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第18回自然科学研究機構シンポジウム Q&A

第18回自然科学研究機構シンポジウム Q&A

第18回自然科学研究機構シンポジウム
生き物たちの驚きの能力に迫る
(2015年3月22日開催)
講演者への質問とその回答

当日参加者の皆様から寄せられた質問に対する講演者からの回答です。


※頂戴した質問の中には、一部回答できないものがございました。ご容赦をお願いします。


Q1:

  1. TRPとHSP(Heat shoke Protein)は、何か関係がありますか?
  2. ワニはなぜ遺伝子組み換えが出来ないのですか?
  3. ロケットの打ち上げで、周辺の水質がPH0.5になるのは問題だと思うのですが、何か対策はあるのですか?

A1:

  1. 温度の情報を細胞に伝えることができるという点で似ています。
  2. 研究室での飼育が困難なことと、卵が生まれるまで5年から10年かかってしまうからです。
  3. フロリダは石灰岩地帯ですので、水表面はPHが低くなりますが、24時間後には中和されて元に戻ります。
    (回答者:基礎生物学研究所教授・井口 泰泉様)


Q2:

  1. 捕食されにくくなるための突起が生じるメカニズム。(捕食されそうに親では無くて、その子孫が捕食されそうになった経験も無いのに突起を獲得するプロセス)
  2. 突起を持たないミジンコ(比較的捕食されやすい)が淘汰されない原因。

A2:

  1. ミジンコは自身が直接攻撃を受けなかったとしても、捕食者から放出される匂い物質(カイロモン)によって捕食者の存在を感知することができます。母親の背中にある卵がカイロモン感受すると、その卵からは突起を持った幼生が生じます。
  2. 突起を作るためにはその分エネルギーを消費します。そのため捕食者がいない環境では突起を作らないほうが有利になります。
    (回答者:基礎生物学研究所教授・井口 泰泉様)


Q3:性決定には遺伝子型と環境依存型があるということですが、もともとは環境依存型で環境変化の中で遺伝子に突然変異が出現し、遺伝子型が生まれたと考えてよろしいのでしょうか。

A3:爬虫類の祖先は環境依存型と考えられていますが、遺伝型性決定がどのように出現したかはまだわかっていません。
(回答者:基礎生物学研究所教授・井口 泰泉様)


Q4:ワニの巣から卵を採取する際、ワニから襲われないのですか。
卵の置き方をかえると、卵が死んでしまう理由は何ですか?

A4:ミシシッピーワニの場合には襲われることはありませんが、親が回りにいないことを確認して巣に近づきます。ニワトリの卵には空気が入っており、さらにカラザと呼ばれる白い繊維が卵黄の部分にあり、卵を傾けても卵黄の向きが変わりません。しかし、ワニの卵には空気が入っておらず、カラザもありませんので、発生中の卵が傾くと、卵黄の重さで胚が死んでしまいます。ワニの卵を巣から取り出す時には、上になっている部分井マジックなどを使い、印をつけ、卵が傾かないようにして研究室に持ち帰ります。
(回答者:基礎生物学研究所教授・井口 泰泉様)


Q5:ある環境は雄しか産まれないということですが、その場合は種が絶滅することになりませんか?
どのようにして生存してきたのでしょうか?

A5:ミジンコの場合、環境悪化により雄ばかりが産まれるようになったとしても、雄は既に存在する雌(産みの親も含む)と交配することも可能です。また最近、ミジンコの雄誘導条件で飼育しても若い母親個体は雌も比較的多く産むことが分かっています。これは、まだメカニズムは不明ですが、ミジンコがある環境条件で雄ばかりになることを防ぐシステムではないかと考えています。
(回答者:基礎生物学研究所教授・井口 泰泉様)


Q6:環境によって雄が産まれる(雄の遺伝子を持つ)ことと環境ホルモンによって雄がメス化する(遺伝子は雄)ことは同じと考えて良いでしょうか。(遺伝子レベルと「様になる」ことは異なるのでは)
共通の原理はあるのでしょうか

A6:ワニの場合には、オスになる温度で卵を育てても、女性ホルモンや女性ホルモンの働きを持つ物質が殻から入ると、卵巣を持ったメスになります。この場合、卵に入った女性ホルモン作用を持つ物質の量が少なければ、精巣の発達が十分でない、中途半端な発生をします。ミジンコでは短日で育てればオスを産む系統が見つかりましたが、ミジンコはオスでも母親と同じ遺伝子セットを持っており、オスになる場合には、ダブルセックス遺伝子の発現が起こり、オスになります。オスになっても、母親と同じ遺伝子セットを持っていますので、オスとメスで特定の遺伝子の発現量がことなっています。
(回答者:基礎生物学研究所教授・井口 泰泉様)


Q7:

  1. 性決定の仕組みには遺伝子によるものと環境に依存するものがあるとのことでしたが、例えばミジンコのような仕組みは遺伝子のみの制御より優れているように思えますが、ワニのような温度の制御にはどんな利点があるのか分かりませんでした。現在も残る仕組みには何らかの利点があると思うのですが、温度による性決定にはどのような利点がありますか?
  2. ミジンコのネックディースは敵の有無に関わらず、ずっと持っておけばよいと思うのですが、なぜそうしないのでしょうか?

A7:

  1. 様々な説がありますが、今のところ誰もが納得する説明はできません。いずれにせよ、何らかのメリットはあるはずですが...。
  2. ネックティースを作るためにはその分エネルギーを消費します。そのため捕食者がいない環境では突起を作らないほうが有利になります。
    (回答者:基礎生物学研究所教授・井口 泰泉様)


Q8:

  1. 温度による影響よりも女性ホルモンの物質の影響を強く受けると仰っていましたが、メス化する物質だけではなく、オス化する物質も存在しますか?
  2. 温度差で性が決まる生物では、1対の親から生まれた性が決まる生物では、1対の親から生まれた個体の卵のおかれる環境は、比較的類似していて同じ性になりやすいということはりますが、あるとすればそのことは遺伝子の離れた個体が子孫を残す可能性を高めますか?

A8:

  1. 1.オス化をさせる物資としては男性ホルモンが考えられますが、実際にはメスになる温度で孵卵して、男性ホルモンを投与してもオスにはなりません。1対の親から生まれた個体の卵のおかれる環境は比較的類似していて同じ性になりやすいということになりますが、あるとすればそのことは遺伝子の離れた個体が子孫を残す可能性を高めますか?→その可能性はあります。
    (回答者:基礎生物学研究所教授・井口 泰泉様)


Q9:ミジンコの休眠卵はなぜ、有性生殖でのみつくられるのですか?

A9:休眠卵がどのようにしてつくられるかそのメカニズムはまだよくわかっていません。ですが、単為生殖で休眠卵を作るミジンコも発見されているので、必ずしも有性生殖のみで休眠卵ができるというわけでないようです。
(回答者:基礎生物学研究所教授・井口 泰泉様)


Q10:ミジンコはメスがメスを産む単為生殖でありますが、子孫を残すためにオスを産むことがあると御話しにありました。温度環境の変化により、近親相姦などで遺伝子が弱くなる=繁殖力が弱まることがあり得るのか、3日で30匹増える繁殖力より近親相姦も考えられるのでは?と思いました。

A10:ご指摘の通り、近親交配が繰り返されることで弱い個体が増加する現象(近交弱勢)は様々な生物で知られていますが、その影響の強さは生物ごとに様々です。ミジンコの場合は、池がひとつのクローンで占められていて競争相手がいない場合は同じクローン内で近親交配が繰り返されたとしても繁殖力が弱まることはほとんどありません。しかし、近親交配をしていないミジンコが競争相手として存在すると近親交配のミジンコは競争に負けて消えてしまいやすいということが報告されています。
(回答者:基礎生物学研究所教授・井口 泰泉様)

Q11:

  1. ミジンコの体の構造について質問させて頂きます。ミジンコの図を見せて頂いた時、ミジンコには脳が無いように見えました。では、ミジンコのオスとメスはどのように相手を見つけ交尾をするのでしょうか。
  2. ネックティースについての質問です。ネックティースの種類は、ミジンコの種類によって違うのでしょうか。それとも個体によってちがうのでしょうか。

A11:

  1. 複眼のすぐ後ろにミジンコの脳(神経節)はあります。ミジンコの様々な行動はこの脳からの指令で制御されていると考えられますが、詳しい仕組みはまだよくわかっていません。オスは近くを泳ぐ他のミジンコ(メスでもオスでも!)に無差別にしがみつき、交尾を試みます。反対にメスからオスに近づくような素振りは見られません。
  2. ミジンコの仲間の防御形態にはネックティース以外にヘルメットやクレストと呼ばれる防御形態が知られており、それぞれ異なる種がつくります。また、同じ種であった場合でも遺伝的に離れている(クローンではない)場合には防御形態の大きさや作りやすさに差がある場合があります。
    (回答者:基礎生物学研究所教授・井口 泰泉様)


Q12:なぜNASAはロケットの煙の影響を調べようと思ったのか?また、それは日本でもやっているのか。他の生物(ワニ以外)もしているのか?
温度センサーの遺伝子?タンパク質?はどのように温度を検知するのか?

A12:ロケットエンジンの排気ガスからは重金属やPCB類も出ている可能性がありますし、車のエンジンの排気ガスと同様に、パークロレイトという物質が出ています。これらの物質の生物影響を調べようとしたものです。日本ではパークロレイトがカエルの発生に対してどのような影響があるかを調べています。
局所的なTRPタンパク質の構造変化が起きて、カルシウムなどのイオンが細胞内に入ってきて細胞の状態が変化するため。
(回答者:基礎生物学研究所教授・井口 泰泉様)


Q13:ワニの性決定にTRPチャネルが関与しているとのことですが、例えば、ヒトのTRPチャネルを刺激するトウガラシのカプサイシンなどが結合することで性別が変化しえるのでしょうか?ワニとヒトでは発現するTRPチャネルが異なっているとは思うので、もしそのようなことがれば教えて下さい。

A13:今回ワニで見つけたTRPチャネルはカプサイシンとは結合しません(カプサイシンと結合するTRPチャネルもありますが、性決定に関わるか不明です)。
(回答者:基礎生物学研究所教授・井口 泰泉様)


Q14:ワニは、温度受容タンパク質によって、温度による性決定がなされるという御話でした。温度による性決定には、どのような意味があるのでしょうか?気候の変動で低温の時代(=メスばかり、高温の時代にオスばかり生じてしまったら都合が悪いように思います。どのような環境(季節)でもオス・メスが同じ割合で生じる方が好都合だと思いますがいかがでしょうか。

A14:様々な説がありますが、今のところ誰もが納得する説明はできません。ご指摘の件、ごもっともですが、そのような不都合な条件でもワニは古くから生き延びてきたので、驚きです。
(回答者:基礎生物学研究所教授・井口 泰泉様)


Q15:学校で学んだ際、そもそも節足動物の幼若ホルモンや脱皮ホルモンについての研究自体が歴史の浅いものなのだと知ったのですが、ミジンコのほかにもまだ詳しく(ホルモンのシステムや関与する遺伝子)解明されていないものがあるのでしょうか。また、ミジンコの産卵の様子の映像を見て、微生物の産卵の特徴などに興味をもちました。他の動物プランクトンと共通していたり特異的だったりする点があるなら知りたいです。ミジンコかわいい。

A15:教科書に書かれている節足動物のホルモンに関する記述は大部分がキイロショウジョウバエやカイコなどのモデル生物を用いた研究で明らかにされてきたことです。近年様々な生物を利用した研究が行われるようになり、その結果モデル生物で明らかとなったことが必ずしも全ての節足動物に当てはまるわけではないことがわかってきました。そのため、今後も様々な生物で研究が進んでいくことで、逆にわかっていないことがどんどん増えていくかもしれません。
「プランクトン」という言葉は浮遊生物を意味するので、非常に多様な分類群が動物プランクトンには含まれています。そのため産卵様式も非常に多岐にわたっています。卵を育てる育房を持つことや単為生殖卵と有性生殖卵を作り分けることなどはミジンコの仲間の特徴ですが、興味深いことに単為・有性卵の切り替えは、ミジンコと全く異なる動物プランクトンである輪形動物のワムシもおこなうことが知られています。
(回答者:基礎生物学研究所教授・井口 泰泉様)


Q16:恐竜にも温度にって性が変わる種がいますか。

A16:残念ながら恐竜に関しては絶滅しているので解っていません。
(回答者:基礎生物学研究所教授・井口 泰泉様)


Q17:

  1. 化学物質、温度以外で性が決まる要因は有りますか。
  2. 遺伝的に決まる生物と環境によって決まる生物はいつ頃分かれたのでしょうか。

A17:1についてお答えします。温度以外でも日長条件や社会的要因(集団中での体サイズなど)、バクテリアの寄生などで性が決まる例が多数報告されています。
(回答者:基礎生物学研究所教授・井口 泰泉様)


Q18:通常では♀のみで単為発生し、条件悪化で♂ができるということですが、♂(精子)の役割とはどのようなものなのでしょうか。2つの卵の方が安定性があるということでしょうか。

A18:メスのみによる単為発生の利点は交尾相手を必要としないことによる爆発的な増殖速度になります。一方で、いくら増えたとしても遺伝的には均一な集団なので急激な環境の変動に弱い(一斉に死滅する)ことが欠点となります。この欠点を補うために、環境が悪くなってくると増殖速度を犠牲にしてでもオスをつくり有性生殖をすることで、環境変動に耐えうる遺伝的多様性を確保しています。
(回答者:基礎生物学研究所教授・井口 泰泉様)


Q19:ユスリカの幼虫のにおいをかいだミジンコからうまれたミジンコは防御形態をとるとのことでしたが、防御形態をとったミジンコの子供はどのような形態をとるのでしょうか。

A19:母親が防御形態を作ったかどうかということは、子供の防御形態の有無に直接的な影響を与えません。その子供が卵の時期に捕食者の匂いを感受すれば防御形態をつくり、感受しなければつくりません。
(回答者:基礎生物学研究所教授・井口 泰泉様)


Q20:ワニの温度による性変化(性分化)のメリットについて、進化学の視点にヒントがあったら面白いかもしれないなと考えました。高温環境にさらされた際に生き残った祖先の♀が今の♀のシステムにつながったのではないかと考えてみました。あるいは、♀より♂の方が、水中での生活が多い理由が過去にあったから今も低い水温での性変化に適応している、など。言うだけならタダですよね。全力で考えてみましたが難しかったです。

A20:ワニは恐竜の生き残りから進化した考えられています。恐竜の絶滅を説明する仮説の1つとして、巨大隕石が地球に衝突し、その際でた噴煙などにより太陽光が十分に地上に届かなかったために、地球の温度は極端に下がったとされています。恐竜もワニと同じように温度依存性の性分化をしていたとすると、メスしか発生しないことになり、雄がいなくなって絶滅したとも考えられます。いろいろな仮説を考えてみることが大切ですね。仮説をお考え頂有難うございました。当たっているかもしれませんね。
(回答者:基礎生物学研究所教授・井口 泰泉様)

Q21:

  1. サンゴに褐虫藻が必要なら進化的に1つの生命体になってもおかしくないと思いますが、なぜ未だに別固体なのですか。
  2. 水温が高温になるのが原因とのことですが、白化前後の平均水温は何度ですか。実験では33℃が使われていたので。
  3. 褐虫藻の好みは、cellがサンゴのcellへ取り込まれるときなのか、それともentryできるが共生できないのかどちらなのでしょうか。
  4. サンゴの移植、先生のお話だと褐虫藻が共生しないとサンゴが育たないので、あまり効果的ではないのかなと思いますが、ご意見下さい。

A21:

  1. それは、サンゴと褐虫藻の共生関係が始まったのがまだ新しいからだと考えられます。将来的には,褐虫藻がサンゴの一部(細胞小器官)になるかもしれません。
  2. 白化の起こる温度はサンゴ種で異なりますが、一般的に30度を超える海水温が数日続くと白化が起こります。
  3. おそらくその両方だろうと考えています。研究を進めているところです。
  4. 移植しても高温なると白化して死んでしまいます。サンゴ礁の保全を考えた場合、サンゴを高温に強くすることが重要だと私は考えています。
    (回答者:基礎生物学研究所 准教授・高橋 俊一様)


Q22:温度によって修復過程における合成だけが阻害される原因。(分解などが高温で阻害されない原因。)

A22:タンパク質の合成を制御する部分が環境(酸化)ストレスの影響を受けやすいからだと考えられています。
(回答者:基礎生物学研究所 准教授・高橋 俊一様)


Q23:

  1. 褐虫藻の種が変化するとサンゴの色も変化するのか?
  2. サンゴの骨格の部分により共生する褐虫藻の種が違うと部分的に色が違うのか?
  3. サンゴの細胞に取り込まれる褐虫藻が単細胞ですか?一昨日、沖縄に行って珊瑚を見てきたばかりなので、とても面白かったです。有難うございました。

A23:

  1. サンゴの褐色の色は共生する褐虫藻の色ですが、それ以外の赤や緑などの色はサンゴ自身がもつ色です。ですので、褐虫藻の種類が変わってもサンゴの色は変わりません。
  2. 変わりません。
  3. はい、褐虫藻は単細胞です。
    (回答者:基礎生物学研究所 准教授・高橋 俊一様)


Q24:スーパー褐虫藻ができたら、それを培養して増やし温暖化が進行したら海洋中に散布するという手法をお考えなのでしょうか?だとすると、かなり大量のスーパー藻が必要になるのではないでしょうか。

A24:そうですね。そのために、少量でも効率良くサンゴに取り込ませることを考えていく必要があると考えています。
(回答者:基礎生物学研究所 准教授・高橋 俊一様)


Q25:スーパー褐虫藻をサンゴの保全に用いることが出来るのではないかという話がありましたが、その際、生態系に影響は無いのですか。

A25:あるかもしれません。それを調べることが、次のステップです。応用はその後です。まだまだ長い道のりです。
(回答者:基礎生物学研究所 准教授・高橋 俊一様)


Q26:温暖化による白化等でサンゴが減ることを心配されていましたが、近年東京湾でもサンゴが見つかっているようです。サンゴや褐藻類が北上することで生息地が変化していくことが考えられます。

A26:おっしゃる通り、サンゴは北上しています。ただ、発達したサンゴ礁が形成できているわけではありません。
(回答者:基礎生物学研究所 准教授・高橋 俊一様)


Q27:サンゴと褐虫藻の適応の広狭を決めている要因は何ですか。

A27:それはまだ分かっていません。将来、明らかにしたいことの一つです。
(回答者:基礎生物学研究所 准教授・高橋 俊一様)


Q28:褐虫藻の色素がサンゴの色になっているというお話でしたが、スーパー褐虫藻のようなものが見つかったら、多くのサンゴがどのスーパー褐虫藻と共生してサンゴの色の多様性が失われてしまいますか?
サンゴが全て同じ色になってしまったら寂しい気がします。

A28:サンゴの赤や緑などの色はサンゴ自身の色なので、褐虫藻の種類が変わっても変わりません。
(回答者:基礎生物学研究所 准教授・高橋 俊一様)


Q29:

  1. 高温でも光合成活性を失わない(スーパー褐虫藻)をいろいろなサンゴと共生させることができれば、とのお話でしたが、それぞれサンゴに共生している褐虫藻の遺伝子を組み替えて高温に強くして共生させることはできないのでしょうか。
  2. 厚恩によって、「サンゴ自身」がダメージを受けてしまう可能性はないのでしょうか?スーパー褐虫藻と共生できたとしても、サンゴ自身が熱に耐えられないということはないのでしょうか。

A29:

  1. 遺伝子を改変して高温耐性の褐虫藻を作ることは、将来的には可能になる思います。ただ、技術的に可能であっても、それを利用すべきかどうかという議論が必要です。私は、遺伝子を改変した生き物で自然保護をすることに強い抵抗があります。そのために、自然の褐虫藻を利用したいと考えています。
  2. あるかも知れません。実際、高温に強いサンゴ種と弱いサンゴ種がいます。
    (回答者:基礎生物学研究所 准教授・高橋 俊一様)


Q30:イソギンチャクだけではなく、サンゴでも褐虫藻との共生範囲は限られているのでしょうか?

A30:はい、サンゴでも同じです。
(回答者:基礎生物学研究所 准教授・高橋 俊一様)

Q31:スーパー褐虫藻はサンゴ礁の保全・保護には良いのが、生物の多様性という面からはどうでしょうか?

A31:スーパー褐虫藻を加えたからといって、元々いた褐虫藻を完全に排除するわけではありません。ですので、生物の多様性は増えるはずです。
(回答者:基礎生物学研究所 准教授・高橋 俊一様)


Q32:ポリプは無色という事ですが、なぜ「白」化するのですか?

A32:骨格が透けて見えるせいです。
(回答者:基礎生物学研究所 准教授・高橋 俊一様)


Q33:

  1. サンゴの一次生産は、どのように他の生物に繋がるのですか?サンゴを食べるのですか?
  2. スーパー褐虫藻は、サンゴが受け入れない時はどうしたらいいか?

A33:

  1. サンゴから出てくる粘液質(ミューカス)を微生物が栄養とします。それ以外に、サンゴを食べる生き物もいます。
  2. 共生していない場合は、鞭毛を持って水中を泳いでいるか、砂の上に留まっていると考えられます。
    (回答者:基礎生物学研究所 准教授・高橋 俊一様)


Q34:

  1. サンゴの好みが広く、高温にも強い「スーパー褐虫藻」の導入によって、サンゴの白化を予防することが必要との御話でした。それによって逆に他の褐虫藻の共生が抑制されて褐虫藻の種の多様性が脅かされてしまうような気がします。
  2. 褐虫藻は、サンゴ等と共生しなくとも生活できるのでしょうか?共生を行う褐虫藻のうち、実際に共生している割合はどの位いるのでしょうか。

A34:

  1. 新なた褐虫藻の導入により、これまで共生していた褐虫藻が完全に排除されるわけではありません。ですので、褐虫藻の種の多様性が脅かされることはないと考えています。
  2. 褐虫藻は共生しなくても生きていけます。しかし、サンゴ礁にいる褐虫藻のほとんどが共生している状態で、ごく一部が非共生状態です。
    (回答者:基礎生物学研究所 准教授・高橋 俊一様)


Q35:共生の有無(相性)を決める要素が一体どんなものだったのか、とても気になります。差し支えなければ教えて頂ければと思います。研究論文や特集記事などの紹介の形でもいいので。。。

A35:まだ、研究途中なので、早めに研究発表できるようがんばります。もうしばらくお待ち下さい。
(回答者:基礎生物学研究所 准教授・高橋 俊一様)


Q36:

  1. 分類学上、藻類は植物なのですか。
  2. どのようにして、共生しているのですか。
  3. 他の藻類と褐虫藻の違いは何ですか。

A36:

  1. はい、大きな枠では植物です。
  2. サンゴの細胞の中に、シンバイオソーム膜に包まれた状態で、褐虫藻は存在(共生)しています。
  3. 褐虫藻は渦鞭毛藻の仲間ですが、なぜ褐虫藻だけが共生できるのかは不明です。
    (回答者:基礎生物学研究所 准教授・高橋 俊一様)


Q37:サンゴは褐虫藻がないと生育できないということですが、共生関係を進めて1つの細胞小器官にすることは出来なかったのでしょうか。ミトコンドリアや葉緑体のように。

A37:いま、その途中なのかもしれませんね。
(回答者:基礎生物学研究所 准教授・高橋 俊一様)


Q38:サンゴは褐虫藻に無機塩類を与え、褐虫藻がサンゴに養分を与えるとのことでしたが、サンゴはどのように無機塩類を吸収しているのでしょうか。また、褐虫藻の色素が抜けることがサンゴの白化の原因とのことでしたが、サンゴは自分で養分を取り入れることは出来ないのでしょうか。

A38:無機塩類は、サンゴの代謝の過程で作られる副産物です。サンゴは餌を摂取することも可能ですが、サンゴ礁には餌が少なく、それだけでは生きていけません。
(回答者:基礎生物学研究所 准教授・高橋 俊一様)


Q39:好みが広く、低温にも高温にも耐えられる褐虫藻についてですが、褐虫藻が無性生殖しか出来ず遺伝子組み換えも出来ないとするならば、理想の褐虫藻は新たに発見するしかないと思いました。しかし、サンゴの方を組み換えることは出来ないでしょうか。好みの狭い藻に対しても共生が出来るサンゴを新たに人の手で生み出すことは出来ないのかと思いましたが、いかがでしょうか。

A39:技術的には、将来は可能になるはずです。ただ、遺伝子を改変した生き物を用いて、環境保護をすることが良いのかという議論が必要だと思います。
(回答者:基礎生物学研究所 准教授・高橋 俊一様)


Q40:放射線暴露後、生存とのことですがそれはDNA再生も同時に進んだとの理解で宜しいでしょうか?例えば、一度サナギ化まで生存していれば生殖も可能なのでしょうか。

A40:放射線量に依存します。線量が上がるに従って、変態可能なステージが減っていきます。つまり、乾燥した幼虫に7kGyのγ線を照射しても生存しますが、蛹にはなりません。蛹まで進行したのは照射線量が500Gy以下の時で、200Gy以下で無いと成虫になりません。生殖能は、50Gy以下で無いと保持されません。というものの、ヒトの致死線量が7から10Gyなので、極めて放射線耐性が高いことは間違い無いです。
(回答者:農業生物資源研究所 主任研究員・黄川田 隆洋様)

Q41:

  1. 乾燥したときに動くPROMOTERはあるのですか。PIMTの発現ONになるシステム興味あり。
  2. 何が乾燥を感知しているのですか。
  3. PIMTの遺伝子は、硫黄菌?の遺伝子といくつの遺伝子が何%相同性があるのですか。
  4. PIMTを1つずつNOCK DOWN/OUTしたことはありますか。

A41:乾燥したときに発現する遺伝子を複数発見しているので、これらのプロモーターを同定中です。乾燥に伴う細胞内活性酸素の発生が遺伝子発現誘導に関与していることが分かっています。硫黄細菌のタンパク質と相同なタンパク質は、LEAです。全体を比較した相同性自体は高くないのですが、特徴的なアミノ酸の繰り返し配列が双方に見つかります。このモチーフ部分をコードする遺伝子断片がネムリユスリカに水平伝播して、多重化することでLEAに変化したと考えています。遺伝子のノックダウン/ノックアウトの研究は、現在進行中です。
(回答者:農業生物資源研究所 主任研究員・黄川田 隆洋様)


Q42:宇宙空間に2年曝露をしても細胞が活動を再開する(生き返る)と仰っていましたが、宇宙線による遺伝子へのダメージはあったのでしょうか。また、ダメージがあっても地球上にいた時と同様に問題なく活動を再開できたのでしょうか。

A42:蘇生の有無のみを注目した実験だったので、遺伝子に傷害があったかどうかは不明です。現在、そのことを調べるために宇宙ユスリカのゲノム解析を進めようとしているところです。また、蘇生したユスリカから、後代をとることができました。したがって、地球上にいたときと同様に問題なく活動再開できたと言えます。
(回答者:農業生物資源研究所 主任研究員・黄川田 隆洋様)


Q43:乾燥してから水を与えられた際に、高濃度のトレハロースを含む血液によって組織が傷付かないのでしょうか。

A43:乾燥時、トレハロースは細胞の内外に均一に存在しているので、浸透圧差を生じません。再水和に伴って、トレハロースはグリコーゲンに転換されます。トレハロースは、非還元糖なので、高濃度存在していても、タンパク質や細胞膜を還元しないので、化学的に無害です。
(回答者:農業生物資源研究所 主任研究員・黄川田 隆洋様)


Q44:スノーボールアースを生き延びた生物は、ARIDを持っているのか?

A44:ARIdは、あくまでネムリユスリカが生育環境の乾燥化に適応して進化した過程で生じた遺伝子多重化領域です。スノーボールアースで生き延びた生物は、耐凍性に関与する遺伝子群を持つと想像されますが、同様な遺伝子多重化があるかどうかは分かりません。
(回答者:農業生物資源研究所 主任研究員・黄川田 隆洋様)


Q45:冬期、水を落としてしまう水田の生物も水を張ればまた活動を開始します。藻類のなかにネムリユスリカと同様の耐乾性を持つグループが存在するように思いますが、そのような藻類は知られていないでしょうか?

A45:ラン藻の一種であるイシクラゲNostoc communeは、乾燥して無代謝状態(クリプトビオシス)になることができます。100年以上前の乾燥標本が蘇生したという報告があります。
(回答者:農業生物資源研究所 主任研究員・黄川田 隆洋様)


Q46:細胞の状態でも乾燥耐性を有するとのことでしたが、その場合、個体の状態と比べて維持可能な時間や温度は変化するのでしょうか?

A46:変わらないと考えています。細胞の状態で乾燥しても、数ヶ月保存できたことを確認しています。
(回答者:農業生物資源研究所 主任研究員・黄川田 隆洋様)


Q47:トレハロースと他の糖(ブドウ糖等)との生物の乾燥耐性に対する貢献の科学構造上の違いは何ですか。熱耐性タンパク質の構造上、アミノ酸組成上の理由は何ですか。

A47:トレハロースは二個のブドウ糖が還元基同士で繋がった糖です。還元性が全く無いので、高濃度になってもタンパク質を変性させません。また、他の糖に比べて安定したガラスを形成するのもトレハロースの特徴です。これらの物理化学特性により、細胞内のタンパク質や細胞膜が乾燥から保護されています。また、LEAタンパク質は極めて親水性が高いアミノ酸で構成されている事が特徴です。水和状態では無構造にも関わらず、乾燥すると螺旋構造に変化する事も特徴です。これらの物理特性が乾燥耐性に寄与していると考えています。
(回答者:農業生物資源研究所 主任研究員・黄川田 隆洋様)


Q48:「レア遺伝子が偶発的に取り込まれて乾燥耐性を身に付けた」とありました。他の遺伝子が取り込まれて機能を発揮することはあり得るのでしょうか。

A48:十分可能性はあると思われます。水平伝播は偶然の産物ですが、一度起きた事象が再び生じる可能性は否定できません。今後の長い進化の過程で、ネムリユスリカが新規の遺伝子を他の生物から獲得するかもしれません。
(回答者:農業生物資源研究所 主任研究員・黄川田 隆洋様)


Q49:私は環境変化に強い生物というとクマムシというイメージが強いです。クマムシにはなくてネムリユスリカにはある特別な能力はありますか?また、他の乾燥耐性生物に比べて特に応用性が期待できるネムリユスリカの特徴はありますか。

A49:クマムシもアンヒドロビオシスする生物です。乾燥してしまった後の耐性能力はほぼ一緒だと考えています。応用性が期待できる点は、ネムリユスリカは他の乾燥耐性動物に比べて体サイズが大きいため、組織の摘出が可能です。組織や細胞レベルでの乾燥耐性を研究可能である事から、乾燥に弱い生物の細胞保存技術に応用可能な発見が期待できます。
(回答者:農業生物資源研究所 主任研究員・黄川田 隆洋様)


Q50:

  1. ネムリユスリカがLEAPを持っているのは、例えばイオウ細菌の持つDNAが修復の際に乾燥状態でズタズタのユスリカDNAに取り込まれたからではないか?というお話でしたが、それは乾燥耐性を持つそれぞれの生物が独自に進化してきた(収れん進化?)の可能性が低いということですか?
  2. ユスリカの細胞分化がどの程度進んだものなのか存じあげないのですが、もし乾燥耐性やアンチエイジングの機能を人間のような細胞分化の進んだ人間に適用させようと思ったら、細胞レベルでの制御ではなく脳での制御にした方が良いのでしょうか(できるとしたら)?

A50:

  1. 乾燥耐性をもつ生物間での系統関係はありません。すなわち、クマムシ、ワムシ、アルテミア、ネムリユスリカは系統的に離れていて、その間には乾燥耐性がある生物がいません。このことは、個々の種が独自に進化した結果、すなわち偶然の収れん進化が生じたためだと考えています。ネムリユスリカの場合は、硫黄細菌のDNAの水平伝播が乾燥耐性獲得の要因の一つであると考えていますが、その他の種ではそれぞれ独自の進化イベントがあったものと思われます。今後、乾燥耐性生物のゲノム解析が進行するに従って、この謎への回答が得られるものと考えています。
  2. 昆虫一般に、脊椎動物と同じように器官分化が発達しています。脳による生理制御(ホメオスタシス)は、昆虫でも一般的です。従って、ネムリユスリカの乾燥耐性制御機構が特殊と言えます。ただ、応用を考えると、可能な限り単純な仕組みであった方が、摸倣しやすいです。もし、乾燥耐性が数種類の遺伝子のみで実現可能なら、それらの翻訳産物を細胞に発現させるだけで、どんな細胞でも乾燥保存できるようになるでしょう。一方脳が関与していたら、複雑な生理イベントの全ても摸倣しなければいけなくなり、実現可能性は極めて低くなっていたと思われます。
    (回答者:農業生物資源研究所 主任研究員・黄川田 隆洋様)

Q51:ネムリユスリカの生息している地域で、乾燥している時に他に生き延びている生物はいますか?また、いるならばその生物は同様の乾燥耐性をもっているのですか?ネムリユスリカの生息範囲が狭いのはなぜですか?

A51:ネムリユスリカのいる干からびた水たまりの土に、水をかけると、線虫の仲間やワムシの一種が蘇生してきたことがあります。これらも、ネムリユスリカ同様の極限的な乾燥耐性があるのでしょう。雨季の時期に発育し、乾季で天敵たちが死滅する環境こそが、ネムリユスリカが選択的に適応した環境といえます。生息範囲は狭いと言っても、アフリカの半乾燥地帯に帯状に分布しています。詳しく言えば、サハラ砂漠と熱帯雨林の間の地域には分布していました。その範囲は、有に日本列島を越えた範囲です。
(回答者:農業生物資源研究所 主任研究員・黄川田 隆洋様)


Q52:LEAタンパク質は、乾燥に強い生き物であるネムリユスリカやブラインシュリンプが持っているとの御話しでした。クマムシもLEAタンパク質を持っているか興味があるので教えて頂きたいです。

A52:はい、クマムシもLEAタンパク質を持っています。また、LEAとは違うタイプの親水性タンパク質(MAHS,CAHS,SAHS)も持っていることが分かっています。MAHS,CAHS, SAHSは、ネムリユスリカには存在しないことも確認済みです。
(回答者:農業生物資源研究所 主任研究員・黄川田 隆洋様)


Q53:-270℃程度まで耐えられるという事ですが、絶対零度まで生きられないのはどうしてですか?

A53:絶対零度まで冷やしたことがないだけです。体内の水分がないので凍らない若ですので、理論上、問題なく0K=-273°Cでも耐えられると思います。
(回答者:農業生物資源研究所 主任研究員・黄川田 隆洋様)


Q54:ネムリユスリカのLEAタンパク質遺伝子は硫黄細菌に由来するものではないかという御話でした。硫黄細菌はLEAタンパク質をどのように利用しているのでしょうか?細菌類や菌類などではLEAタンパク質を持つのが一般的なのでしょうか?

A54:硫黄細菌での機能は全く不明なタンパク質です。ネムリユスリカのLEAのモチーフの一部があるだけのタンパク質で、LEAタンパク質特有の機能は発揮することは無いと考えています。この硫黄細菌とは別ですが、枯草菌や放射線耐性菌(Deinococcus rediodurans)など、乾燥に強い細菌もLEAを持っていることが分かっています。乾燥耐性とLEAの存在の相関は、真核生物のみならず原核生物でも当てはまると考えています。
(回答者:農業生物資源研究所 主任研究員・黄川田 隆洋様)


Q55:乾燥による極限状態の耐性といえば最近ではクマムシが良く取り上げられていますが、あれはネムリユスリカの乾燥耐性とはあくまで似て非なるものなのでしょうか。たとえばネムリユスリカと同じように、クマムシ(他の乾燥に強い生物)にもLEAタンパク質が含まれているのだろうかと考えました。

A55:乾燥耐性という現象は共通ですが、その分子機構には違いがあります。顕著な点は、ネムリユスリカはトレハロースを大量に蓄積することで乾燥耐性を発揮しますが、クマムシはためません。一方、LEAタンパク質は共通に蓄積します。乾燥耐性を発揮するまでの時間は、ネムリユスリカが最短で48時間かかるのに対して、クマムシは瞬間的に対応可能です。これらのことから、乾燥耐性と言っても、生物種に応じた様々な分子機構があることが示唆されます。
(回答者:農業生物資源研究所 主任研究員・黄川田 隆洋様)


Q56:クマムシも極限乾燥耐性をもっていますか。最古の極限乾燥耐性生物はどのような生物かわかりますか。ネムリユスリカは地下(地下1000メートル)でも生き延びることは可能ですか。

A56:はい、クマムシも乾燥耐性を持っています。最古の極限乾燥耐性生物は、間違い無く細菌の一種でしょう。宇宙でも平気だったように、水が無い状態ならば、当然地下1000メートルであろうとも生存可能でしょう。
(回答者:農業生物資源研究所 主任研究員・黄川田 隆洋 様)


Q57:ネムリユスリカの幼虫は2日間乾燥しながらどうやってセルロースを作り出しているのですか。

A57:セルロースは作れません。トレハロースは、ネムリユスリカの体内に豊富に存在するグリコーゲンを原料に作られます。乾燥する過程で、グリコーゲンを全て分解し、トレハロースに作り替えます。
(回答者:農業生物資源研究所 主任研究員・黄川田 隆洋様)


Q58:90℃に1時間の高温にさらしても、蘇るとは驚きです。マグマのような超高温に長時間さらした場合でも蘇るのでしょうか。乾燥状態にあるネムリユスリカは、いかなる条件でも死なないのでしょうか。なぜ体から水分が抜けても生き返るのでしょうか。

A58:乾燥状態のネムリユスリカは90℃でも耐えますが、さすがに1000℃を越えるようなマグマの中では、一瞬にして燃え尽きるでしょう。極限的な環境に耐えるとは言え、ものには限度というものがあります。限界が分かることから、不思議な生命現象のメカニズムが分かるヒントが得られることがあります。まさに、なぜ水分が無くなっても生き返られるのか知りたいので、研究を行っています。
(回答者:農業生物資源研究所 主任研究員・黄川田 隆洋様)


Q59:イオウ細菌の中で、遺伝子はどのような働きをしていたのでしょうか。

A59:LEAのモチーフの一部をコードしているタンパク質ですが、機能は不明です。
(回答者:農業生物資源研究所 主任研究員・黄川田 隆洋様)


Q60:ネムリユスリカが乾燥にさらされると遺伝子がバラバラになって、他のイオウ細菌などバクテリアからDNAを取り込んだのではないかという仮説がありました。遺伝子がバラバラになって、別途遺伝子を取り込むイメージがなかなかもちにくいのですが、何か理解を促進させてくれる方法はありますでしょうか。クマムシも不死身だという話を別の人から聞いたことがあります。クマムシとネムリユスリカとの違いはどのような点なのでしょう。

A60:ヒトを含めた、どんな生物でも傷ついたDNAを修復する機構は持っています。ただ、ネムリユスリカは、その能力が極めて優れているのでしょうか。修復する時には似た配列同士をつなぎ合わせる機構が働きます。偶然、似通った配列をもったDNAが、傷ついたゲノムDNA周辺にあると、修復機構によって取り込まれるのでしょう。現在の遺伝子組み換え技術は、その勘違いによる遺伝子修復機構を逆手にとって行われいます。ネムリユスリカは、同様にして、自然に遺伝子組換えを起こしたのだと考えています。クマムシもネムリユスリカも不死身ではありません。乾燥したら死ななくなるだけで、再水和させれば、普通の生物と同様に子孫を残して死んでいきます。クマムシとネムリユスリカは、乾燥耐性をもつ生物という点で似通っていますが、系統学的に遠い生物同士です。乾燥時にネムリユスリカはトレハロースを蓄積するのに対し、クマムシはためません。乾燥耐性の分子機構も異なっています。
(回答者:農業生物資源研究所 主任研究員・黄川田 隆洋様)

Q61:乾燥して水がなくなると、細胞中の物質の化学構造を担っている水素結合がなくなるのでDNAの二重螺旋もタンパク質の高次構造がなくなり、あちこちで縮合した構造が作られると思う。(不可逆反応に近いと思います。)これが水を加えると元に戻るというメカニズムは、どのようなものなのでしょうか。(何が感得られるのか)

A61:脱水過程で生体分子表面の水素結合ネットワークは消失するはずです。しかし、トレハロースは水と置換して、元来の水素結合ネットワークを保持する機能を持つことが知られています(トレハロースの生体分子保護機能の一つ。水置換説と呼ばれています)。乾燥重量あたり20%もの量まで蓄積するトレハロースが水の代わりを果たすおかげで、DNAやタンパク質は完全な乾燥を経ても変性しません。再水和させると、今度はトレハロースと置き換わるように水の分子が、DNAやタンパク質の表面と水素結合します。
(回答者:農業生物資源研究所 主任研究員・黄川田 隆洋様)


Q62:ネムリユスリカのように極限的な環境にも耐えられるクマムシという生物がいますが、ネムリユスリカのメカニズムと類似するものはあるのでしょうか。クマムシは仮死状態になることで耐えられると聞いていて、ネムリユスリカのような「生でも死でもないもう1つの状態」のようなものを感じました。

A62:まさしく、その通りです。細かいメカニズムに違いはありますが、乾燥によって無代謝の状態になって、不利な環境を乗り越えるという意味で、ネムリユスリカとクマムシは、共通の生理現象をもった生物たちであるといえます。
(回答者:農業生物資源研究所 主任研究員・黄川田 隆洋様)


Q63:現地(アフリカの人)ともめ合ったことがありますか。

A63:これまではありませんでした。現地調査する際には、地域の族長に挨拶することが大事でした。アフリカであろうと、日本であろうと、互いに信頼関係を結ぶためには、挨拶が重要です。
(回答者:農業生物資源研究所 主任研究員・黄川田 隆洋様)


Q64:SFのようなことが起こるのではないかということでしたが、物事には必ず原因があると思われます。なぜネムリユスリカは乾燥しても大丈夫なゲノムを持ったのでしょうか。持った時期、持つまでの過程も知りたいです。

A64:我々はタイムマシンをまだ作れていないので、いつ、どこで、どうやって乾燥に強い遺伝子を獲得できたかは、ハッキリとは言えません。ただ、近縁の生物と比較して、乾燥の強さと遺伝子の違い方に、どの程度の差があるかを考えることで、どの程度先祖まで戻れば、同じゲノム構造になり得るのかを推定する事はできます。現在、ネムリユスリカは約3000万年程度前に、他のユスリカから分かれて進化したと考えています。アフリカでしか発見されないことから、ネムリユスリカは進化の過程中、ずっとアフリカの半乾燥地帯に生息し続けていたと考えられます。
(回答者:農業生物資源研究所 主任研究員・黄川田 隆洋様)


Q65:井口先生のお話に、「鳥を餌にするワニの肉は鶏肉のような味がする」とありましたが、土を食べることで土中のバクテリアを得たネムリユスリカの例と何か関係があるのでしょうか。鶏肉を構成するタンパク質がワニ肉を構成するタンパク質に影響を与える、と考えたのですがいかがでしょうか。

A65:基本的に食べたタンパク質は、全てアミノ酸まで分解されてから体内に吸収されるので、食べたものがワニの体を形作るタンパク質に影響を及ぼしたとは考えられません。むしろ、肉それぞれに存在する匂い成分が吸収されたため、ワニ肉も食べたものの匂いに近くなったのだと思います。ニンニクを食べた翌日の体臭は、ニンニクくさいですよね。きっと、魚ばかり食べていたワニは、体臭は魚臭くなるでしょう。
ネムリユスリカが土中のバクテリアから遺伝子を獲得できたのは、本当に偶然の出来事だったんだと思われます。なぜなら、ネムリユスリカのゲノム中で、バクテリアに由来する遺伝子は10個も無いからです。ネムリユスリカが3000万年前に他のユスリカから分かれて進化したことを考慮すると、もし頻繁にバクテリアから遺伝子の転移が起きていたら、もっと沢山の数百から数千のバクテリア型遺伝子が、ネムリユスリカゲノムから発見されるはずです。
(回答者:農業生物資源研究所 主任研究員・黄川田 隆洋様)


Q66:生殖細胞は不死とのことでしたが、受精でDNAは1/2しか伝わらないのですから、次世代は元の細胞と同一とは言えず、したがって「不死」ではないのですか?

A66:正確に言えば、その通りです。しかし、ミトコンドリアを含む細胞質は、多くの動物では母親由来です。核のゲノムの半分だけが毎代父親のものと置き換わっています。ミトコンドリアの品質をどのように保つのかは、この場合でも大きな問題となります。
(回答者:基礎生物学研究所教授・小林 悟様)


Q67:ダメージを受けた生殖細胞を排除するシステムを研究するには大腸菌などバクテリアを用いればよいのではないでしょうか。起源は、そちらにあると思われるのですが、ダメージを受けたミトコンドリアを排除するシズテムはαプロテオームとの共生成立後に成立したと考えてよいでしょうか。

A67:大腸菌では、真核生物とは系統関係が遠いですが、真核単細胞生物でも同じことが起こりうる可能性はあると思います。ミトコンドリアとして共生が成立したのちに品質管理機構が生じたと考えられます。今後の研究で明らかにすべき点と思います。
(回答者:基礎生物学研究所教授・小林 悟様)


Q68:

  1. なぜ動物は子孫を残す(生殖細胞受け継いでいく)という方法を取り、自身が不老不死になる(例えば生殖細胞のような細胞を作り続ける?)というような方法を取らないのでしょうか?
  2. そもそも、なんで有性生殖をするのでしょうか?無性生殖の方が効率が良いような気がするので、環境に適応したいとしてもミジンコやプラナリアのような無性・有性両方でいる方が良いと思うのですが・・・

A68:

  1. 1番目の質問で最も近いのは、無性生殖で増える動物でしょう。プラナリアなど、分裂によって増えて、今のところ研究室の系統には寿命がないようです。環境が安定であれば、無性生殖の方が有利かもしれません。しかし、環境が変化するときには、有性生殖によって多様な遺伝情報を保持する集団が有利と考えられます。
    (回答者:基礎生物学研究所教授・小林 悟様)


Q69:Naousの働きをなくした胚の極細胞を、正常な胚に移植する実験操作の動画がありました。細胞を抽出するときと、抽入するときの、針を指す位置が(胚の向き)異なっているように見えました。何か特別な理由があるのでしょうか?

A69:細胞を吸うときに、卵の後極から針を入れると、目的の極細胞を通り越して、針の前方にある卵黄を多く吸ってしまうためです。
(回答者:基礎生物学研究所教授・小林 悟様)


Q70:かわいいなと思うショウジョウバエについて、最近特に面白くて興味深いなと思った研究内容があれば教えてください。

A70:面白いという以上に、研究するための基盤整備はショウジョウバエでもすごく進んでいます。ある細胞の中で、どのような遺伝子が活性化しているのか、どの遺伝子とどの遺伝子が相互作用するのかといったネットワークが明らかになりつつあります。これは、10年前には想像できなかったことで、いろいろな生物現象をこの遺伝子ネットワークによって説明できる日がくると思います。
(回答者:基礎生物学研究所教授・小林 悟様)

Q71:ショウジョウバエはどこで手に入りますか。

A71:ストックセンターで手に入ります。日本ですと、京都工業繊維大学でストックセンターを運営しています。
(回答者:基礎生物学研究所教授・小林 悟様)


Q72:構造色をフィルム積層で良いと言う「解」は非常に面白く感じました。屈折率が近い2つの材料をあえて選んだ理由はやはり、1コスト、2熱可ソ性の近さなどがあるのでしょうか?

A72:一番の理由は、界面で剥離しないことです。その他、易成形性、耐久性、強度・伸度、そしてコストからこの組み合わせになりました。
(回答者:帝人株式会社構造解析センター形態解析グループリーダー・広瀬 治子様)


Q73:モルフォ蝶の構造は、どのようにして形成されるのですか。(雪の結晶のように成長する~一旦、構造を作ってから、引き延ばすなど)

A73:蝶の専門家でないので良くわかりません。小さいサイズからスタートするので、引き伸ばすことはないと思います。
(回答者:帝人株式会社構造解析センター形態解析グループリーダー・広瀬 治子様)


Q74:注目しているバイオミメティクスの対象生物は何ですか?

A74:昆虫と植物です。昆虫は地球上で最も種類が多いのでターゲットしては一般に昆虫が多いです。
(回答者:帝人株式会社構造解析センター形態解析グループリーダー・広瀬 治子様)


Q75:サケが川を遡る行動の原理またはその動き・筋肉を参考にした道具・機材の開発が行われていたりするのでしょうか?興味が湧きました。

A75:筋肉の収縮、アクチンとミオシン分子の結合・滑り反応など、研究レベルの報告はあります。
(回答者:帝人株式会社構造解析センター形態解析グループリーダー・広瀬 治子様)


Q76:形や動きだけでなく、形成メカニズムが活かされている物はありますか?

A76:研究レベルの報告はあります。
(回答者:帝人株式会社構造解析センター形態解析グループリーダー・広瀬 治子様)


Q77:光干渉という現象についての解説をもう一度お聞かせいただけると助かります。(屈折率の変化の後に登場した公式などのスライドをじっくり見ることができませんでしたので)また、哺乳類をもとにしたバイオミメティクスのほかの例があれば知りたいと思いました。

A77:薄膜層の屈折率と層厚で色が決まります。光干渉に関しては多くの本がでていますので、調べてみて下さい。哺乳類では、象の鼻・猫の舌を模倣した製品が出ています。この他、研究レベルではサル・ヒト・イヌ・マウス・ラットなど研究対象にされています。
(回答者:帝人株式会社構造解析センター形態解析グループリーダー・広瀬 治子様)


Q78:先生ご自身は工学のご出身か生物学のご出身かどちらでしょうか。僕はこの4月から高2に上がり、志望大学を決めようと思っているのですが、生物規範工学に興味があります。この学問を学ぶためにどのようなアプローチをすればいいのか分かりません。教えてください。

A78:生物学(獣医師)です。大学でバイオミメティクスとしての研究をしているのは工学系になると思います。色々な大学で学べると思いますが、バイオミメティクスを牽引している下村先生は元東北大で現在は千歳科学技術大学におられます。また私は、生物学の立場ですが、バイオミメティクスに出会ってから、バイオロジープッシュの立場からバイオミメティクスを考えています。
(回答者:帝人株式会社構造解析センター形態解析グループリーダー・広瀬 治子様)


Q79:高所恐怖症をものともしない姿勢に感動しました。ケガ、病気になさりませぬようにお気をつけ下さい。また、撮影機材に何を使っておられるのかを各ページでご紹介頂ければ幸いです。

A79:ご聴講ありがとうございました。撮影機材ですが、バケツラン、ショクダイオオコンニャクとも同じです。取材初期(1998年頃~2004年)には、主としてニコンのフィルムカメラ(F2,F4+105mm,35mm)とPENTAX645を、後半(2005年~2014年)はキャノンのデジタルカメラ20D,50D,EOS5D+100mm,24-120mm)を使用していました。フィルムはエクタクロームなどです。現在はキャノンの5Dm3を使用しています。ビデオのときは放送局仕様のSONY HDW700A,HDW750です。
(回答者:写真家・自然ジャーナリスト・山口 進 様)


Q80:ショクダイオウコンニャクは、枯れてしまう大きな芽をどうして繰り返して出せるのか。単なるエネルギーロスではないのか?

A80:より大きな葉を出すことで光合成効率を高めることができる、と考えています。とくに薄暗い林の中では葉が大きく広がり、かつ大きな葉であることが効果的です。光合成により養分を根茎に蓄え、根茎を毎年大きくすることができます。
(回答者:写真家・自然ジャーナリスト・山口 進 様)

Q81:受粉を一対一の共生に頼ってしまうと、何らかの要因でどちらかがある地域でいなくなってしまうと他方も生きていけなくなるリスクが大きいのではないでしょうか。リスクを回避する方法などあるのでしょうか。

A81:熱帯では生物間の競争が激しく、不確実さと無駄をいかにしてなくすかという大問題を生物たちは抱えています。それを回避するひとつの手段が特定の関係を持つことです。1対1の危険性は大きいのですが、確実に送受粉を行う事ができます。何らかの要因でどちらかがある地域でなくなるということは十分に考えられますが、1対1の関係が結ばれるまで試行錯誤があり、次の段階でより確実な関係を持つことを選んだ結果ではないでしょうか。リスクを回避する方法ですが、例えば植物ならいくつかの繁殖方法を身につけている種もあります。1対1の関係は「共進化」の最も進んだ例といえるでしょう。
(回答者:写真家・自然ジャーナリスト・山口 進 様)


Q82:ショクダイオオコンニャクの開花の際、肉穂の温度が上昇するメカニズムについて教えていただきたいです。

A82:ショクダイオオコンンヤクについての温度上昇のメカニズムは全く分かっていません。開花数が少ないことに加え、温度上昇の時間が5~6時間と短いため研究が進んでいません。
同じサトイモ科植物のザゼンソウの発熱メカニズムについては岩手大や理科学研究所により研究がなされていますが、まだ結論には至っていません。ザゼンソウは発熱が数日間にわたって続きます。ザゼンソウでは発熱時のミトコンドリアの密度が他組織よりも高いことから、余剰エネルギーの解消にかかわるミトコンドリア内膜タンパク質が、電子伝達鎖と強調して発熱に関与しているのではないかと言う研究報告があります。
同じサトイモ科のArum maculatum やPhilodendron selloumはオオコンニャクと同様に数時間しか発熱をしません。A.maculatumの研究では発熱組織から抽出されたミトコンドリアがAOX(シアン耐性呼吸酵素)活性を示すことから植物の熱生産においてAOXが重要な機能を有していると考えられます。
(回答者:写真家・自然ジャーナリスト・山口 進 様)


Q83:ショクダイオオコンニャクについての質問をさせて頂きます。先生の御話しによると、ショクダイオオコンニャクの葉と花の葉はとても似ているとおっしゃっていましたが、なぜそのように瓜二つなのでしょうか。

A83:花は葉が変化したものです。葉を花に変えるのは光周性とフィトクロム(植物にだけ存在する色素タンパク質)と遺伝子によります。フィトクロムにより得られた光情報によって花芽が誘導されますが、その時にいろいろな遺伝子が関与して花芽が形成されます。
(回答者:写真家・自然ジャーナリスト・山口 進 様)


Q84:バケツランに寄ってくるシダバチが一種類であるということは、cineol以外のどんな情報をもとにしているのでしょうか?(cineol以外の香り物質なのか、バケツランの形なのか・・・)

A84:シタバチなどハナバチは大きな複眼をもつので視覚は発達しています。しかしバケツランがシタバチを引き寄せるのは匂いだけと考えられます。シタバチの行動半径は広く、近くに巣がなくても引き寄せられることからわかります。バケツランの香りはシネオールだけではないことは誘引実験からわかっていますが、それ以外のにおい成分については不明です。
(回答者:写真家・自然ジャーナリスト・山口 進 様)


Q85:将来生態系(特に共生関係)の分野で研究をしたいと思うのですが、こうして講演会を聞けば聞くほど知らないものがたくさん出てきます。さまざまな生物の共生関係を細かく理解し、知るためにはどのように知識を探っていけばいいのでしょうか。ご教授いただけると幸いです。また、花と虫の共進化を追っていて最も苦労したことがありましたらお伺いしたいです。

A85:「地球共生系」という概念があります。地球上の全ての生物はどこかで関係を持っていると考えられます。生物やその関係は多様で、現在でも分からないことばかりです。広い知識見識は大切ですが、目の間に起こる事象を観察し、推考する能力が求められます。地球共生系をひもとくには、科学の基本をまず身につけることがまず必要ではないでしょうか。と同時に、自分が興味をひかれたものから始めてゆくのが一番ではないかと考えます。
私が花と共生を追いかけていちばん苦労したのは「資金」と「情報」です。私の場合すべて個人ですので非常に限られていました。研究機関にも所属していないので情報ネットワークもなく、自ら生息地を探し出し、自ら論文を探し、行動研究もすべて一人でした。しかし他の人ができないテーマを選べたのは個人だからこそできたと思います。
(回答者:写真家・自然ジャーナリスト・山口 進 様)


Q86:花と虫との関係はいつの時代からありましたか。虫以外で花と共生している動物はいますか。

A86:中生代白亜紀に起こった被子植物の適応放散に昆虫が深くかかわったと考えられています。
花と共生している生物としては昆虫類のほかに哺乳類、鳥類などがあります。
(回答者:写真家・自然ジャーナリスト・山口 進 様)


Q87:ショクダイオオコンニャクはどのような仕組みで肉穂が発熱するのですか。

A87:上記の説明をお読みください。
(回答者:写真家・自然ジャーナリスト・山口 進 様)


Q88:進化に必要な普遍的な機構はありますか。研究の代表例としてどんなものがありますか?

A88:進化は基本的にはゲノムに変異が起き、それによって変化した表現形質が自然選択を受けるという機構で起きます。ただ以前は変異というとゲノムの塩基一つが変化するというイメージだったのですが、ゲノム解析が進み、また変異の実態の研究が進むことで、重複が起きたり、ウィルスがとび込んだりという大きな変化が進化を推進していることがわかってきました。このような分子進化と化石からの知見を重ね合わせて今進化研究は興味深いところにいます。ゲノムの解析からヒトに特有の遺伝子探究など新しい研究も進んでいます。
(回答者:JT生命誌研究館館長・中村 桂子 様)


Q89:生物教育と食行くとの連携の可能性と限界について、例えば動植物プランクトン~魚・油脂の自然界での種類分布などの理解から食育、カロリーへの深い理解へつなげるなど~

A89:生物教育と食育の連携はとても重要でとくに限界を考える必要はないのではないでしょうか。たとえば、生物教育を限定せずに、食育を農業から(つまり自分で食材を育てるところから)始め、農業の中で生物教育をすれば実質的な教育になると思います。
(回答者:JT生命誌研究館館長・中村 桂子 様)


Q90:最近「自然と人間の共生」という言葉を良く耳にします。この発想自体、人間は自然界の一員にすぎないことを忘れた思い上がったものだと思うのですが、中村先生はどのようにお考えになられますか?

A90:まさにおっしゃる通りです。人間はヒトという生きものであり、自然の一部なのですから。ついでに科学と社会などという言葉も同じように抵抗を感じます。
(回答者:JT生命誌研究館館長・中村 桂子 様)

Q91:生命誌マンダラはどのような基準で階層を組み立てたのですか?(どのようにしてあの国が作られたのですか?)

A91:マンダラの発想の始まりは、ゲノムが階層を貫いているところにあります。分子ー細胞ー組織ー臓器ー個体ー種ー生態系。ゲノムは分子であり細胞・組織・臓器・個体・種をきめます。私のゲノムがあり、ヒトゲノムがあるというように。これはとても大事なことなので、階層を貫くことを表現したいと思い、マンダラにしました。従って、中心はゲノムDNA(分子)の入った細胞であり、具体的には受精卵です。そこからさまざまな細胞が生れ、組織が生じ・・・という図になっています。生命誌マンダラ、是非生命誌研究館のホームページ(http://www.brh.co.jp)でごらん下さい。一番よいのは研究館で織物を見ていただくことです。いつかいらして下さい。
(回答者:JT生命誌研究館館長・中村 桂子様)


Q92:自分が通っていた学校では地学が履修できなかったのですが(教師がいなかったので)、これから自然を広く深く学ぶために独学で地学を学ぼうと思っています。その際に、参考となる書籍があれば知りたいです。(生物と関連づけが深く記載されているような地学の本など)

A92:私は地学が専門ではないので教科書はよく知りません。生物との関連で地質のことを研究してる研究者に川上紳一さんがいます。川上さんの本を読むところから入るとよいと思います(研究館のホームページに入っていただくと、季刊生命誌の30号で私と川上さんとの対談があります。少し古いですが、その辺りから入っていただくのもよいと思います)。
(回答者:JT生命誌研究館館長・中村 桂子 様)


Q93:ゲノムという名前の由来は何ですか。地球上で一番ゲノムの数が多い生物は何ですか。

A93:ゲノムはgenome。geneが遺伝子ですからgeneが集まって一体となっているものという意味でしょう。因みに染色体はchromosomeです。
(回答者:JT生命誌研究館館長・中村 桂子 様)


Q94:

  1. ゲノム解析をすることで、初めの生物を特定することは出来るのでしょうか。
  2. どのようにして、生物は作られたのでしょうか。

A94:

  1. 現存のゲノムはすべて最初の生物から始まったのですから、全生物のゲノムを解析し進化の道筋を逆に辿れば始まりが見えてくるはずですが、進化は、規則的に起きるものではありませんから現実には難しいでしょう。細胞が存在するために最低限必要なゲノムを探る研究も行なわれています。
  2. 生命の起源は今研究が進められています。まだ答は出ていませんが、研究は急速に進んでいますのでインターネットで研究の状況を調べてみると面白いと思います。
    (回答者:JT生命誌研究館館長・中村 桂子 様)


Q95:高校生物教育を面白くするための工夫として、どのようなお考えがありますでしょうか?

A95:基礎を教える座学は重要ですが、やはり生物における不思議を実体験させることは、より重要と思います。人間が知り得ている生物に関する知識は、まだまだ限定的で、そのほとんどが謎に包まれているのが事実です。その謎には、人間の英知を持ってしても、想像だにできない、すばらしい生物の能力の存在が含まれています。不思議が面白いということを伝えるような、プレゼン=授業が行えれば、学生たちの生物への興味は、もっと増すんだと信じています。
(回答者:農業生物資源研究所 主任研究員・黄川田 隆洋様)
面白いかどうかは、人によって異なりますが、私は、自分で探り当てた問題を実証し、合っていたときにはすごくエキサイトします。高校では、敷かれたレールの上を走るような実験や実習が行われていると思いますが、どこに問題があるのかを探すような授業があれば面白いと思います。
(回答者:基礎生物学研究所教授・小林 悟様)
さまざまな方法があると思いますので、一言では申し上げられません。ただ皆んなが面白いと思う工夫よりも、関心をもつ生徒が惹きつけられる先生の存在が重要だと私は思っています(私自身が先生のすばらしさに惹かれてこの道に入りましたので)。
(回答者:JT生命誌研究館館長・中村 桂子 様)


Q96:生物学はまだまだ「生物」には追いついていないんだと思いました。想定外を追いかけるのが楽しいんだと思います。

A96:そう思います。
(回答者:基礎生物学研究所教授・井口 泰泉様)
はい。全くその通りだと思います。ヒトは既に何でも知っていると驕っていますが、実は全然生物の何たるかを知っていません。不思議を知ることが研究のモチベーションになり、より不可思議な生命現象を追い求めていくことになります。自分たちが、まだまだ無知である事を認識するが、研究を真っ当に進める上で重要であると考えています。
(回答者:農業生物資源研究所 主任研究員・黄川田 隆洋様)
新しい発見のほとんどは想定外であると思います。おっしゃる通り、それを追いかけるのは楽しい作業です。
(回答者:基礎生物学研究所教授・小林 悟様)
まさにおっしゃる通りです。なぜこんなおかしなことをするんだ、なぜこんなおかしな奴がいるんだ・・・いくらでも楽しみはあります。
(回答者:JT生命誌研究館館長・中村 桂子 様)


Q97:先生方どなたでも構いません「研究内容がひとつに決められません。生物(特に土壌、海など生態学分野)だけでなく科学全体の話を聞くのが大好きなので、ひとつの生物・テーマに絞ろうとするとどうしても大きすぎるテーマになってしまうのですが、何か解決へのヒントがありましたら教えて頂けないでしょうか。宜しくお願いいたします。」

A97:何か疑問を持つことから初めてみてはどうでしょう。
(回答者:基礎生物学研究所 准教授・高橋 俊一様)
きっと、知識を得ることが大好きなんでしょう。本やインターネットには沢山の情報が記載されています。でも、自然科学を行う上で重要なのは、知識よりも不思議を感じる心だと思います。本を読む手を一旦止めて、外に出て下さい。何気ない風景に、自分の知識では説明のつかない不思議な事が多々あることに気がつくと思います。仮に、その不思議だと思うことが、既に知られていることでも構いません。その不思議を理解するために、徹底的に調べて下さい。調べて見ても、まだ分からない事があれば、それを突き詰めていって下さい。そうやって進めていく行為こそが、研究です。五感を使って、自然の中に存在する"wonder"を見いだして下さい。
(回答者:農業生物資源研究所 主任研究員・黄川田 隆洋様)
テーマをとりあえず1つに定めて、じっくりと思索に入らなければ、また、実験をしていかなければ、出会えないテーマもあります。私もそうでしたが、考えすぎないで、とにかくどこかの分野に飛び込んでみることかもしれません。そうすれば道が開けることもあり、道を変えることもできるのですから。
(回答者:基礎生物学研究所教授・小林 悟様)
学部1年生の方でしょうか?であれば、なんにも関心をもって頭をつっこんでみてはいかがでしょうか。最初からしぼらなくても良いと思います。
(回答者:帝人株式会社構造解析センター形態解析グループリーダー・広瀬 治子様)
わたし(山口)は研究者ではありませんので研究という立場ではお答えできませんが、私の場合、自分の興味は何か、どこにあるかを知った時に、その分野を自分のテーマにしようと決めました。「共生」というテーマを持ち、その中でも面白い「昆虫と花の関係」に絞って突き詰めることを実践しています。それまでは様々なものに興味を持って、そのテーマにかかわる本と人から多くを学んできました。その経験が今でも役に立っていることは言うまでもありません。
自分が選んだテーマに関わる研究者がす少なかったため、自分なりに研究もしてきました。さらに私はフリーランスなので、仕事として成り立たせるため、それを社会的、科学的にアピールする方法を考え続けてきました。
広く興味を持ち、それを一つ一つ真剣に突き詰めてゆくのが道に通じることかもしれません。
(回答者:写真家・自然ジャーナリスト・山口 進 様)
研究は一人でできるものではありませんし、研究のやり方を教えてもらい、それを身につけることも大事です。ですから、身近にあり、関心を持てる研究室を訪ね、先生の話を伺い、先輩たちとも話しそこで自分の場を探すことが現実的でしょう。実際に研究をしているうちにそこから自分のやりたいことが見えてくるはずです。そしてだんだん広がりが出てくるでしょう。
(回答者:JT生命誌研究館館長・中村 桂子 様)


Q98:仏教を学んでいる者です。生物を研究されている皆様におかれましては生き物は何のために生きているのだとお考えになりますか。現時点での見解でけっこうです・また、生命現象を宇宙におきている現象と捉えた場合は、生物と非生物との境界はあるとお考えでしょうか。

A98:生きとし生けるものと、そうでないものとは、あまり違いが無いと思います。ネムリユスリカの無代謝休眠の存在は、生と死が曖昧な関係にある事を気づかせてくれます。大きな宇宙の中で、生物がなす役割は、物質の転流と変化を効率良くさせる存在に他ならないと思っています。生物がいるおかげで、環境の変化は劇的に大きくなっていると思います。ビッグバンが起きてから、この宇宙はいつも変化し続けています。生物も、その動的な状態の一翼を担う装置なのではないかと考えています。
(回答者:農業生物資源研究所 主任研究員・黄川田 隆洋様)

  1. 生物を研究していると「生物は生存し続けるために生きている」ように見えます。2.その答えを出すには、生命とは何か、生き物とは何かをはっきりさせる必要があると思います。
    (回答者:基礎生物学研究所 准教授・高橋 俊一様)
    答えになっているかはわかりませんが、生物が生きる目的はないと思います。生物と非生物の境界の論議は古くからあり、定義も多くなされています。しかし、まだ、私自身この件に関して深く考えしっくりとくるものは持ち合わせていません。
    (回答者:基礎生物学研究所教授・小林 悟様)
    禅問答のようですね。何かのために生きているとは考えていません。偶然ヒトとして生まれてきて、その生命をまっとうしていると思っています。元素があって、化学反応がおこって、アミノ酸ができて、生きものが生まれました。生物と非生物の境界はあると考えます。
    (回答者:帝人株式会社構造解析センター形態解析グループリーダー・広瀬 治子様)
    私(山口)個人としては「土」になるために生きていると考えています。土は植物を生かし、生き物を生かし、育みます。
    いかに良い土となりうるか、が自分にとって大きな課題です。
    (回答者:写真家・自然ジャーナリスト・山口 進 様)
    宇宙の中に地球という星が生れ、そこに生きものが誕生した歴史がわかってきました。構成する要素に生きもの特有のものはありませんが、生きものには生きもの独自の特徴があります。生物と非生物の間にあるのは、連続の中の非連続、非連続と見える連続と言えると思います。
    生きものは続いていくシステムであり、何のためではなく、在ることそのことに意味があるもののように思えます。
    (回答者:JT生命誌研究館館長・中村 桂子 様)