イベント情報
自然科学研究機構シンポジウム
第32回自然科学研究機構シンポジウム 講演者 石橋 勇志
講演5:「農作物の種子に対するプラズマ照射効果の謎に迫る」
石橋 勇志
九州大学 大学院農学研究院 准教授
□ 講演概要
昨今の地球温暖化による影響から、我が国おける重要農作物である水稲の収量および品質低下が問題となり、その耐性品種の育成が行われてきました。これらの耐性品種の導入により、高温による収穫量、および品質の低下はある程度回避できるようになってきました。しかし、高温耐性品種だけでなく、高温環境下で収穫された種子は、次世代の発芽遅延を引き起こすことが近年明らかとなっており、その対策技術の開発が必要とされています。
これまで、植物種子に対するプラズマ処理が、発芽を促進するといった報告がいくつか存在していました。しかし、なぜ発芽が促進するのか、そのメカニズムについては未だ不明な点が多いのが現状です。そこで、水稲の高温登熟(とうじゅく:出穂した後、種子が成熟していくこと)された種子の発芽遅延への対策としてプラズマ処理を施した際の効果について、種子発芽機構において最も重要な「植物ホルモン」との関連や、その制御機構について詳しく検討しました。
結果、プラズマ照射を行うことによって、高温で育成された水稲の種子は発芽の促進を示しました。そこで、発芽関連遺伝子の発現解析を行ったところ、種子発芽を負に制御する植物ホルモンであるアブシジン酸(ABA)の合成に関わるNCEDs遺伝子が、プラズマ照射によって発現低下しました。さらに、代謝に関わるABA8'-OHs遺伝子の発現が上昇することが確認されました。また、プラズマ照射によって、胚乳の貯蔵デンプンを分解するα-アミラーゼの遺伝子発現も上昇していることから、プラズマ照射がもたらす発芽促進効果には、ABA代謝に加えてα-アミラーゼの促進が重要であることが示唆されました。
種子の発芽は、農業を行っていく上での重要な生育過程です。発芽の結果は、誰もが容易に目で確認することができる現象であるにも関わらず、未だ解明されていない部分を多く残した、まさに神秘的な生命現象でもあります。今回の講演では、これまでブラックボックスとされてきた種子に対するプラズマ照射の影響ついて、種子発芽関連遺伝子の発現やその発現調節に着目し、現在ようやく解き明かされてきたプラズマ照射による種子発芽促進機構の一端について皆さまに紹介させていただきます。