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自然科学研究機構シンポジウム

第6回自然科学研究機構シンポジウム Q&A

第6回自然科学研究機構シンポジウム
「宇宙究極の謎―暗黒物質、暗黒エネルギー、暗黒時代―」(2008年9月23日開催)
講演者への質問とその回答

当日参加者の皆様から寄せられた質問に対する講演者の先生方からの回答です。
※質問は手書きで承ったため、一部読み取ることができなかった文字につきましては、●マークで表記しています。


質問と回答


Q1:
1.ダークエネルギーの時間変化は測定できないのでしょうか(変化しているのか)。
2.ダークマターの時間変化は測定できないのでしょうか(一定なのか)。
A1:ダークエネルギーの時間変化の測定は、観測の次の大目標です。ダークエネルギーが宇宙の膨張速度を支配しているので、膨張速度の詳細な時間進化を測定する(つまり遠方の天体までの距離を測定する)ことで、ダークエネルギーの時間変化を測定できるのです。これはダークエネルギーの正体に迫る今のところ唯一の方法であると考えられています。一方、ダークマターは、正体は不明だけれども通常の物質なので、時間進化が、バリオン(元素)と同じと考えられます。そのため、ダークエネルギーほど、その時間進化を測ろうという試みは盛んではありません。ダークマターの時間進化を測ることができるとすれば、ダークマターが宇宙の膨張を支配していた時代を見なければいけません。それは、宇宙誕生後60億年よりも前、つまり80億光年以上遠方の天体までの距離を測定しなければいけません。それは非常にむずかしいことですが、超新星を使った観測結果として、ダークマターは普通の物質と同様の時間進化をしていると思って矛盾がないことはわかってきました。(回答者:杉山先生)


Q2: 暗黒エネルギーに関してもう少し数式で理解を深めたい(ことはできないと思いますが...)と考えております。関連参考書(いわゆる科学の読み物)、リンク等ありましたら教えてください。また、学会に入らなくても天文学、物理学の論文を見ることはできるでしょうか(国会図書館?)。宜しくお願いします。貴重なお話ありがとうございました。
A2:数式はそれほど難しいものではありません。例えば、最近出版された、天文学会が編纂した教科書、宇宙論2(2)(シリーズ現代の天文学第3巻、日本評論社)がよい教科書だと思います。科学読み物であれば、拙著「宇宙その始まりから終わりへ」や「狂騒する宇宙―ダークマター、ダークエネルギー、エネルギッシュな天文学者」ロバート・P.キルシュナー(著)などがおもしろいかもしれません。論文については、英文の論文であれば、専門家は、http://xxx.yukawa.kyoto-u.ac.jp/というアドレスにあるastrophysicsに、論文を必ず投稿します。ですので、この中からおもしろいものを見つけるのですが、それ自身非常に大変な作業かもしれません。日本語であれば、天文学会の天文月報、物理学会の物理学科誌は確かに、専門家が非専門家に説明をする、というスタイルですので、興味あるものを見つければよいかと思います。天文月報については、過去の記事はすべてpdf化してあり、自由に読めるはずです。http://www.asj.or.jp/geppou/ を参照ください。物理学会誌については、2年以上まえのものは無料で読めます。http://wwwsoc.nii.ac.jp/jps/jps/butsuri/index-j.htmlを参照ください。もちろんこれらは、図書館にも入っていることが多いので近くの図書館から調べられるとよろしいかと思います。(回答者:杉山先生)


Q3:
1.暗黒物質はブラックホールに含まれていますか。
2.地球には暗黒物質はどの位の量ありますか。
A3:ブラックホールにも含まれているかもしれませんが、中は見えませんのでわかりません。もっとも、ブラックホールは、重たい星の終末段階で、自分自身の質量を支えきれなくなってできると考えられています。つまり、星ですので、ほとんどの質量は元素から来ています。できてしまったブラックホールが暗黒物質を吸い込むことはあるでしょう。そう考えると、ブラックホールの質量の大部分は通常の物質、ごくわずかが暗黒物質ということになります。2番目の質問ですが、地球にも暗黒物質は絶えず降り注いできています。1平方cmあたり、一秒に10万個ほども降り注いでいるのです。これはあなたの体を毎秒1億個以上も貫いていることになります。(回答者:杉山先生)


Q4:
1.宇宙の膨張速度に空間的なゆらぎはあるのでしょうか。
2.銀河は回転していますが、宇宙大規模構造のレベルでも回転運動を行っているのでしょうか?
A4:これまでは、膨張速度に空間的なゆらぎはほとんどないと考えられてきました。しかし、暗黒エネルギーを説明するためもあり、空間のある部分は速く、ある部分は遅く膨張するようなモデルを考える研究者が増えてきました。物質の量の多少により、膨張の速度が変わるために、巨大な穴(差し渡し10億光年?)が宇宙に存在して入れば、膨張速度の空間的なゆらぎができるのです。2番目の質問ですが、大規模構造のレベルでも部分部分は回転はしています。ただ、宇宙全体では回転はないので(あれば、宇宙マイクロ波背景放射の温度パターンに現れます)巨大な構造になればなるほど、回転運動は小さくなっていきます。(回答者:杉山先生)


Q5:理論の展開が総て欧米の先駆者の仮説、理論によりその追試を聴いている様に思えますが、自分達の主張をどうして前面に出して説明をしないのか?ダークマターという発想は日本人の中では、考えられていなかったのか?
A5:厳しいご指摘、しっかりと受け止めさせていただきます。暗黒物質については、1930年代にはすでに米欧で必要であることが観測的に認識され始めていました。そのころの日本の天文学は、全く後進でした。日本が世界と戦える望遠鏡を手に入れたのは、1999年に完成したすばる望遠鏡になってからなのです。ただし、電波望遠鏡をつかって、暗黒物質の存在を欧米に続いてではありますが、確認した先駆的研究は日本にもありました。また、理論的研究については、日本の佐藤勝彦・小林(ノーベル賞受賞者)が正体に関する先駆的研究を欧米と同時期に行っています。つぎに、暗黒エネルギーについては、じつは1990年代初頭に複数の日本人研究者が観測的・理論的にその存在について提唱をしていました。残念ながら、観測の不定性、また国際的な主張の弱さから、90年代後半の米欧の超新星探査計画によってその手柄を完全に取られてしまったのは大変残念だと思っています。(回答者:杉山先生)


Q6:
1.4Dシミュレーションで青いものがダークマターで、白いものが水素ガスなのでしょうか?
2.月形成シミュレーションでぶつかったあと、地球の赤道のまわりを粒子がまわって月になりますが、地上でも赤道付近には、月と同じ割合の成分があるのでしょうか。
A6:
・宇宙大規模構造のシミュレーションでは、青がダークマターで、白いものが「銀河」です。実際には銀河の形成の計算はしていませんので、ダークマターの密度の特に高い部分が銀河になったと考えて色をつけています。(回答者:杉山先生)
・4D2Uの渦巻銀河シミュレーションでは、青がガスで白がガスから生まれた星です。暗黒物質は計算にはもちろん入っていますが表示はされていません(ガスの分布に近いです)。詳しくはhttp://4d2u.nao.ac.jp/t/var/download/index.php?id=spiral2をご覧ください。(回答者:児玉先生)


Q7:通常物質、暗黒物質もエネルギーと考えると暗黒エネルギーとあわせた総和について、過去~現在~未来にわたり、エネルギーの保存性は保たれているとお考えですか?
A7:系全体のエネルギー+仕事は保存しています。物質について考えてみます。物質については、エネルギーの大部分は質量エネルギー(mc^2)の形をしています。膨張によって物質は薄まっていくために、体積当たりの質量、つまり密度は減少していきます。ただし、空間が拡がっていくために、宇宙全体は大きくなります。薄まる効果と空間が拡がる効果がちょうど釣り合っていて、物質のエネルギーは保存しています。一方、暗黒エネルギーは、宇宙全体に拡がっていて、膨張によってほとんど薄まらないと考えられています。膨張で空間の体積が拡がると、宇宙全体の暗黒エネルギー量は増加したように見えます。この増加は、実は、暗黒エネルギーが「負」の圧力を持って、宇宙の膨張に対して仕事をすることと釣り合っています。仕事をすると、通常はエネルギーが減少するのですが、負の圧力で仕事をするために、増加するのです。この仕事を含めれば全体は保存していることになります。(回答者:杉山先生)


Q8:COBEやWMAPは137億年先の宇宙の晴れ上がり観測していると思いますが、一方、現在われわれの居るこの場所の宇宙空間も2.7Kの物質(?)で満たされ2.7Kの電波を放射していると考えて良いのでしょうか。または、両者は同一なのでしょうか。ベーシックな質問ですいません。
A8:晴れ上がりの時期に宇宙を満たしていたのは、絶対温度3000Kほどの赤から赤外線で輝く放射でした。その時期から137億年かけて、宇宙が膨張する間に、温度が下がり、現在の温度が2.725Kになったのです。現在の宇宙は、この2.725Kの放射(これは波長1mm程度の電波)によって満たされています。COBEやWMAPが直接観測しているのは、この2.725Kの電波です。(回答者:杉山先生)


Q9:宇宙の始まり~晴れ上がりの38万年、暗黒時代4億年の算出根拠を教えて下さい。
A9:晴れ上がりが38万年というのは、熱くて密度の高いビッグバンの状態で、陽子と電子が結びついて、水素原子になる過程を、理論的・数値的に計算することで、時期が決められるのです。暗黒時代は、最初の星が誕生するまでの時期です。星が誕生すれば、その星が出す紫外線によって水素が再び陽子と電子に分離して、宇宙が少しだけ不透明になります。この不透明の度合いを、宇宙マイクロ波背景放射にごくわずか含まれる、偏光(偏波)成分を測定することで、見積もります。偏光は、光が反射すると生じることがわかっています。ですので、宇宙マイクロ波背景放射という光がどれだけ電子によって反射されたか(これが不透明の度合いです)を、偏光の度合いによって知ることができるのです。WMAP衛星は、この偏光を測定することに成功しました。そこから、宇宙が星からの光によって10%程度不透明になっていることがわかりました。そのためには、4億年の時代には星が存在し、宇宙全体に電子を供給していなければいけないことがわかるのです。この時期が後になれば、不透明の度合いが下がりますし、もっと早い時代であれば、もっと不透明の度合いが高いはずなのです。(回答者:杉山先生)


Q10:ビッグバンの前には、何が存在していたのですか。無から有は生じないと思います。
A10:宇宙の始まり、というのは、時間・空間が生まれた瞬間です。ですので、それ「以前」という時間を考えることには意味がないのかもしれません。ホーキング博士は、この宇宙の始まりを南極点に例えています。このアナロジーでは、北に向かって移動することを、時間の経過と考えます。南極点からは、どの方向に移動しても必ず北に向かいますので、時間は進行していきます。しかし、南極点より南、を考えることはできません。宇宙の始まりより前は考えられないのです。宇宙という状態が、泡のように突然生じたと考えるのが、無からの宇宙の創生という考え方です。ただし、現代科学では、未だ、宇宙の始まりをちゃんと解き明かすことはできていません。ホーキング博士の考えも、あくまでも一つの仮説にすぎません。例えば、現在の宇宙は、以前の宇宙が、他の宇宙と衝突することで始まった、と考える研究者もいるのです。(回答者:杉山先生)


Q11:超新星の明るさが一定であるということを、観測的にどのように担保するのでしょうか?(標準光源となるのは、おそらくその根拠があると思いますので、それを示していただければ)宜しくお願いします。
A11:実は、すべての超新星(ここではIa型を考えます)が同じ明るさではありません。超新星はいったん明るく輝いたあとに、暗くなっていきますが、ゆっくりと暗くなっていくものは明るく、はやく暗くなっていくものは暗い、ということが明らかにされたのです。この関係は、銀河系の比較的近くで起きた超新星爆発を調べることで明らかになりました。近くなので、他の方法(例えば、ケフェウス型変光星の周期・光度関係)でそこまでの距離が求められています。その距離を用い、超新星の見かけの明るさと比較することで、超新星の本当の明るさがわかります。このような「距離」がわかっていて、本当の明るさがわかる超新星を丹念に調べた結果、暗くなるはやさと、本当の明るさの関係が明らかになったのです。(回答者:杉山先生)


Q12:
1.空間の膨張により、素粒子の大きさは変わらない様ですが、何故でしょうか?
2.宇宙の初期は非常に小さい空間に物質がとじこめられていたと思いますが、ブラックホールにならなかったのは何故でしょうか?
A12:
1.空間の膨張は、非常に弱い力しか、近くの距離では及ぼしません。距離が大きくなると、どんどんと強くなる力なのです。素粒子や、原子、私たちの体、地球、などは、電気的な力などが、膨張の力よりもはるかに強く、膨張を感じません。銀河同士の距離になってはじめて、膨張の効果が現れてくるのです。
2.ブラックホールになるためには、中心があり、外側が真空の空間である必要があります。宇宙には、中心もなく、「外側」があるわけでもないので、ブラックホールにはならないのです。しかし、誤解を恐れずに言えば、ある意味で、私たちの宇宙は、ブラックホールの中身ともいえます。宇宙の始まりでも、現在であっても、光が到達できる限界(現在では137億光年)が、ちょうど宇宙の密度で決まるブラックホールの半径になっています。(回答者:杉山先生)


Q13:
1.ハッブルの式(V=Hd)は、当時、相当無理な直線がひかれて出された様ですが、その後の観測で疑いもなく直線なのでしょうか?
2.上記の式の時(何故か理由は別として、「ゆらぎ」の仕方etcにより)、いくつかの性質の異なる点が混じっていた(いる)ということはないのでしょうか?
A13:
1.その後の観測が精密に行われ、とくにハッブルの名前を冠したハッブル宇宙望遠鏡が、遠方の銀河までの距離をケフェウス型変光星(周期・光度関係によって最も正確に距離が決められる)によって決めたことによって、直線であることについては疑いがなくなっています。
2.膨張の速度は距離が離れれば大きくなります。近くの銀河だけを用いていた、ハッブルの頃には、各々の銀河が膨張以外に持っている速度(銀河同士が重力で引き合うことによって生じる)が混じっていて、うまく直線にはのらなかったのです。例えば、一番近い大きな銀河であるアンドロメダ銀河は、遠ざかるどころか、私たちに近づいてきているのです。また、ハッブルの時代には、まだ、距離を決める変光星をうまく分類できず、異なったものも混じっていて、それが問題を起こしたということもあったようです。(回答者:杉山先生)


Q14:加速しながら、膨張している宇宙にどのようなenergyが供給されるかについて、質量が生まれ続け、それが宇宙膨張をひっぱっているという仮説はないでしょうか?
A14:質量ではないのですが、真空のエネルギーが供給され続けている、と考えています。これが暗黒エネルギーの正体だと思われています。(回答者:杉山先生)


Q15:暗黒物質が回転運動を支えているとのことだが、銀河の形態によって、暗黒物質の量の多少が推測できるということか?
A15:回転の速度によって、暗黒物質の量の多少は推定できます。どうも大きな銀河ほど、含まれている暗黒物質の割合が通常の物質に対して大きいということがわかっています。銀河の形態が違うもの、例えば、楕円銀河では、回転運動はみられません。その代わりに、銀河の中の星のランダムな運動を測定することができます。ランダムな運動の速度が全体として大きいほどそこに含まれる質量が大きい、ということから、暗黒物質の量を推定できるのです。(回答者:杉山先生)


Q16:(a)、(b)で(b)こちらの方が加速しているというのは、どうしてか?加速度は数値を入れないと分からない。少なくとも速さ一定なら(a)の方が速い。(注)手書きの図を添えて質問をいただきました。
A16:現在の宇宙の膨張速度は、ハッブル定数として、観測的に決定されています。そのため、過去にさかのぼると、加速膨張は現在よりも膨張が遅く(ゆっくり)、減速膨張は現在よりも膨張が速いことになります。車が40kmで走っているときに、加速してその速度になったのだとすると、少し前は、40kmよりは遅かったはずなのです。ですので、お書きになられた図(b)の方が過去からゆっくり膨張してきているのですから、加速膨張、ということになるのです。(回答者:杉山先生)


Q17:宇宙の曲率がゼロとの説明がありましたが、現在の宇宙は曲率ゼロで確定なのでしょうか。また、少しのエネルギー密度の変化により曲率ゼロの宇宙から正、負の曲率宇宙へ変化してしまうことは今後あると考えられるのでしょうか。
A17:
1.宇宙マイクロ波背景放射の温度揺らぎのパターンを測定することで、曲率がゼロか、ゼロに近い、ということは明らかになっています。曲率が正であれば、空間が凸レンズとして働き、パターンが拡大されて見えます。また負であれば、凹レンズとして働きパターンは縮小するのです。この温度揺らぎパターンについて、WMAP衛星の観測結果と理論計算を比較したところ、現在の宇宙の曲率は0か0に近いことがわかったのです。ただし、ゼロに近くても、ごくわずか正、ないし、負である可能性は残されています。
2.空間の曲率の正・負は、宇宙の進化の途中で入れ替わることはありません。エネルギー密度が増加すると、一見空間の曲率を正の方向に強める効果があるように思われますが、膨張の速度を速める効果として現れるだけなのです。空間が膨張すると、曲率は、正であれ、負であれ、その値(曲がり具合)は小さくなりますが、入れ替わりはしないのです。(回答者:杉山先生)


Q18:天の川銀河とアンドロメダ銀河が50億年後にぶつかるときには、太陽系や地球はどのようになりますか?また、太陽が燃えつきて、巨大赤星となるタイミングより先ですか。後ですか?
A18:天の川銀河とアンドロメダ銀河が衝突しても、星同士がぶつかる確率は非常に小さいです。つまり、太陽や地球が他の星に直接ぶつかることはないでしょう。たまたま、近くを大きな星が通過すると、軌道が乱されることはあるかもしれませんが。50億年後といのは、ちょうど太陽が巨星になり膨らむころと同じと考えられています。少しこの数字には不確定性もあり、70億年後と考えている研究者もいます。(回答者:杉山先生)


Q19:暗黒エネルギー、暗黒物質、バリオンの割合が算出されていますが、どのようにして算出したか、詳しく教えて頂けないでしょうか。
A19:宇宙マイクロ波背景放射の温度揺らぎの空間パターンを詳細に調べることでこれらの割合は得られます。温度揺らぎは、宇宙が38万年の時代の音波です。というのは、この時代までは、宇宙空間が、光・陽子・電子が混じり合ったプラズマ状態になっていたからです。プラズマは空気のような圧縮できる流体です。圧縮性の流体に生じる密度の粗密の伝播こそ、音なのです。この音は、その圧縮性流体の成分(陽子、つまりバリオンの量)によって音程を変えます。ちょうどヘリウム入りの空気で声が変わるのと同じです。また、宇宙の大きさによっても音程がかわります。ちょうど楽器と同じです。この大きさは、宇宙の物質の量によって決まるものです。このようにして、物質の量(暗黒物質の量)、バリオンの量が、温度揺らぎの空間パターンと関係してくるのです。また、空間の曲がり具合(曲率)によっても、空間パターンが拡大したり縮小したりします。空間の曲がり、暗黒物質、バリオンの量がわかると、暗黒エネルギーの量も決定できます。暗黒物質+バリオン+暗黒エネルギーが、空間の曲がりを決めるからです。もしこれ以上の詳しい説明が必要でしたら、拙著、「ビッグバンと膨張宇宙の物理(岩波書店)」、ないしは、「宇宙その始まりから終わりへ」を参照ください。(回答者:杉山先生)


Q20:背景放射スペクトルが2.7Kのプランク放射と理解していますが、宇宙内の光子の断熱膨張の結果ですか。光子集団に熱平衡が成立している必要はないですか。宇宙を充たす有限速度の光子全体にそうした平衡が成り立つのは不思議に思えますが、いかにしてそれが成り立っているのでしょうか。仲介する有限質量の物質は要らないのですか。
A20:宇宙初期には、熱平衡が成立していました。この平衡は、光子と電子との間に絶えず起こる散乱によって成り立っていたのです。光子、電子の間でエネルギーをやり取りする結果です。光子だけでは、熱平衡にはなれません。やがで、宇宙が膨張し、冷えてくると、光子や電子の数が減り、反応が起きにくくなります。宇宙の温度が1千万度程度まで下がったときに、熱平衡はもはや成り立たなくなります。この後は、熱力学的な温度、というよりは、空間の膨張に伴って、光子が波長を伸ばす結果、かつて成立していた熱平衡が実現していたプランク放射を「凍結」したまま、長い波長の方に分布がずれていきます。その形はまさに、低温のプランク分布なのです。現在の宇宙では熱平衡は成り立っていませんが、かつての熱平衡の名残として、プランク分布が凍結されているのです。(回答者:杉山先生)


Q21:昔、光の媒体として「エーテル」という物質が考えられたことがあると聞きました。暗黒物質、暗黒エネルギーは、昔のエーテルのような運命をたどることはないのでしょうか。(本日はありがとうございました。)
A21:可能性はありうると思います。特に暗黒エネルギーについては、私たちの考えている理論の方に限界があってこのような不思議なものを考えなければいけなくて、もっとよりよい宇宙を説明する理論が出来上がれば、その中に組み込まれるべきもの、と考えている研究者は多いです。シカゴ大学の教授は、「天動説で天体の運動を説明するために周転円というものを考えていた。しかし、地動説ではそのようなものは必要がなくなった。暗黒エネルギーもそのようなものであるかもしれない。」と言っています。暗黒物質の方は、見えていない物質、というだけですから、これまで見つかっていない新しい粒子等が大量にあればよいのですから、エーテルや周転円ほどの「ごまかし」ではないと考えています。ただ、近い将来の加速器実験などで見つかってこなければ、謎は深まることは確かです。(回答者:杉山先生)


Q22:私の同級生にも宇宙物理学教室に進んだ友人が居ましたが様変わりは劇的ですね。宇宙が始めに揺らぎ物質が星や銀河と暗黒物質そして暗黒エネルギーに分かれたそうでうが、前2者が何故4.6%、23%に大きく差が出来たのですか?最初の空間は何だったのですか?是非辿りついて下さい。物質だったとすれば、1:1(1:1:1・・・)に分かれるのではと思いましたので...。理論的発展も必要ですが、観測機器と観測技術の革新的な発展が必要ですね。全ての科学で言えますが...56年前に20才だったら私も違う道を歩いたと思うことが多いこの頃です。原子力をやりましたが、宇宙は素晴らしいですね。夢を果たして下さい。
A22:激励、ありがとうございます。宇宙の最初に物質などが同じ量、出来上がったと思っていた、とのことですが、どのように物質が生成されるのか、その過程によって、生成量には差ができます。例えば、陽子(バリオン)、電子、光は、宇宙の始めには互いに繰り返し衝突をすることで、強く結びついていました。これらの数はほとんど同じであったと考えられます。ところが、現在は、光(光子)の数(宇宙マイクロ波背景放射)は、陽子や電子の数の10億倍ほどもあります。これは、宇宙初期には、陽子や電子とほぼ同数あった反粒子、つまり反陽子や陽電子といったものが、宇宙が膨張するにつれて、陽子や電子と衝突し、互いに消滅していった結果、反粒子はすべて消えて、陽子や電子も10億個に1だけしか残らなかったためと考えられています。粒子と反粒子をつくる反応の対称性が破れているために、わずかに数に差があり、粒子だけが残ったというわけです。一方、暗黒物質は、粒子であるとすれば、ビッグバンの始まりに作られます。そのときの温度、また暗黒物質粒子の質量などによって、その存在量は決定されます。存在量がバリオンの5倍ほどある、というのはある種、偶然であり、10倍でも0.1倍であった可能性もあると考えられます。暗黒エネルギーがなぜ、これだけたくさん現在の宇宙にあるのかは、今のところ全くわかっていません。(回答者:杉山先生)


Q23:宇宙空間の膨張はどのスケールレベルなのでしょうか?我々の銀河はアンドロメダ銀河と衝突するとの事ですが、数10万光年の範囲では、膨張(暗黒エネルギー)の影響より重力の作用の方が大きいということでしょうか?
A23:膨張を「力」によって引き起こされると考えると、この力は、距離に比例して大きくなっていきます。距離が大きくなると、どんどんと大きくなっていくのです。例えば私たちの体は膨張では大きくなりません。1mぐらいのスケールでは、膨張をさせる力は、体を結びつけている電気的な力に比べてはるかに小さいのです。太陽系の軌道も大きくはなりません。銀河系も、自身の重力に比べて、膨張によって引き延ばされる力は小さいので、膨張で大きくはなりません。膨張させる力は、銀河同士ぐらいの距離になると、はじめて効くようになるのです。アンドロメダ銀河と銀河系は、互いにとても重く、また距離も比較的近い(250万光年)ため、互いの間に働く重力が空間を膨張させる力に打ち勝って、近づいているのです。およそ1000万光年よりも離れると、膨張が支配するようになります。(回答者:杉山先生)


Q24:望遠鏡のより一層のレベルアップの為、米国、カナダとの協力をお考えのようですが、望遠鏡の種類が違うのかもしれませんが、アタカマに建設中の電波望遠鏡との協調で現状のレベルアップははかれないのでしょうか。
A24:電波望遠鏡と光赤外線望遠鏡では、見える天体が違います。光や赤外線は比較的温度の高い天体から発せられるのに対し、電波は冷たいガスから発せられるためです。波長が1000倍ほど違いますので、例えば光赤外線望遠鏡の鏡の精度は電波望遠鏡のアンテナより1000倍高いものが必要となりますので、電波望遠鏡のレベルアップでは光赤外線の観測はできないのです。(回答者:家先生)


Q25:観測技術の向上が天体発見と宇宙研究の進歩に貢献している件、理解できました。ありがとうございます。観測機器の大型化とともに、望遠鏡の宇宙軌道配置も進んでいます。地上望遠鏡と宇宙天文台とのすみ分けはどのようにお考えですか?
A25:地球の大気に妨げられて地上には届かないX線や一部の赤外線などの観測は宇宙望遠鏡でしかできません。地上からも観測できる可視光や赤外線、電波の観測でも宇宙望遠鏡での観測のほうが、本来は良い観測ができます。しかし、宇宙望遠鏡は地上望遠鏡に比べて桁違いに高額な予算を必要としますので、大きな望遠鏡をつくるには地上での建設が現実的です。補償光学が実現するようになって、地上の大型望遠鏡のほうが宇宙望遠鏡より解像力も凌ぐようになってきました。すばる望遠鏡など大型の地上望遠鏡は集光力がハッブル宇宙望遠鏡より大きいので、光をスペクトル分解して詳しい分析をすることで、宇宙望遠鏡の機能を補っています。(回答者:家先生)


Q26:ライマンα線で宇宙の端の星の光をとらえる●、これを観測するためにはある程度の光の強度が必要と思いますが、どれ位の恒星であれば観測可能なのでしょうか。
A26:すばる望遠鏡で捕らえられるライマンα輝線銀河の限界は25等級です。5等級で100倍ですから、シリウスなどの一番明るい星に比べるとわずか100億分の一の明るさしかないということになります。(回答者:家先生)


Q27:シミュレーションの規模を示す数字のお話がありましたが、シミュレーションの最小単位は物理/空間的には何に対応されているのでしょうか?
A27:暗黒物質を含めた物質の塊に相当します。シミュレーションの規模が大きいほどこの塊が小さいことに相当し、より詳しい構造まで解明できます。(回答者:吉田先生)


Q28:初期の星の形成へのダークマターの寄与と現在の星の形成へのダークマターの寄与とは同じと見ることができるのでしょうか。
A28:初期宇宙の星形成ではダークマターは不可欠ですが、現在の星形成、たとえば天の川銀河の中での星形成にはダークマターはほとんど影響しないと考えられています。(回答者:吉田先生)


Q29:銀河、星は何故、空間に浮いた状態にあるのでしょうか?もしくはその存在に決められた位置があるのか?
A29:それぞれが固有の速度を持って運動しています。(回答者:吉田先生)


Q30:暗黒物質が初期恒星形成に強く関わっているとのお話から気になったのですが、重力以外に相互作用に乏しい暗黒物質は1.核融合に寄与しないのか?、2.現在の恒星と重なる様にして大質量塊となっていないのか?つまり、ex)太陽が実は5倍の質量を持っていないのはなぜか?質量/引力のみの相互作用で考えれば、太陽そのものに落ち込み質量を存在比倍しそうに思えます。
A30:暗黒物質は、はじめにガスを集める段階では非常に重要ですが、ガス雲の進化のある時点以降ではガス自身の重力の方が卓越し、最終的に形成される原始星や星には暗黒物質はほとんど付随しません。太陽にも暗黒物質はほとんど付随していないと考えられています。(回答者:吉田先生)


Q31:
1.大規模構造の生因は宇宙初期の密度(?)ゆらぎと密度(物質)間の重力だけですか。それで何故網目のようになるのか。点状が出来るか不思議に思うのですが。そもそも初期のゆらぎの原因は何ですか。
2.構造にはハチの巣状やY(120°)状等の対称性をもつ形がある様に思えたのですが、形状の程●は認められていますか。あるいは無秩序ですか。
A31:初期密度揺らぎの起源は難しい問題で実は今でもよくわかっていないですが、最も有力な説では、初期宇宙のインフレーションを引き起こしたとされる場の真空エネルギーに量子的な空間揺らぎがあって、それがひいては密度の揺らぎとなったと考えられています。その結果、小さな揺らぎほど振幅が大きく、小さな天体が先に成長します。それらが重力的に集まってより大きな構造が出来上がってくるというのが通説です。網目になるのは、非球対称な密度揺らぎがあると、つぶれた方向に重力が強くなるので、その方向によりつぶれるため、非対称性が成長します。従って球状より面状、面状より線状な構造が発展するのです。(回答者:児玉先生)


Q32:Weak Lens検知について:銀河の長軸の向きを手がかりにするとのことですが(重力?)、具体的にどのようにしてWeak Lens形状を求めるのでしょうか?(一見、長軸の向きはランダムのように思えます)
A32:背景銀河の形状を楕円で近似します。重力レンズを受けていなければ長軸の向きはランダムですが、重力レンズを受けるとランダムではなくなるので、十分な数の背景銀河の長軸方向の平均をとると、ある方向が決まるのです。(回答者:二間瀬先生)


Q33:
1."宇宙のエネルギーの23%が暗黒物質、73%が暗黒エネルギー"という表現はどのようにして求められたのですか?ここで用いているエネルギーはアインシュタインのE=Mc2で変換できるのですか?またはできないのですか?変換できない、あるいは、別種の変換が存在するのですか?
2.通常物質と暗黒物質とは衝突するのですか?しないのですか?しないとすればその理由を教えて下さい。するとすれば、暗黒物質の質量が計算できるように思うが、如何でしょうか?
A33:
1.暗黒エネルギーもE=Mc2という関係を満たします。暗黒エネルギーと暗黒物質の割合は、宇宙マイクロ波背景放射の温度揺らぎの観測から推定することができます。たとえばどの位の角度スケールの(周りに比べて)熱い領域があるかなどが、宇宙にどれだけどのようなエネルギーが含まれているかを示しています。
2.暗黒物質は通常の物質と衝突しません。暗黒物質も通常の物質も素粒子の集まりですが、各々は非常に小さく直接衝突する確率は無視できます。したがってお互いが近くを通ったとき、影響を及ぼすかどうかですが、暗黒物質は質量以外に通常の物質がもっている性質、たとえば電荷をもたないので、重力以外の影響を及ぼさないのです。(回答者:二間瀬先生)


Q34:重力はどのようにして(何を消費=転換)してエネルギーを発生し、発生した重力は物を動かす(互いに)後、何に戻る=転換されるのか?また、重力の伝搬速度は?(重力場によって変化するのか?)
A34:最初の部分の質問の意図はよくわかりませんが、一般相対論では重力とは時空の曲がりで、時空の曲がりそのものがエネルギーです。重力の伝搬速度は光速度です。(回答者:二間瀬先生)


Q35:赤方偏移の説明で、一般相対論によればシフト量は宇宙膨張や距離とは関係なく、単にその光の発した位置でのポテンシャルを表していたと思います(by Diracの教科書、日本図書館協会推薦)が、理論的飛躍のないように解説をお願い致します。
A35:ご指摘の通り、赤方偏移は非常に強い重力場があっても観測可能な量となり一般相対論で計算を行うことになります。ただ、銀河のスペクトルで通常観測される赤方偏移は特殊相対性理論の範囲で説明できる赤方偏移で、講演でご説明したように宇宙膨張によるものが大部分になり、ポテンシャル(重力)による効果はほとんど無視できます。この他に個々の銀河が運動していることによる赤方偏移(あるいは青方偏移)も近傍の銀河では大きな要素になっています。(回答者:土居先生)


Q36:明るさで距離を決めるとき、間にある物質などの吸収で光が暗くなったりしないのでしょうか。
A36:講演では時間の都合で省略をいたしましたが、ご指摘の通り、銀河や超新星の周りに存在する塵(固体微粒子)による散乱の影響が問題になっています。この塵の影響をいかに精密に測り、とり除いていくかが現在の重要な観測テーマの1つで、我々も研究をすすめています。(回答者:土居先生)


Q37:
1.ダークエネルギーの密度は宇宙の初期から今日まで一定と考えるべきなのですか。
2.ダークエネルギーの密度と宇宙項の大きさとの関係はどうなっているのですか。
3.宇宙項は方程式のなかで定数のような存在なのですか。
A37:ダークエネルギーの密度が一定かどうかが、まさに大きな研究テーマとなっておりますが、現状ではまだデータが不足して、おおまかには宇宙初期(宇宙背景放射)から現在まで一定と思ってよい、という程度のことしかわかっていません。ダークエネルギーは、宇宙項を含む概念として使われており、ダークエネルギーの密度が時間によらず一定であれば、その大小によらず、宇宙項と数学的取り扱いは同じになります。宇宙項は方程式のなかでは定数だと思っていただいてよいです。一方、ダークエネルギーは言葉の概念としては、わずかに密度が変化していく場合も含んでいます。(回答者:土居先生)


Q38:1000万年単位でみると、超新星爆発で、地球が明るく照らされたことはあるのでしょうか?つまり、地球に近い超新星爆発はどのくらい明るいのでしょうか?
A38:超新星は我々の銀河系程度だとおおまかに言って100年に1個出現します。したがって1000年の単位でみると、超新星はいくつも記録が残っており、例えば日本では藤原定家の明月記にも記されています。1572年に出現したチコブラーエが記録を残している超新星は、-4等級から-4.5等級で輝いたと記録があるそうで、金星程度の明るさということになります。もっと遡ればより明るい超新星も爆発したと考えられます。1000万年単位での確かな記録はありませんが、仮にごく近く、例えば10パーセク(32.6光年)で爆発したときには、-19等級程度の明るさになるので、満月よりも100倍以上明るく輝くことになります。ただし太陽に比べると数千分の1の明るさです。(回答者:土居先生)


Q39:宇宙膨張が減速から加速にかわった時点で、何があったのでしょうか?(どの時期に対応しているか)
A39:現在のデータではまだ誤差が大きいのですが、約50-60億年くらい前に宇宙膨張は減速から加速にかわった計算になります。ただ、かわった瞬間は特別な意味はもちません。ボールを投げ上げたとき、一番高くあがった時点が、特別な意味を持たない(ボールに固定された系ではその前も後も自由落下状態)ということと同じと思っていただければよいと思います。(回答者:土居先生)


Q40:宇宙膨張が加速していることの根拠について話がよく追えなかったのですが、赤方偏移(z)からの観測と超新星観測の明るさからの距離測定の差異からわかるというように理解しましたが、よろしいでしょうか?
A40:書かれている通り、赤方偏移によって超新星爆発当時の宇宙の「大きさ」(=スケール・・例えば銀河と銀河の平均距離)を測り、また超新星観測の明るさから距離すなわち何年前かという時刻を測ることで宇宙膨張を測ります。ちがった距離(時刻)に出現した多くの超新星を測ることで、時々刻々宇宙の大きさが測れ、最近では「大きさ」が加速的に膨張している等がわかってきます。(回答者:土居先生)


Q41:観測で得られた暗黒エネルギーと実験室で得られた真空エネルギーとが120ケタ違うということを話されたと思いますが、後者はカシミール効果による実験値でしょうか?120ケタも違うということを説明できる理論、仮説は現在どうなっているでしょうか?
A41:約120桁の食い違いは、おそらく、真空のエネルギーの絶対値を扱う理論ができていないためだろうと思われます。真空中に量子場があるとして簡単な調和振動子モデルでエネルギーを無限小スケールまで計算すると無限大に発散します。仮にプランクの量子スケールでうちきっても、まだ120桁近く高いエネルギー密度を予測してあわない、という例を紹介しました。多くの場合、エネルギーは差だけが物理的に意味のある量で、絶対値は問題としないで扱います。そこをあえて絶対値を計算しようとするとこのようなことになってしまいます。この問題はダークエネルギーの理解の根底にある大きな課題の1つです。カシミール効果の実験は身近な限定されたスケール・条件での真空の量子電磁気学的エネルギーの測定と理論の比較をしていて、そこでは(多少議論があるものの)おおまかにはあっているという状況で、単純にはダークエネルギーとは比べられません。まだまだ観測・実験・理論がいずれも進んでいく必要があると思われます。(回答者:土居先生)


Q42:ダークエネルギーが観測データを説明するのに正体不明の作用を名付けたモノであるのは、ある程度わかったのですが、理論的ブレイクスルーがその正体を説明するのに必要とのことでした。今、それこそ幾百の仮説的理論が提唱されていますが、何か、可能性のシッポでもつかんでいるような仮説はあるのでしょうか?
A42:皆目わからない、という状況に近いと思います。なので、ひょっとしたら今提案されている仮説のいくつかはそのシッポをつかんでいるのかもしれませんし、全ての仮説が全くの見当違いなのかもしれません。私の個人的意見でどちらかに賭けろと言われたら、後者ですね。(回答者:戸谷先生)


Q43:バリオン振動が何故、宇宙の物差しになり得るのか。基礎的なところがわからない。
A43:これは宇宙における構造形成理論を勉強する必要があり、一般の方にご説明するのはとても難しいです。しいて言えば、宇宙マイクロ波背景放射として観測されている「宇宙の晴れ上がり」の時期は、宇宙進化にとって非常に重要で特別な意味をもつ時期であり、その時の宇宙の年齢(約40万年)以内に音速で情報を伝えられる距離スケール(音速地平線と呼んでいます)が、宇宙の密度揺らぎに刻み込まれているので、それが物差しになるということになります。(回答者:戸谷先生)


Q44:宇宙の構造にダークマターは影響するが、ダークエネルギーは影響ないのは何故?
A44:ダークエネルギーの雛形ともいえる、アインシュタインの宇宙項は、定義により宇宙のどの場所でも一定なので、ムラムラが成長して構造が形成されることはありません。逆に言えば、そういうものを導入すると、観測データはよく説明されるという事です。どうしてそんなものが存在するのか、というのが、暗黒エネルギーの謎という事になります。(回答者:戸谷先生)


Q45:バリオン振動が検出されたとすれば、その振動の波長は宇宙のどの方向でも同じなのですか。
A45:その通りです。(回答者:戸谷先生)


Q46:バリオン振動のフーリエ解析はどの位の周期で観測するのですか?●●●は?
A46:バリオン振動の典型的な波長は3億光年ぐらいなので、それぐらいの波長と領域サイズが対象になります。(回答者:戸谷先生)


Q47:ご講演のなかで「ダークエネルギーの状態方程式(W)を求める」というような内容のお話をされましたが、そうでしょうか?一方、ダークエネルギーではなく、ダーク物質には、その状態方程式が存在するはずですが、この場合のWも-1となるのでしょうか。要するに、ダークマター(質量m)とダークエナジー(エナジーE)との、例えばE=±mc2なる関係が存在するのですか。
A47:暗黒物質の状態方程式は、通常物質と同様で、w=0となります。暗黒物質のmと暗黒エネルギーEの間には、特に関係は無いと思っていただいたほうがいいでしょう。(回答者:戸谷先生)


Q48:光と物質の相互作用に起因する「バリオン振動」は現在の恒星または実験室で観測または再現できますか。両者の関係を定式化できていますか。宇宙が膨張するにつれて、光の作用が弱まり、振幅がより弱くなると考えますが、いかがでしょうか。
A48:バリオン振動の成因は、圧力による反発力なので、例えば太陽表面で観測される太陽振動や、もっと身近な例では、文字通り空気中を伝わる音波も、本質的には同じ現象です。ただし、宇宙初期は大気や恒星表面に比べて、光の圧力が物質の圧力を大きく上回っています。そのため、振動が伝わる速度もほぼ光速になっているところが大きな違いと言えるでしょう。また、ご指摘の通り、「宇宙の晴れ上がり」時期以降は、光と物質の相互作用が切れてしまうため、バリオン振動はそこで止まります。それまでの振動の兆候が、現在の銀河構造に名残として残っているとお考えください。(回答者:戸谷先生)


Q49:暗黒物質(この場合WIMP)が相互作用に乏しいとはいえ、重量の影響をうけるとすると、恒星ができるように局所的大質量塊を形成することはないのでしょうか?密度上限や何らかの斥力がないならば、ブラックホール化を含め、通常物質よりも用意ということはないのでしょうか。また、WIMPはブラックホールに落下し、単なる質量情報化するのでしょうか?
A49:非常に良い質問です。暗黒物質はまさに重力の影響を受けます。自分の重さによって局所的大質量塊を作ります。その質量によって通常の物質も集まってきて、銀河が形成されたりするのです。宇宙の大規模構造が作られた理由は、まさにそれだと考えられています。私は理論の詳しいことはよくわかりませんが、ブラックホールができるためには重力だけでなく、それよりもずっと強く働く力(強い相互作用、電磁相互作用)が必要だと思います。したがって、たぶん暗黒物質だけではブラックホールを作ることはできないのではないかと思います。暗黒物質の重力場に通常の物質が集まってきて、大質量星や銀河の中心核が形成され、それがやがてブラックホールになるのだと思います。(回答者:中畑先生)


Q50:ニュートリノは、なぜ暗黒物質がもつべき特徴を持たないのですか。
A50:ニュートリノは質量を持つのですが、あまりにも軽すぎて宇宙全体の23%を占める暗黒物質を説明することができません。また、ニュートリノは宇宙の始めの頃は光速度に近い速さで飛びまわっていたので、宇宙の「大規模構造」のような構造を作りにくいと考えられています。(回答者:中畑先生)


Q51:太陽系、銀河系、すべては同じ方向に回転しているのでしょうか。
A51:私は天文学にあまり詳しくないので良くわかりませんが、近傍の銀河同士の力の働き具合によって回転方向が決まることもあり、必ずしも同じ方向とは限らないと思います。(回答者:中畑先生)


Q52:すばる望遠鏡での地球型系外惑星の直接観測の計画はありますでしょうか?そのスケジュールは具体的にいつ頃ですか?(今回のシンポジウムのテーマから少々それますが、お願いします)
A52:現在の地上望遠鏡で地球型惑星を直接撮影することは非常に難しいと考えられており、その実現には専用の宇宙望遠鏡や次世代の30メートル級望遠鏡による観測が不可欠です。これらの望遠鏡の実現には、あと10年くらいはかかる見込みです。すばる望遠鏡では、そのような将来の地球型惑星検出で核心となる技術をNASAと共同で開発しており、それをすばる望遠鏡に搭載して地上で到達可能な限界に挑戦したいと思っています。この技術に関する情報は、英語になってしまいますが、NASAのホームページ(http://www.nasa.gov/centers/ames/research/2008/coron_lab.html)で見ることができます。
地球型惑星を直接検出する前に、それよりはるかに明るい木星型惑星を直接検出することから始めねばなりません。すばる望遠鏡は、これまでに「コロナグラフ」という特殊なカメラを用いて、木星型惑星の検出を試みてきており、木星の40倍の重さの伴星(褐色矮星)を撮影することに成功しています(http://www.naoj.org/Pressrelease/2005/02/24/j_index.html)。現在、さらに高性能のコロナグラフが稼働し始めており、今後3年ほどかけて木星型惑星の直接検出に再挑戦する予定です。(回答者:林先生)


Q53:多宇宙と暗黒エネルギーとの関連性を話されていましたが、量子力学の多世界解釈との関係性についてはどうなのでしょうか?
A53:多宇宙(マルチバース)には様々な可能性があり、量子力学の多世界解釈に登場する多世界もこのマルチバースのひとつの可能性であるととらえることもできます。これについては、日経サイエンス2003年8月号pp.26-40の記事が参考になると思います(別冊日経サイエンス156宇宙創世記に再掲されています)。(回答者:須藤先生)


Q54:今日の話題にはあがっていませんでしたが、ブラックホールとは何か知りたいです。
A54:
・ブラックホールとは、あまりに大きな質量が小さな場所に詰め込まれているために、そこから光さえも抜け出せなくなった状態を指します。例えば、地球の表面から、重力を振り切って飛び出すためには、毎秒11kmの速度で飛び出す必要があります。地球がもっと重ければ、または、同じ重さでももっと小さければ、この速度はもっと大きくなります。ついに、その速度が毎秒30万kmという光の速度を超えると、何者も抜け出せなくなるのです。光の速度を超えることはできないのですから。そうなるためには、地球の重さであれば、半径8mm程度、つまりお豆程度の大きさに縮める必要があります。そんなことは一見不可能のようですが、大きな恒星がその一生を終えるときには、自分自身の重さで際限なくつぶれていって、ブラックホールになることが理論的に示されています。ブラックホールからは光さえ逃げ出せないのですから、直接見ることはできません。しかし、例えば、普通の恒星と連星となっているブラックホールの場合には、恒星からガスがブラックホールに吸い込まれていく途中で、X線を出すことから、間接的ではありますが、観測することができます。X線によって、すでに20個程のブラックホールが見つかっています。また、銀河系の中心には、太陽の300万倍ほどもある、とてつもなく重いブラックホールが一個見つかっています。このブラックホールの周りを他の恒星が回っている様子が詳しく調べられているのです。(回答者:杉山先生)
・アインシュタインの重力方程式から得られる時空の特異点のことで、質量の大きな星がその進化の最後に超新星爆発を起こし、その中心部がブラックホールになると考えられています。(回答者:吉田先生)


Q55:ダークエネルギーとは量子論でいう量子真空(ZPF)のエネルギーと関係があると考えられるのでしょうか?
A55:
・ダークエネルギーは量子論の真空のエネルギーだと考えられています。ただ、ZPFというのは、専門家が使う言葉とは違い疑似科学系の書物に見られるようですね。真空はエネルギーを持ち得ますが、それが生命などと関係はしません。(回答者:杉山先生)
・関係があるのかもしれません。しかし、ダークエネルギーを自然に説明できる理論が現在存在しないため、わからない、というのが正直なところです。(回答者:戸谷先生)