要があります。この点からも、月での生存は難しいと言わざるを得ません。

 

2. 生命にとって必要不可欠なものとして、水の他に空気(酸素)があると思います。クマムシの空気に対する耐性はどのようなものでしょうか?また、光(波長)、音波(周波数、振幅、波形 )、放射線などに対する耐性はどのようなものでしょうか?

酸素は、クマムシを含め、好気性の生き物にとって必須ですが、生体物質を酸化させてしまうという面もあります。ですので、乾燥耐性状態の生物を保存する際は、酸素を取り除く処置をすることもあります。電磁波については、ガンマ線やX線などにも耐性がある一方で、宇宙空間での短波長UV(280nm未満)の照射は乾眠個体であっても致命的であることが報告されています(Jönsson et al. 2008)。

 

3. 陸生クマムシは種によって耐乾性が異なるようですが、その違いは何に起因しますか?

乾燥耐性の強弱は、急激な乾燥に耐えられるか否かで定義されています。乾燥耐性の強いヨコヅナクマムシと弱いヤマクマムシの比較から、クマムシにおける耐性の違いは遺伝子の発現誘導の有無によるところが大きいと考えられています (Yoshida et al. 2017)。また、分子メカニズムそのものの違いもあるかもしれません。

 

4. クマムシにビームのような物を当てていましたが、遺伝子組み換えを起こすのは、体細胞ではなく卵細胞に起こすのでしょうか。また、ヒト培養細胞へのクマムシタンパク質注入実験の結果はどうなったのでしょうか?

顕微注入はガラス針で溶液を注入する手法です。現在は細胞種の区別なく、遺伝子編集が可能かを検討しているところです。ヒト培養細胞へのクマムシタンパク質導入の結果、わずかですが高浸透圧耐性が向上することが確認されました(Tanaka et al. 2015)。

 

5. 最後の方で高浸透圧ストレスという言葉が見えたのですがヨコヅナクマムシにおける体液の等張液はわかっているのでしょうか?高校でヤマクマムシを用いた研究をしているため気になりました。回答いただけたら嬉しいです。よろしくお願いします。

以下の論文で複数種のクマムシの体液中のイオン組成が記載されています。

Inorganic ion composition in Tardigrada: cryptobionts contain a large fraction of unidentified organic solutes,Kenneth Agerlin Halberg, Kristine Wulff Larsen, Aslak Jørgensen, Hans Ramløv, Nadja Møbjerg, Journal of Experimental Biology 2013 216: 1235-1243; doi: 10.1242/jeb.075531

 

6. 極限環境耐性は進化の過程において、別れた後に取得したものなのでしょうか?もしくは不要なので失ったのでしょうか?

界や門をまたいで乾燥耐性があることから、生物は基本的に乾燥耐性のポテンシャルがあると考える研究者もいますが、各種が使用している分子が同一ではないことからある程度進化してから複数回獲得されたと考えるのが妥当ではないかと考えています。

 

7. DNAは放射線耐性があるのでしょうか?

クマムシのDNAのそのものは他の生き物を同じだと考えられますが、クマムシのDNAを保護すると考えられるタンパク質は同定されています(Hashimoto et al. 2016)

 

8. クマムシは、何億年前からいるのでしょうか?

カンブリア中期ごろと推定されるクマムシの化石がみつかっているようなので、そのころにはいたと考えられます(Muller et al. 1995)。

 

9. カブトエビもそうなのでしょうか?

アルテミアと同じくトリオップス(カブトエビ)も休眠卵では乾燥耐性があります。

 

10. 乾燥から復活した個体は、果たして乾燥前の個体と同じなのでしょうか?

乾眠復活後に記憶が残っているかという点は大変興味深いのですが、現時点ではクマムシの記憶を確認する方法がなく、未解明です。

 

11. 細胞の劣化はしないのでしょうか?

乾眠復帰の個体は、産卵も可能で寿命もほぼ変わりません。しかし、熱ショックタンパク質などの発現が上昇することから、乾眠前後でまったくダメージがないというわけではなく、修復機構もうまく使って乗り越えているようです。

Q & A 鈴木志野先生「極限環境生物から読み解く地球外生命の可能性」

1. もし宇宙の設計者が存在したならば、宇宙の中で生命をどのようなものとして位置づけていると考えられるのでしょうか?鈴木さまの研究を通してのご見解があればお願いします。

設計者だとしたら、客観的に見て、生命はとても楽しい存在だと思います。地質学的反応と比べ圧倒的に反応が早く、また、それらがどんどん進化していくからです。ペットのような存在かもしれません。

 

2. 地下数キロの岩盤中に微生物発見と仄聞。極限環境微生物の典型と言えると思う。その示唆するところを教示されたし。地球を特別視する視点は捨てるべきと愚考するが如何。

ようやく生命探査を推し進める時代へと突入しました。太陽系内に多くの探査機が飛ばされています。また、望遠鏡の技術開発も進んでいます。今後、地球外生命に関しては、新たな知見が出てくるものと期待されます。そして、もし、地球型生命が他の天体にも存在するとしたら、地球における惑星の類似環境に生きる極限微生物のような生命が存在するのではないかと考えています。

 

3. CPR?はアミノ酸を作れないという事は、たんぱく質なしで生命活動を行っているのですか?NASAの生命の定義、自己保存、進化、自立代謝と従来の定義、代謝 自己複製 内外の境界 とはどのように違うのですか?

CPRは、アミノ酸は作れませんが、タンパクを作ります。このことはすなわち、ほかの微生物からアミノ酸を含む各種生体分子をもらっていると考えられます。よって、非常に他者への依存度が高い共生的な生命であると考えられます。一方で、自己複製・自己保存が可能です。また、最低限の代謝も可能である可能性が高いです。よって、生命の最低限の定義は満たしていると考えられます。定義としては満たしていますが、やはり、我々の生命の知見では、この生命を説明するに不十分なところは多々あります。

 

4. 極限環境で生きている生物では、遺伝子の欠損がみられるということですが、それは初めからなかったのでしょうか?それとも村田先生の話にあったような単純化によるものなのでしょうか?

極限微生物の多くは遺伝子を欠損していく進化(ゲノムの合理化)がおきたと考えられます。なぜなら、ゲノムサイズが大きければ大きいほど、コスト(エネルギーや栄養)がかかるからです。一方で、CPRのように、その仲間全体でゲノムサイズが小さいような微生物はもともとゲノムサイズが小さかった可能性があります。それに関しては、現在解析が進められています。

Q & A (複数の先生にあてた質問への回答はこちらです)

<村田先生&鈴木先生>

遺伝子数が1000以上のtRNAを有する巨大メガウイルス(非生物)が発見され、一方、遺伝子数400のパークバクテリアやOD-1(生物)が発見され、いずれも、集団で、QS(クオーラムセンシング)を行う共通点も見られ、生存生物と非生物の境界につき、現状の生物定義(代謝、自己増殖、膜)を見直す必要がありませんか?

村田先生:私は、これらのことで現状の生物定義を見直す必要は特にないと考えます。これらの発見でわかったことは、生物と物質との境界は、単純なサイズでは規程できないと言うことでしょうか。逆に、なぜそのような規格外のものが存在するのかを議論した方が科学として有意義かと思います。

鈴木先生:現時点では、現在の定義で説明できる範囲内にはあると思います。定義を見直すことは、いつでも可能です。もう少し、多様な生命の科学的知見が集まってきたときに、より正しく生命を定義していくことができるようになるかもしれません。

 

<村田先生&田中先生>

我々の持つ意志の力はどこらへん辺りの生物から所有しているのでしょうか?クマムシの餌は何ですか?

村田先生:意志は、非生物であるウイルスから存在すると思います。宿主生物に感染して子孫を残そうとするウイルスの営みや戦略は、十分にウイルスの意志と考えても良いのではないでしょうか。

田中先生:他種の動物における知性や意識などの研究は多くありますが、その評価は大変難しいのではないかと思います。”もしライオンが話せたとしても私たちには理解できないだろう”とヴィトゲンシュタインは記しているようですが(動物の賢さがわかるほど人間は賢いのか 紀伊國屋書店, 2017/8/29, フランス・ドゥ・ヴァール (著), 松沢哲郎 (監修), 柴田裕之 (翻訳))、各生き物の思考をヒトと同じ領域で捉えられるかは私も疑問に思うことがあります。サルなどの近縁種や、イヌなどの関係性の深い生き物についてはヒトの行動パターンなどと比較できるかもしれませんが、クマムシなどのまったく異なる環境に生息する生き物については思考があるのかないのかすら、現在の科学では明らかにすることはできないと思います。

また、肉食クマムシは線虫などの体液を、草食クマムシはコケを食べていると考えられています。研究室ではクロレラという緑藻を与えて飼育しています。