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第13回若手研究者賞Q&A
参加者の皆様からのご質問に、講演者が答えました
第13回若手研究者賞受賞記念講演の中で寄せらせたご質問に対し、講演者たちから回答が届きました。先生ごとにまとめてありますのでご覧ください。
中島先生
Q.1
宇宙望遠鏡を用いて元素の特定を行っているとのことでしたが、何百億光年もの遠くの星の光をたった数メートル四方の望遠鏡での観測で信頼度に足る結果が得られるものなのですか?
光の波長によってはそもそも届かなかったり、地球までになにか障害があったり、取り逃がしてしまう光があったりはしませんか?
A.1
最新の科学技術力によって、遠方の宇宙からの光を非常に高い信頼性で観測することが可能なのです!宇宙に設置された大きな鏡が微弱な光を大気の影響を受けずに集め、最先端の検出器で効率的に観測することで、130億年以上前に放たれた光を99.9999%以上の精度で検出できるのです。宇宙のスケールの大きさを考えると、たった10メートルほどの装置でこれほど遠くの天体を詳しく調べられるのは、まさに驚異的です。
確かに、波長によっては光が天体から出にくかったり、装置の感度が十分でなくシグナルを捉えにくいこともあります。そのため、どの波長でどのような研究が可能か、そしてその研究に適した観測装置があるかを総合的に判断して観測計画を立てています。また、観測する方向によっても障害があります。例えば、私たちが属する天の川銀河の円盤方向には星や塵が密集しており、遠方の天体を観測するには不向きです。そのため、私たちは障害が少ない方向に望遠鏡を向け、見逃しや誤認が起こらないように工夫しています。
Q.2
酸素の割合が急激に増えた理由は何が考えられるのでしょうか。
A.2
酸素の割合が急激に増えた理由については、まだ研究が進行中であり、確定的な結論は得られていません。しかし、一つの可能性として、この時期に宇宙全体で星や銀河の形成が活発に進行したことが挙げられます。星の内部で核融合によって酸素が生成され、それが銀河全体に広がった結果、酸素の割合が急増したと考えられています。このテーマは今後もさらなる研究が観測・理論ともに必要です。
Q.3
水素、ヘリウム、炭素、窒素ではなく酸素を観測する利点は何?
A.3
酸素は、ビッグバン直後には存在していなかった元素であり、その後の星の形成と進化によって初めて宇宙に広がりました。このため、酸素の観測は、宇宙における星形成の歴史を理解する上で特に重要です。炭素や窒素も同様に重要ですが、酸素は輝線として観測しやすく、その量を正確に測定することで、信頼性の高い結果が得られることから、まずは酸素の観測が優先されてきました。
しかし、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の登場により、炭素や窒素の量を遠方の天体で調べることも可能になりつつあります。これらの元素の量を比較することで、過去の宇宙でどのような星の活動や爆発現象が起こっていたのかをさらに詳しく理解することができるようになります。そのため、近年では酸素に加えて、さまざまな元素の観測も注目されています。
福井先生
Q.1
現在先生の行われている検証観測でトランジットの減光率は何%くらいまで観測可能なのでしょうか。さらに観測できる範囲が広くなっていくのでしょうか?
A.1
我々が開発したMuSCATシリーズでは、0.05%程度の減光まで捉えることが可能です。これは、太陽より小型の(M型星と呼ばれる)恒星を公転する、地球サイズの惑星が起こす減光率に相当します。地上望遠鏡でこれより微小な減光を捉えることは現状では困難ですが、今後はより公転周期の長い、すなわちより温度の低い惑星の観測にもチャレンジしていきたいと考えています。
太田先生
Q.1
電子などの素粒子のスピン(スピノル)におけるミンコフスキー空間の対称性つまりローレンツ収縮によるスピンの変化も観測することができますか?
A.1
今回用いた計測手法は電気光学検出と呼ばれ、非線形光学効果を用いて、電場の超高速計測を行いました。具体的には、非線形結晶であるZnTe結晶に相対論的電場を印加し、その際に生じる屈折率変化(複屈折)を結晶に通過させた計測光の偏光変化として読み取り、結晶に印加された電場強度を推定します。今回用いたZnTe結晶は電場に大きな感受率を有しおりましたが、一方で、磁場に大きな感受率を持つ非線形結晶(TGG結晶等)も存在します。後者を用いた計測は磁気光学検出と呼ばれ、磁場の超高速計測が可能です。電子等のスピン(磁気モーメント)をこの計測手法で観測し、スピンにおける相対論的な効果を検出することは原理的には可能だと思います。
Q.2
電場の収縮について研究されているとお聞きしましたが、今後、「相対性理論における電場の収縮」で社会にどのような応用ができると考えていますか?
A.2
今回の研究成果(相対論的な電場の収縮の可視化)自体は基礎研究であり、実は、実社会への応用を目的として実施されたわけではありません。ただ、研究内容自体(加速器実験における電気光学検出)は、既に加速器研究で利用されています。加速器は、荷電粒子ビームを高速に加速する装置で、元々は素粒子物理の研究のために開発されました。その用途は現在、ガンマ線ナイフ等に代表されるように、医療・産業・農業・分析・セキュリティーなど多岐に渡ります。応用上、荷電粒子ビームのサイズを計測することは重要です。そこで、今回の電気光学検出が使用されています。相対論的収縮電場は、電子ビームの進行方向に収縮して、高エネルギー荷電粒子のパルス幅(電子ビームの進行方向の大きさ)と同程度になるため、電気光学検出で計測された電場の時間発展情報から、ビームのパルス幅を高い時間分解能で推定することが可能になります。
Q.3
相対性理論において、光の速度が慣性系においてどのような状況においても不変だと言われていますが、ブラックホール下におかれていると状況を仮定したとすると、光の速度が不変なのにもかかわらず光を飲み込むブラックホールと言われることがよくあると思います。これは何が起こっているのでしょうか?
A.3
質量を持つ物質の周りの時空は、相対論的な効果で歪みます。ゴムシートに野球ボールをのせると、シートがぐにゃっと曲がり、野球ボールの位置を中心としてクレーターができるようなイメージです(本来はこれを四次元空間で考える必要があります)。そこにパチンコ玉を置くと、ゴムシートの曲面に沿って、パチンコ玉が野球ボールに向かい落ちていきますが、これが重力による引力に対応します。つまり、重力は、二つの物質同士に直接的に作用するのではなく、時空の歪みを介して、お互いに作用すると言うことです。光に質量はないので、一見、光は重力の影響を受けないようですが、伝搬する時空が歪むと、光にとっては直進しているようでも、外から見ると、光の軌道は曲がって見えます。この効果は重力レンズと呼ばれ、皆既日食の際に、太陽の後ろにあって見えないはずの星からの光が、重力効果で軌道が曲げられ、太陽を迂回して地球に到着することで確認されたことで有名です。ブラックホールのような、超巨大な質量を持つ物質による時空の歪みの影響はとても大きく、光の伝搬の仕方を大きく変更します。ブラックホールを数式で導出するには、アインシュタイン方程式のシュヴァルツシルト解を求める必要があります。その数式によると、ある距離よりもブラックホールの中心に近づくと、時空の歪みの影響で光が脱出できなくなることを予言します。ブラックホールから光は抜け出せないのだから、ブラックホールの中を伝搬する光は、ブラックホールの外から見れば光の速度がゼロになったとみなせます。これは、光速度不変の法則を破っているように見えるかもしれませんが、前提が異なるので問題ありません。なぜならば、光速度不変の法則は慣性系で成り立つのに対し、重力効果は加速度系で生じる現象だからです。
森下先生
Q.1
核融合反応はどのくらいの確率で起こりますか?また、その確率も制御できますか?
A.1
それは、デジタルツインを通して限られた計測量から計測できていない物理量を知ることができるからです。今回開発したシステムでは、プラズマの内部の状態(例えば,どのくらい熱が逃げやすいかなど)がわずかに異なる多数のシミュレーションを並行して走らせることで、実際に得られる計測量(例えば電子の温度)からそれを実現している内部の状態を逆算することができます。こうして推定された内部の状態の情報は、次の予測に活かすことができ、予測・制御精度を高めることができます。
Q.2
デジタルツインを用いることで、なぜ限られた計測量でよくなるのか教えていただきたいです。
A.2
どのくらい核融合反応が起こるかは、燃料の種類、密度、温度などによって決まります。磁場閉じ込め方式による核融合発電では、比較的希薄なプラズマを1億度以上の超高温状態にすることで十分な頻度で核融合反応が起こる状況を作り出します。
Q.3
データ同化で用いられているのは稼働が正常時のデータですか?異常時に制御するためのデータがなければ事故時に最悪大惨事になりませんか?
A.3
データ同化で用いるデータはリアルタイムで取得している計測データです。物理に基づく予測モデルを実際の計測データで補正するようなイメージです。予測モデルに基づいてプラズマが不安定な状態になるのを回避するような制御も可能です。また、事故などの非常事態には、プラズマはすぐに消失するため、暴走するようなことはありません。
下村先生
Q.
TPCイオンチャネルで電位依存性とリガンド依存性をわざわざ切り替えなければならない理由がよく分からない
A.
想像になってしまいますが、もともと2種の刺激に応答できるTPCの原型が存在し、そこから生まれた各TPC分子が、存在する場所に見合った刺激感受性を持つよう進化したためと考えられます。TPCには3つの異なる遺伝子(タイプ)が存在し、それぞれが異なる細胞小器官(細胞内部にある特定の構造体)に存在しています。例えば、TPC1はエンドソーム、TPC2はリソソームと呼ばれる細胞小器官に存在しており、これらの小器官は異なる機能・役割を持ちます。したがって、原型タイプのTPCから生じた各TPC遺伝子は、自身が存在する細胞小器官で求められる機能を発揮できるよう、2種の刺激に対して異なる応答性を示すように進化したのでしょう。わざわざ感受性を切り替える機構を準備した、というよりは、進化の結果各タイプで異なる感受性を持つようになった、ということだと思われます。
小杉先生
Q.1
自身でデザインされたタンパク質を大腸菌などに作ってもらうと言われていましたが、どのような仕組みで指示ができているのか教えていただきたいです。漠然とした質問ですみません。
A.1
ご質問くださり、ありがとうございます。私はタンパク質の翻訳に関する専門家ではありませんが分かる範囲で簡単にお答えさせていただきます。
タンパク質を設計することでアミノ酸配列が決まります。アミノ酸配列が決まると、それに対応したDNAの配列を決めることができます。そのDNA配列を含んだプラスミドという環状の二本鎖DNAを準備し、大腸菌に取り込ませると、大腸菌が元々持っている蛋白質を作っているのと同じようにして目的のタンパク質が作られます。
Q.2
アミノ酸の量を増やしてしまうと、DNAの転写量が増えるため、複製ミスが増えたりするのか教えていただきたいです。
A.2
ご質問くださり、ありがとうございます。私はDNAの複製に関する専門家ではありませんが分かる範囲で簡単にお答えさせていただきます。
設計したタンパク質を大腸菌に作らせると大腸菌が作る蛋白質の種類が増えることになりますが、それにより複製ミスや転写ミスの確率が変わるかどうかは、どのような蛋白質を設計したかなど様々な条件により変わると思われます。ただし、それを検証したことはありませんので、実際どれほどの影響があるのかはわかりません。また目的の蛋白質を大腸菌に作らせるとDNAの転写量の総量が変わるかどうかも場合によるかと思われます。こちらも検証したわけではないので実際のところはわかりません。