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自然科学研究機構シンポジウム

第8回自然科学研究機構シンポジウム質疑応答

第8回自然科学研究機構シンポジウム
「脳が諸学を生み、諸学が脳を総合する」(2009年9月23日開催)
講演者への質問とその回答

当日参加者の皆様から寄せられた質問に対する講演者の先生方からの回答です。


質問と回答


Q1: ドメインが欠失したマウスが、マウス自身が怖いもの、腐っている食べ物が認識できないと話されていましたが、再学習することは可能ですか。
A1:可能です。(回答者:坂野先生)


Q2:嗅球の背側と腹側をノックアウトした場合で、本能的な嗅い学習的に得られる嗅いの情報が変わってくるということですが、本来嗅いは嗅神経から入力されるパターンによって認識されているはずなので、あらゆる嗅いには本能的な要素がある割合存在しているのですか?また、ノックアウトによって感じる嗅い自身が異なったものになるのですか?またヒトにも「本能的な嗅い」があるのですか?
A2:本能的回路に対応している匂い分子は限られていると考えています。これらは味覚の様に受容体と匂い分子が直接対応していると考えられ、パターン認識の方は学習判断の為の入力と思われます。ヒトにも本能的匂いはあると推測しています。(回答者:坂野先生)


Q3:Dドメイン、Vドメインそれぞれによって成立した回路のレスポンス特性についての違いと特長について教えていただきたい。
A3:これに関しては殆ど判っていません。(回答者:坂野先生)


Q4:どうやって、細胞神経を「つぶす」のですか。基本的で申し訳ないです。
A4:その細胞もしくはその領域で特異的にジフテリア毒素を発現させる事によりつぶしています。(回答者:坂野先生)


Q5:におい物質は濃度が高い場合と低い場合ではよい匂いか、悪い匂いかが違うことがあります。(香水成分でも濃いと悪臭と感じる) 化学構造と受容体のドッキング、脳内のマッピング(スクリーニング)で匂いが決まるのであれば、濃度のファクターはどのように効くのですか?(また、匂いによってはこのような事がおきないのはなぜでしょうか?)
A5:匂いが薄い時に発火する糸球体に加え、濃い時には更に多くの糸球が発火する様になります。従って濃度によって匂い地図に映し出される糸球の発火パターンが異なる事になり、情報としては異なったものとして認識されるようです。(回答者:坂野先生)


Q6:匂い分子のリガンドに対する対応は、例えば、免疫グロブリンの可変部のようなシステムにはなっていないのですか?
A6:匂いセンサーと匂い分子の対応に関しては構造解析のデータがないので、現在は何とも言えません。但し、免疫系の様な厳密な1対1のリガンド・受容体の対応関係にはなっていないようです。(回答者:坂野先生)


Q7:嗅覚センサーと1000画素でキャッチした匂いを心地よい匂いといやな匂いに区別する処理として、その思いを出力する手順はどこで、どう行われているのですか。
A7:匂い情報には質感を与える場所は嗅球の次ぎにくる嗅皮質だと考えられていますが、そこで何が起こっているかについては今のところ殆ど判って居りません。(回答者:坂野先生)


Q8:嗅球が人間は380種、マウスは1000種、ということは、においを区別する能力は人間がマウスよりも劣るということでしょうか。一般的に脳の能力は人間が勝ると思われるのですが。その違いは何でしょうか。
A8:ヒトの感覚系はマウスと比べると視覚が嗅覚に勝っているので嗅覚系が相対的に退化しています。ちなみにマウスは夜行性なので視覚系に頼らず行動しています。感覚情報が視覚に頼るか嗅覚に頼るかということと、脳中枢の能力とは別の話だと思います。(回答者:坂野先生)


Q9:本能と学習の反応がもともとドメインの違いに由来すると言うことは、学習によって本能的反応が阻害される可能性があるということでしょうか。遺伝子改変によってドメインが変化したのでしょうか。
A9:恐怖情報の様に強いストレスを与える情報は学習判断に押し切られる事はありませんが、腐敗臭の様な忌避情報については、学習情報に押し切られる場合が有り、ヒトの場合それが心の葛藤につながっていると考えられます。(回答者:坂野先生)


Q10:嗅覚だけ感覚細胞が2系統ある進化的な理由づけはどこまで解明が進んでいるのでしょうか。他は、中枢で分かれて処理されているようですが。
A10:嗅覚も含めて、本能判断と学習判断の兼ね合いは中枢で行われていると考えられていました。嗅覚以外の感覚系においても、両者はこれ迄考えられていたよりも独立に、もっと入力に近いところから独立に並行して処理されているというのが私の予測です。(回答者:坂野先生)


Q11:「DARPA」は学習判断と本能判断の混乱を操作する研究などを行っているのでしょうか。本能的恐怖を学習的に無化されるのは、生物の生死を操ることになりはしないか、という気がするのですが。
A11:将来その様な事につながる可能性は有ると思いますので、研究者はヒトの精神操作についての問題について予め議論しておく必要があると思います。(回答者:坂野先生)


Q12:嗅球内のドメインは何個あるのでしょうか。
A12:これもこれからの問題ですが、本能判断については少なくとも数種類はあると考えています。(回答者:坂野先生)


Q13:イチローも打つまでボールを確認しているとは言えない、ということでしたが、彼は電車ですれ違う電車の行き先を読み取れる訓練をしたといいます。また、ボールを打つとき、ボールの縫い目が見えるともいいます。また、チンパンジーが瞬時に数字を読み取れるのも同じではないのでしょうか。あるいは、チンパンジーのほうがそうしたパターン認識的な記憶力(能力)が優れているといえるのでしょうか。
A13:チンパンジーの子ども3人とおとな3人、人間のおとな(大学生)9人を対象に実験しました。チンパンジーの子ども3人ともがアユムと同様に瞬間記憶できます。チンパンジーも人間もおとなはできません。人間の子どもでもテストしていますができません。こうした直観像記憶と呼ばれる現象は古くから人間で知られており、数千人に一人くらいの割合ではみつかります。イチローで人間を代表するのは不適切で、大多数の人間のおとなは、だれもチンパンジーの子どもにかなわない。そういう記憶課題があることを発見し、報告しました。(回答者:松沢先生)


Q14:水族館でイルカのショーを見たりすると必ず餌付けしています。チンパンジーは絵描き以外ではえさを食べていますが学習には条件付けが必要なのでしょうか?
A14:えさ、食物は必ずしも学習に必要ありません。学習を条件付けといいかえても同様です。チンパンジーの学習を、「よくやった」「すばらしい」とほめるだけでもできます。ただ、それだと研究者がたいへんですね。かんべんな方法として、食物のごほうびを与えます。基本的には人間も同じでしょう。動機付けの問題です。(回答者:松沢先生)


Q15:人間(ヒト)は進化する過程で周囲へ対応する能力の一部を捨ててきています(ミュータント)がチンパンジーからヒトへの進化(分化)においてどのようなことが退化したのでしょうか?
A15:「チンパンジーからヒトへの進化」というものはありません。チンパンジーがヒトにはならない。両者は共通の祖先からわかれて、同じ時間を生きてきました。「新しい霊長類学」をご覧ください。(回答者:松沢先生)


Q16:チンパンジーは今現在に集中(このための感覚大)しているとのことですが、これから先も、彼らには時間の先の世界(10秒より未来)に入れないのでしょうか。入れると思うのですが。
A16:瞬間記憶についてその保持時間が10秒以上だというデータを示しました。未来についてどこまで考えられるか、もっと長い未来を考えられるでしょうね。でも、まだ研究が無い。(回答者:松沢先生)


Q17:主題とは離れるかもしれませんが、「死」についてチンパンジーはどう考えているのでしょうか、親は子へ伝えるのでしょうか。変な話で申し訳ありません。
A17:死児をミイラになるまで抱き続けた例が3例あります。ただ、死がわからない、ということではないようです。愛着が続く。死んでも2か月くらい持ち歩く。そういう断片的な事実しかありません。(回答者:松沢先生)


Q18:実験装置技術について質問します。ご講義の中でチンパンジーは将来を考えないとおっしゃいましたが、私も何かで動物は昨日今日明日を区別していないと聞いたことがあります。いつか立花先生が5,6才まで言葉を知らなかった少女の話で、過去現在の言葉を知るまでは、自分の過去の記憶を時系列に語らず、ランダムに記録されていたと聞きました。そこで動物が過去と現在を認識しているかを調べる装置はあるのですか?もしなくて造るとしたらどんな仕掛けでどんなものが考えられるでしょうか。教えてください。
A18:むずかしい質問ですね。良い答えをもちあわせていません。たぶん、その装置を考えつくことが、すばらしい研究そのものだと思います。多くの場合、研究とは、自分で問いをたてて、自分で答えをだす作業だと思います。(回答者:松沢先生)


Q19:ボノボとの学習の比較はどうですか?
A19:ものすごく興味深いですね。日本にボノボがいないのでできません。近い将来そうした研究を日本でも展開する計画です。(回答者:松沢先生)


Q20:アユムが頭が良いのに思い煩うことがないとすると、チンパンジーが自殺した例が学会などに報告されたことがありますか。
A20:チンパンジーは自殺しません。報告例もありません。じつは2-3そういう報告(入水自殺)などあるのですが、信頼にたるものではない。したがって、無い、と断言しておきます。(回答者:松沢先生)


Q21:チンパンジーが自殺しないのであれば、アルツハイマー症などで思い煩うことのなくなった人間は自殺しないのでしょうか?
A21:アルツハイマーのことはよくわかりませんが、病因はともかく痴呆の状態で自殺することはないと思います。(回答者:松沢先生)


Q22:チンパンジーの短期記憶は脳のどの部位で行っているのでしょうか。
A22:わかりません。これからの課題です。(回答者:松沢先生)


Q23:数字テスト・・・算盤やフラッシュ暗算の経験者の場合はどのような結果になりますか。
A23:世界中でそうした追試をしています。しばらくお待ちください。とりあえず、チンパンジーの子どもたちのように、9個の数字を一瞬でおぼえ、0.6秒で最初の数字にタッチする人間はいまのところみつかりません。(回答者:松沢先生)


Q24:サルは、「現にあるものを見ている」「想像範囲が一時間、空間を含め・・・狭い」わけですが・・・そもそもサルとヒトとは何万年も前に分化して進化をしてきたのですから現在のヒトと現在のサルとの比較で「心の起源がわかるのでは?」というのは、ムリではないでしょうか。
A24:サルではありません。チンパンジーです。チンパンジーをサルと呼んだ時点でアウト。お答えしません。「新しい霊長類学」をお読みください。ヒト科チンパンジーです。(回答者:松沢先生)


Q25:チンパンジーは胡桃を石器で割った。秋田のカラスは胡桃をジェット機に割らせた。ということは、素人にはカラスのほうが頭がよいと思えるのですが、そういうことを意味するものでしょうか。
A25:石とジェット機を比べる論理がまちがっていると思います。(回答者:松沢先生)


Q26:「チンパンジーに顔の輪郭を見せても目や口などを書き入れず、なぞるだけ」とありましたが、そもそもチンパンジーには「漫画のように書かれた自分の似顔絵を似顔絵と認識する」訓練の時間が足りなかったのではないか気になります。彼らにとっていつも見慣れている像を特徴抽出したチンパンジー向けの画風の漫画なら結果が違っていた可能性を否定できないのではないでしょうか。鳥もピカソとモネの絵を区別できるそうですが、脳の構造は哺乳類とかなり違うそうなので、上記が気になりました。もう少し、リアルな絵にした場合はどうなるのでしょうか。
A26:結果は同じです。なぞりがきしかしません。拙著「チンパンジーはちんぱんじん」岩波ジュニア新書をご覧ください。(回答者:松沢先生)


Q27:人間の幼児とチンパンジーの子供で、ともに塗り絵の学習をして、チンパンジーも顔の空白部分に目や口を描く想像力を育成することは可能でしょうか。
A27:無理だと思います。想像力の欠如という本質的な思考方法の違いだと考えています。(回答者:松沢先生)


Q28:精神障害用薬剤開発において、抗うつ剤や抗不安剤が開発されていますが、チンパンジーの研究からみて、うつ病や不安障害の動物モデルを作成したり、そのような動物モデルで研究することが無意味となると理解してよろしいでしょうか。
A28:むずかしい、かつデリケートな質問ですね。無意味とは言いませんが、そうしたモデル動物の妥当性や信頼性には疑問をもちます。(回答者:松沢先生)


Q29:チンパンジーと人間の違いは、最後の事例で紹介のあったように現状のみ認識するのか、将来のこと(創造力)を想うことができるのか、といわれましたが、この問題をつきつめると、脳科学がいかに進歩して、脳機能が解明されようと人間の将来、先々の生き方、心配、不安に対する答えは得られないと思われますか。脳科学は、これらに対して何らかの答えを出す事が出来るのでしょうか。
A29:人間が、人間だからこそ思い悩む。具体的には、現状と、予測する未来とのギャップに悩むという話をしました。想像力があるからこそ絶望し、想像力があるからこそ希望ももてる。そういいました。脳機能の解明で、こうした不安と関連した脳活動は解明されるでしょう。しかし、そもそも脳がわかればすべてがわかる、解決するという思考法の方に問題があると思います。(回答者:松沢先生)


Q30:Bottom Up 的研究が中心である脳科学研究をふまえ、唯一Top Down的観察研究に従事されている松沢先生のお立場から、今の脳科学分野(応用脳科学、心の解明など・・・)に対し、どのようなご感想、認識をお持ちでしょうか。
A30:むずかしい質問ですね。じつはわたし自身、大学院の修士課程から博士課程にかけての2年半、ずっとネズミの大脳と海馬の神経活動の研究をしていました。その結果、ネズミの脳を研究するとネズミの脳についてよくわかる、ということです。それが人間の脳に必ずしもつながらないし、ネズミという生きもののまるごとすべてを理解することにもつながりません。「こころ」について知りたいなら、まるごと全体を知らないといけないでしょう。それが毎年アフリカへ行って野生チンパンジーを見る、という研究スタイルを生みました。(回答者:松沢先生)


Q31:先生の研究の最終目的・目標は何ですか?
A31:目的は、チンパンジーの研究を通して、人間を深く知る、ということです。目標は、1978年からのアイ・プロジェクトで、今までに約1万2千日くらいチンパンジーと日々をすごした計算になります。たぶん世界中でいちばん長い。これをさらにもっともっと長くして、チンパンジーと日々の暮らしを日本とアフリカでともにすることです。(回答者:松沢先生)


Q32:特にヒトと98%以上DNAをシェアしているApe;チンパンジーを対象に日々研究されていて、彼らの「心」(Mind,Soul,Spirit)に関して、どのようなお考え(解釈)をお持ちですか?
A32:わたしたち人間の心と、違ってはいるが同等な心があると思います。喜怒哀楽において変わるところはありません。ただ、嫉妬、ねたみ、うらみ、劣等感、などはあまりないようです。これらの負の感情も、自己と他者を比べて生じる想像(空想)の産物だからだと思います。チンパンジーは、今、ここを、生きているのだと思います。(回答者:松沢先生)


Q33:彼ら(Ape;チンパンジー)には「うつ・心身症」などは発病する事実はありますか?
A33:うつはあります。親を亡くした子どもは、うつろな目をして膝をかかえこみ、うつとそっくりです。(回答者:松沢先生)


Q34:先生が、彼らを「人間」(何人、彼女、彼)と現されていた事に感動しました。先生の倫理観を心から尊敬しております。(私もまったく同感です。ヒトも動物の一種ですね)
A34:ありがとうございます。「人間と動物という二分法」からの訣別をする。それがチンパンジー研究の成果だと考えています。貴重なご理解を深く感謝します。(回答者:松沢先生)


Q35:チンパンジーは長期記憶ができないのでしょうか。予測、想像といった、事実ではないものを考えることができないのでしょうか。
A35:長期記憶はあります。昔のことをよく憶えている。だからといって、自分が経験していない過去に思いをはせません。今、ここを生きているので、空想もないでしょうね。(回答者:松沢先生)


Q36:聖書には「人の心に永遠をおいた」という記述があります。人と猿の違いが「想像すること、未来を思い描くことができること」という指摘は、興味深くお聞きしました。その想像力の起源は何なのでしょうか。
A36:猿ではありません。ヒト科チンパンジーです。ぜひ直してください。チンパンジーはチンパンジで、サルではありません。尻尾がありません。人間も尻尾がありません。同じヒト科の動物です。さて、伝道者の書「神はまた人の心に永遠を置いた」というのは、まさに箴言だと思います。そのとおりです。それが神様かどうかは別にして、人間の心には永遠を思う、そういう思いがあります。それをわたしは想像力とよびました。チンパンジーは永遠のことを考えません。いま、ここを生きています。ご指摘ありがとうございました。なお、想像力の源泉ですが、わたしがキリスト者であればそれはHe has also set eternity in the hearts of men,ですから、神でしょうね。(回答者:松沢先生)


Q37:非常に低エネルギーで脳が活動しているということはこれまで言われてきた「脳の数%しか使われていない等々」ということではなく、脳全体を動かすとしても少量のエネルギーでOKだということでしょうか?
A37:脳の一部しか働いていないからということではありません。1%しか働いていないとしても、消費エネルギーはコンピュータに比べると桁違いに少ないと言う事です。神経の結合(シナプス)のオンオフをコンピュータのように厳密に制御しようとすると、大脳全部でその組合せの数は、10の10兆乗になり、それを現在のスーパーコンピュータで制御すると10の10兆乗ワット必要です。脳の1%しか使わないとしても、コンピュータと同じやり方で働くとすると、その消費エネルギーは10の10兆乗ワットの1%になりますから膨大になります。しかし、実際は、脳はノイズ(ゆらぎ)使う巧妙な方法で1ワットしか使わず働いているという主張です。(回答者:柳田先生)


Q38:ゆらぎには、マクロ的な方向がない(white noise)ので、エネルギー源としても、目的に沿わせる選択をするのは非効率、かつ、あいまいだと思われますが、これは省エネの代償でしょうか?
A38:筋肉をただ高い効率で速く動かすだけなら、ノイズを使うのは得策ではありません。ノイズを遮断した電気モーターの方が正確に高速に動きますし、効率もほぼ100%です。ノイズを使うメリットは、そこにあるのではなく、自律的に柔軟にはたらくことができると言う主張です。もし、個々の分子モーター、または、筋肉細胞を厳密に制御しようとすると、脳の場合と同じで膨大な数の組合せを計算することになり、消費エネルギーも膨大になります。しかし、筋肉は、ノイズを使って少ないエネルギーで単純な脳からの指令でも複雑な動きを可能にしていると言う主張です。筋肉は、速さや正確さを犠牲にして、生物にとってはさらに重要な柔軟性を選んだと言えます。(回答者:柳田先生)


Q39:1.「ゆらぎ」は「フラクタル」とは違う概念と考えてよろしいでしょうか?2.生きた分子が見られるとは思いませんでした。びっくりです。
A39:いいえ、同種の概念と思います。正確には、「フラクタル」も「ゆらぎ」の一種といえます。ただ今回の講演で紹介した「ゆらぎ」利用においては、たとえば「フラクタル」のもつ自己相似性との関連までは踏み込めてません。「ゆらぎ」にどのような特性があれば望ましいか、いままさに研究を進めているところです。「ゆらぎ」と「フラクタル」の比較はおそらく重要なポイントと思われます。脳とは違いますが、たとえば粘菌の走化性の場合、「ゆらぎ」の項は純粋なブラウン運動よりもむしろLevy flightというフラクタル性を持つ確率過程のほうが効率よく目標点へたどりつくことが分かってきています。脳活動のフラクタル次元解析も進めていますので、今後「ゆらぎ」のフラクタル性が果たす役割について、明らかになると思います。(回答者:柳田先生)


Q40:かくし絵が「わかる」瞬間が、ゆらぎの値であるthreshold値を超えたときといわれましたが、ゆらぎの値であれば確率的にしかある値を超えることはないと思います。逆に言うと「わかるために」意識を集中しているような時はゆらぎの幅を大きくしようとしている(大きくしている)ということでしょうか。いったんわかると何の苦労もなく再現的にわかるのですが、それは「ゆらぎ」という点ではどう説明できるのでしょうか。
A40:おっしゃるとおり、おそらく「わかるために」集中しているときは、まさにゆらぎを大きくしているといえます。いったんわかると何の苦労もなく再現的にわかる仕組みは、おそらく脳内の認識に階層構造があって、その上位階層が「これが隠し絵の答えだ」という強いアクティビティを発し、その結果、下位階層の「ポテンシャル場」が変化し、threshold、すなわちポテンシャルの壁を超えた先に状態を保持するような新しい「ポテンシャル場」に変化したと考えられると思います。隠し絵の知覚を考える場合、単にゆらぎがthresholdを超えるという描像だけでなく、いくつかの階層構造を持ち、上位階層のフィードバックで下位階層が制御されているという描像が必須なのではと思います。(回答者:柳田先生)


Q41:概念的質問で申し訳ありません。本日のお話は、いわゆる"揺動"に関することでしたが、揺動と散逸は表裏一体であることから今般の研究に関連して、"散逸"について何かご見解がありましたら、お願いします。
A41:今回の話で、ゆらぎ利用の基本式として、dx/dt=-dU/dx・A+ηという「ゆらぎ方程式」を紹介しました。この方程式は、散逸という観点でいうと、慣性項の無視できる非平衡散逸系といえます。今回我々は、ゆらぎ方程式を用いて、生体のゆらぎ利用の仕組みを、複数の谷を持つポテンシャル場での状態遷移としてモデル化しました。この散逸系における状態間遷移に関しては、アトラクター選択、カオス的遍歴、確率共振、ノイズ駆動の同期現象など、ゆらぎの積極的役割を示唆する様々な現象が知られています。こうしたこれまでの散逸系に関する様々な研究を元にして、生体におけるゆらぎ利用を工学的応用へ結びつける懸け橋として、われわれは「ゆらぎ方程式」を提案しました。その意味では、今回の話は、散逸系に関するこれまでの研究に密接に関連しているといえます。(回答者:柳田先生)


Q42:認知温度について、温度を何が決めているのでしょうか。
A42:認知温度自体が抽象的な表現なので、たとえば具体的に何が温度かはまだ正確にはわかっていませんが、おそらくは脳内の神経発火の頻度に関連するものと思われます。たとえば隠し絵の場合は、絵の中のある図形が、果たして目なのか耳なのかというように、複数の可能性を自発的に揺らぎながらランダムサーチしているものと思われます。おそらく隠し絵の答えに対応する図形は少数の神経細胞群でスパースにコーディングされており、それらの細胞群の発火が同時に発火した時に、上位階層で「それが答えだ」と認識するのではないかと考えてます。神経発火の頻度が高いほど、同期発火の頻度は高いわけで、その分正しい解に至る時間は短くなります。そういう観点からいうと、認知温度は脳内の神経発火の頻度に関連するものと思われます。(回答者:柳田先生)


Q43:認知温度について、個人差の定数はどのようなものでしょうか。
A43:個人の定数だと思います。ただ固定したものではなく、訓練なので変化すると考えています。どのような訓練で変化するのか、認知温度と関係する脳の機能はなにか?などは、とても興味深い課題であると思います。認知温度がひらめきや発想の機能に関係してたら、それはとても重要な定数になります。(回答者:柳田先生)


Q44:認知温度について、個人でも状態が変わりますか。冷静な状態、興奮した状態、体温などなど。
A44:認知温度は脳内の神経発火の頻度に関連するものと思われます。おそらく今後、直接あるいは間接的に、これらの神経発火の頻度を変えるような実験、たとえばカフェインを摂取するであるとか、逆に瞑想状態にして発火頻度をおさえるであるとか、そのような実験が可能になると、より認知温度と神経発火頻度の関係も明らかになるのではと考えています。(回答者:柳田先生)


Q45:認知温度について、知能指数、発達力、想像力、記憶力などと相関がありますか。
A45:心理実験自体が非常に難しいので、まだそこまで手が回らないのが実情ですが、少なくとも年齢などは認知温度に影響を与えそうです。知能指数や想像力はひらめきと関連しますし、発達力は年齢と関連します。記憶力は脳内データと隠し絵とのマッチングという視点からも重要です。知能指数など様々な脳の能力を、認知温度という1つの指標でどこまで定量化できるか、今後の大きな課題といえます。(回答者:柳田先生)


Q46:今、話題の省エネ技術にゆらぎ科学を応用できますか。
A46:はい、ゆらぎ科学は省エネ技術に非常に適していると思います。人間の脳は数十兆もの結合をもつ超大規模複雑なシステムです。しかしその代謝には20ワット、思考中には1ワットしか消費しません。特に高度に複雑化した人工システムの制御においては、このゆらぎ科学は最も有効な省エネ技術の一つといえるでしょう。おそらく既存の省エネ技術に応用するというよりは、既存の省エネ技術ではお手上げの人工物および情報システムに対して、今回紹介したゆらぎ科学は非常に有効な新たな省エネ技術となるでしょう。(回答者:柳田先生)


Q47:アナロジーとして、アリやハチの探索行動と似ていると思いましたが、どうでしょうか。
A47:おっしゃるとおりです。アリやハチの探索行動のように、各素子の自律的な運動が全体としてある行動規範を創発するというマルチエージェント的な仕組みは、まさしく今回のゆらぎ利用の話に通じる点が多いといえます。我々はさらに、ゆらぎ方程式でいうところのアクティビティの項を利用することにより、マルチエージェントでいうところの「創発」をコントロールしようとしています。いわば、アリやハチの探索行動をベースにして、複雑なシステムを省エネで制御するあらたなゆらぎ制御の仕組みを提案しているわけです。(回答者:柳田先生)


Q48:脳の中の神経細胞がパタパタと不規則に信号をやりとりしているということでしたが、神経細胞のネットワークの中に不規則な電気信号が自然に発生しているということでしょうか。思考活動と連動して不規則な信号のやりとりの効果が検定されるということはないのでしょうか。先入観が像の構築に影響を及ぼしているように思えるのですが。
A48:自然に発火しているというよりは、自発的に発火しているというほうが正しいと思います。人間はわざわざエネルギーを消費して、脳内の不規則な神経発火を行っているのです。「思考活動と連動して不規則な信号のやりとりの効果が検定される」という点については、まさにおっしゃる通りです。おそらくなんらかの階層性をもち、下位階層のいくつかの神経細胞群がそれぞれ不規則に発火していて、上位階層のたとえば「思考活動」などと連動することにより、もし偶然その「思考活動」あるいは「脳内記憶」と一致するような発火パターンを下位階層の神経群が起こしたと判断すれば、その時にヒトは「ひらめいた」「わかった」と判断するのだと思います。先入観も大きく像の構築に影響すると思います。隠し絵の心理実験の場合は、単なる脳内に記憶された多数のイメージとの参照だけでなく、被験者個人の先入観、考え方、思考活動の癖などが大きく結果に影響するものと思われます。今後取り組んでいきたいテーマです。(回答者:柳田先生)


Q49:「熱ゆらぎ」の温度を高める具体的な方法はあるのですか?
A49:カフェインなどの摂取はもしかすると認知温度を上げるかもしれません。2,3才のお子さんを連れたお母さんが講演に参加されていた事があるのですが、全ての隠し絵をすぐに当てられました。これはご本人の持ち合わせた能力かもしれませんが、もしかすると、お子さんの認知訓練をする間にご本人も訓練して認知温度が上昇したのかもしれません。認知温度上昇の訓練は、認知温度がなにであるかを知ることにもつながりそうなので、ぜひやってみたい課題です。(回答者:柳田先生)


Q50:「認知温度」とは何でしょうか。どのような物理量によって表すことができますでしょうか。(ニューロンの温度、発火頻度?)
A50:おそらくご指摘のように、温度や発火頻度に関係すると思われます。まだはっきりしたことは分かりませんが、現時点では発火頻度が最も影響を与えているのではと考えています。たとえば隠し絵の場合は、絵の中のある図形が、果たして目なのか耳なのかというように、複数の可能性を自発的に揺らぎながらランダムサーチしているものと思われます。おそらく隠し絵の答えに対応する図形は少数の神経細胞群でスパースにコーディングされており、それらの細胞群の発火が同時に発火した時に、上位階層で「それが答えだ」と認識するのではないかと考えてます。神経発火の頻度が高いほど、同期発火の頻度は高いわけで、その分正しい解に至る時間は短くなります。そういう観点からいうと、認知温度は脳内の神経発火の頻度に関連するものと思われます。(回答者:柳田先生)


Q51:光ピンセットの仕組み、原理を詳しく教えてください。
A51:光は波の性質と粒子の性質があり、厳密性を欠くかもしれませんが粒子の性質が物に力を及ぼしていると考えると分りやすいと思います。詳しく説明するのはかなり難しいのですが、以下を参考にしてください。光ピンセットは、レンズでレーザー光を集光させて、その焦点付近にナノメートルからμメートルの微粒子を補足する技術です。その仕組みは、補足する微粒子がレーザー光の波長より大きい場合は幾何光学で比較的に簡単に説明できますが、波長よりも小さい微粒子の場合は、電磁場における双極子として扱う必要があります。微粒子が比較的大きい場合の光ピンセットの原理は、レーザー光が微粒子を通るときの屈折によって引き起こされる運動量変化の反作用力で説明できます。半作用力を平均すると、光軸に引き寄せるような力になります。これが簡単な光ピンセットの原理です。詳しい仕組み、原理については、1970年代にはじめて光ピンセットによる微粒子の操作理論を発表したA.Askinの原著論文(Phys. Rev. Lett., Vol. 24, 156 (1970))などを参照してください。(回答者:柳田先生)


Q52:ミオシン、アクチンは、ゆらぎを使うだけではランダムな運動になってしまうはずなのに、どのようにして秩序だった運動を生み出していますか。ミオシン、アクチン間での「バネ」のようなものがありましたら、何の役割をしていますか?
A52:最近我々は、ミオシンの「ばね」にある「ひずみセンサ」が、ミオシンのランダムな運動を「整流」していることを実験的に示しました。ミオシン分子モーターは、アクチンというレールタンパクの上をランダムに滑り運動しています。その際に、ミオシンとアクチンとの結合強度は、ATPの加水分解サイクルに合わせて、強くなったり弱くなったりします。「ひずみセンサ」は、ミオシン頭部が前に引っ張られたときに働き、アクチンとの結合強度を強めます。ミオシン頭部が後ろに引っ張らられた時は外れやすくなります。その結果、ミオシンフィラメントに「ばね」でつながったミオシン頭部は、ランダムな動きの中で、偶然前方向に来た時にアクチンフィラメントにくっつき、あとは「ばね」が縮むことによりミオシンフィラメント全体がアクチンフィラメント上を前に滑り運動するのです。つまり、ミオシン頭部とミオシンフィラメントをつなぐ「ばね」にある「ひずみセンサ」が、ランダムな動きを「整流」する役割を担うことにより、秩序だった運動を生み出しているのです。(回答者:柳田先生)


Q53:生物はアンチグラビティーシステム。死して物体に還る時に、ようやく動に従う。なぜ、動に逆らう系が発生したのか。その意味はあるのか。
A53:生物は無生物とは違う特別な性質を持つ(意味・こころの次元がある)ものではあるが、両者は連続している。物質のもつ性質がある方向に発展したのが生物の発生であり、そこには何も不思議や神秘はない。物質についての既知の物理法則に矛盾することはない(アンチグラビティではない)。動に従う,動に逆らうとはどういう意味かわからないので、お答えできませんが、ただ「意味があるか」という疑問については、「意味」とは主観によって決まるものだから、「誰・何にとって」を規定せずには答えられないと思います。(回答者:川出先生)


Q54:「最近の若者は...」とか「ワシらが若いころは...だった」とか言って若者を批判する老人がよくいますがこれは脳科学的に見るとどういう現象でしょうか?自分に都合の良いことだけを思い出して、若者を批判しているように思うのですが...。老人になると都合の良い記憶のみを思い出すように神経系が変化するのでしょうか?
A54:神経系の変化が関わるのでしょうが、そういうことで説明されるような問題でしょうか?(回答者:川出先生)


Q55:20年後、30年後、脳科学の成果が国、社会体制、戦争、哲学に大きな影響を及ぼすのではと考えさせられました。例えば、当局による個人のプライバシーのコントロール、暴露、投票行為への関与、BMIによる機械(ロボット)対機械の戦い。心理のメカニズムの解明による人の生活への影響。研究者の皆様は、その理想的将来像について、どのようにお考えでしょうか。
A55:個人の精神活動への介入の可能性はたしかに気がかりですが、実は科学技術や医学のこれまでの進展も、すでにわれわれの精神生活にかなり影響しており、われわれはそれと何とか折り合いをつけて暮らしています。脳科学の進展についても同様でしょう。自然科学の進み方は予測できないので、理想的将来像は書けないし、かりに書いたとしても現実には合わないでしょう。(回答者:川出先生)


Q56:学問としては実験的検証が可能であることが必要との事でした。一方では、人間(脳)は非常に複雑であることも理解できます。脳全体で見ると、あまりに複雑であるため、実験的検証は現在ではまだむずかしいため個々の分子での実験結果の積み重ねを行っている段階と考えます。脳、あるいは人間を学問にするには、まだまだ時期尚早ということでしょうか。←将来、ココロにまで踏み込むことになるのでしょうか。これには疑問を感じます。
A56:脳科学は将来、いや現在でも、ココロにまで踏み込まずにはすまないでしょう。ただ自然科学は客観性を必要とするのに、ココロは基本的に主観のはたらきだから、自然科学の在り方自体が変化しなければ、大事なところまで迫れないでしょう。どのように変わるべきか、私には解りません。(回答者:川出先生)


Q57:「意識」のお話に興味を持ちました。1.2001年宇宙の旅2.惑星ソラリスという古い映画がありますが、脳科学が進歩し、人工的に何もないところに意識を生じさせるなどが可能になれば、1.に示される「モノリス」を作った創造主(神?)や2.に示されるソラリスの海のような肉体を持たない意識、それも進化していく意識みたいなものが現れるのでしょうか。少し肩の力を抜いて自由に回答頂ければ幸いです。意識=電気パルス→プラズマエネルギーへの交換?
A57:意識は物理的な身体がなければありえないと思います。(回答者:川出先生)