イベント情報
第38回自然科学研究機構シンポジウム
第38回自然科学研究機構シンポジウム講演者4
大森 賢治(おおもり けんじ)
分子科学研究所 教授
1987年東京大学卒、1992年同大学院工学系研究科博士課程修了、工学博士。東北大学助手・助教授を経て2003 年9月より現職。専門は量子物理学・量子コンピュータ・量子シミュレータ。光と物質の相互作用を極めて高速に観測・制御する技術や、時空間における量子の波の振る舞いを超高精度で可視化する技術で、世界的に知られる。2007年 日本学士院学術奨励賞、2009年 アメリカ物理学会フェロー表彰、2012年 フンボルト賞(ドイツ)、 2021年 紫綬褒章など、受賞多数。日本政府委員、政府代表なども数多く務め、わが国の科学技術政策の立案や、 欧米との政府間会議においても重要な役割を果たしている。
最近ハマっていること、趣味など
「量子スピード限界で動作する冷却原子型・超高速量子コンピュータ」
電子や原子など、量子物理学の法則に従うミクロな粒子の集団的な性質を利用したテクノロジーは「第一次 量子革命」として、1940~1950年代にトランジスタ、コンピュータ、レーザーなどのイノベーションにつながりました。これに対して21世紀は「第二次量子革命」の時代であり、電子や原子など個々の粒子の波の性質を利用した新しい実用デバイスを作り出そうとしています。「量子コンピュータ」は、第二次量子革命が到達し得る究極のデバイスです。20世紀初頭の量子物理学の黎明期に主役を果たした中性原子は、この究極デバイスの実現においても最有力候補の一つとして急速に世界の産学官の注目を集めています。
通常の室温下で、ほぼ絶対零度までレーザー冷却した中性原子1個1個を光ピンセットで2次元的に配列させた「冷却原子型・量子 コンピュータ」は、これまでに開発が先行している超伝導型と比べて容易に大規模化が可能な点、および量子の波としての純度が高い点において、従来の限界を打ち破る際立った特徴を持っています。中でも、私たちが独自に考案し開発を進める「超高速量子コンピュータ」は、超高速レーザー技術と量子コンピュータを融合させるという全く新しいコンセプトに基づいた世界初の新技術であり[1]、熾烈な国際競争におけるわが国のコアコンピ タンスとして、今後の大規模化・高機能化が大いに期待されています。
参考文献 [1] Y. Chew et al., Nature Photonics 16, 724 (2022). (Front Cover Highlight)