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第42回自然科学研究機構シンポジウム
ひらけ科学のトビラ!Dear WONDER 2026 Q&A集
「ひらけ科学のトビラ!Dear WONDER 〜いきもの以上、いきもの未満 生命の不思議について考えよう!」のアンケート等で寄せらせたご質問に対し、講演者たちから回答が届きました。先生ごとにまとめてありますのでご覧ください。
城倉先生, 松尾先生, 矢木先生,
城倉先生
Q.1:
クシクラゲは老化するのでしょうか。?
A.1:
とても面白い質問です。実は、クシクラゲが私たち人間と同じように老化するのかどうかは、まだよく分かっていません。ただ、クシクラゲには驚くような能力があります。2024年に発表された研究では、成長したクシクラゲが、ストレスを受けたあとに若い時期の姿へと戻る「逆発生」という現象が報告されました。つまり、通常とは逆向きに発生が進むことがあるのです。もちろん、若い姿に戻ることと、細胞そのものが若返ることは同じではありません。また、クシクラゲが老化しない、あるいは永遠に生きられるというわけでもありません。でも、私たちにとって成長や老化は一方通行に感じられますよね。クシクラゲを研究することで、「生き物はなぜ老いるのか」「若返るとはどういうことなのか」という、生命科学の大きな謎に迫れるかもしれません。
Q.2:
「脳みそが無くても生きている」と「脳が死んでいるけど生きている」、どちらの方が生物、生命らしく感じますか。
A.2:
これは、生命とは何かを考えさせられる、とても深い質問ですね。私自身は、「脳がなくても生きている」生き物に、生命の面白さを強く感じます。私たち人間は、脳が体全体に指令を出しているイメージを持っています。しかし、自然界には脳を持たなくても、周囲の環境を感じ取り、動き、餌を食べ、繁殖する生き物がたくさんいます。クシクラゲもその一つです。脳はありませんが、重力を感じて姿勢を変えたり、光に反応したりすることができます。一方で、脳死は、それまで機能していた脳の働きが不可逆的に失われた状態です。もともと脳を持たずに生きている生物とは、根本的に状況が異なります。私が面白いと思うのは、脳がなくても、どうしてこれほど複雑な生命活動が成り立つのかということです。人間の脳を理解するためにも、脳を持たない生き物がどのように世界を感じ、行動しているのかを知ることは、大切なのではないかと思っています。
Q.3:
クシクラゲは他の生き物にもくっつくことは出来るのでしょうか。他の生き物の傷や欠損などの修復ができたらいいなと思いました。
A.3:
とても素敵な発想ですね。実は、私たちもまさにそうしたことに興味を持っています。クシクラゲ同士では、傷ついた部分を接触させると、別々の個体が一つにつながり、消化器官や神経系の働きまで一部共有できることが分かっています。ただし、現在は主に同じ種のクシクラゲ同士で確認された現象で、魚やクラゲなど、まったく別の生き物とも融合できるかどうかは分かっていません。また、体がくっつくことと、失われた組織を正常に修復できることは別の問題です。それでも、この現象には大きな可能性があります。私たち人間の体では、他人の組織を移植すると免疫系が異物として認識し、拒絶反応が起こることがあります。ところがクシクラゲは、別の個体の組織を受け入れられるようなのです。なぜクシクラゲは、他者の体を自分の体の一部として受け入れられるのでしょうか。その仕組みを解き明かすことは、将来、移植や組織再生の研究にも新しいヒントを与えるかもしれません。
Q.4:
合体した場合、子に遺伝するDNA情報はどうなりますか。
A.4:
これは、融合実験をさらに一歩進めた、とても重要な質問です。実は、2匹のクシクラゲが融合したからといって、それぞれのDNAが混ざって一つになるわけではありません。例えば、AとBという2匹のクシクラゲが融合した場合、基本的にはA由来の細胞はAのDNAを、B由来の細胞はBのDNAを持ち続けると考えられます。では、その融合個体が卵や精子を作ったらどうなるのでしょうか。もしA由来の細胞が卵を作れば、その卵には基本的にA由来の遺伝情報が入るはずです。一方、B由来の細胞が卵を作れば、B由来の情報が入ると考えられます。さらに、A由来の卵とB由来の精子が受精すれば、両者の遺伝情報を受け継ぐ子どもが生まれる可能性もあります。ただし、融合したクシクラゲが実際にどのような卵や精子を作り、どのような子孫を残すのかは、まだ十分に調べられていません。これは本当に面白い問題です。体は一つなのに、遺伝的には二つの個体が共存している。では、その生き物の子どもは誰の子どもなのでしょうか。こうした問いを実際の実験で調べられるのも、クシクラゲ研究の魅力だと思います。
Q.5:
種が異なっても融合できるのは面白い現象だと思いました。ある程度大らかな方が生き残りやすいということなのかもしれないと思いました。(感想です)
A.5:
「大らかな方が生き残りやすい」という考え方、とても面白いですね。実は、生物の進化を考えるうえでも重要な視点だと思います。私たち人間を含む多くの動物は、「自分」と「他者」を区別する仕組みを持っています。これは病原体などから身を守るために大切ですが、他者の組織を簡単には受け入れられないという側面もあります。一方、クシクラゲでは、遺伝的に異なる個体同士が融合できることが分かっています。さらに、複数の種類のクシクラゲで融合が報告されています。ただし、異なる種同士が融合できるかどうかは、まだ十分に確かめられていません。では、なぜクシクラゲは他者を受け入れられるのでしょうか。そもそも他者を区別する仕組みが発達していないのか、それとも、区別できても積極的に排除しないのでしょうか。どちらなのかは、まだ分かっていません。生き物が生き残るには、外敵から身を守ることも大切ですが、他者を受け入れることが有利になる場面もあるかもしれません。「自分と他者を厳密に区別すること」は、生命にとって本当に必要なのでしょうか。クシクラゲの研究は、そんな私たちの常識を問い直すきっかけにもなると思います。
Q.6:
構造色について、もう少し詳しく説明してください。繊毛が色々な色に見える理由がよく理解出来ませんでした。分子構造によって、特定の波長の光を反射するのでしょうか。
A.6:
ご質問ありがとうございます。講演では少し説明が足りなかったかもしれません。クシクラゲの虹色は、色素によるものではなく、「構造色」と呼ばれるものです。例えば、シャボン玉やCDの表面にも、見る角度によって虹色に変化する部分がありますよね。クシクラゲも、これと似た光の現象を利用しています。クシクラゲの体には「櫛板」と呼ばれる、非常に細い繊毛が何千本も規則正しく並んだ構造があります。そこに光が当たると、それぞれの繊毛で反射・散乱された光が互いに重なり合います。光には波としての性質があるため、波同士が強め合う色と、弱め合う色が生まれます。これを「光の干渉」といいます。その結果、特定の色の光が強く見えるのです。つまり、ご質問にあるような、特定の分子が特定の波長を反射しているというよりも、繊毛が非常に規則正しく並んでいること自体が、虹色を生み出しているのです。さらに面白いのは、櫛板が動くことで光の当たる角度が変わり、見える色も次々と変化することです。あの美しい虹色は、クシクラゲが泳ぐために動かしている繊毛によって生まれています。実は、クシクラゲ自身が虹色に光っているわけではなく、周囲の光を利用して虹色に見えているんですね。
Q.7:
まず、くしくらげがクラゲではない!から驚かされました。つっつくお話を始め全て興味深い内容でした。先生のお名前が、城くら、けー先生でクラゲに近く思われ、先生のお名前は忘れないと思います!。
A.7:
嬉しいご感想をありがとうございます!クシクラゲは名前に「クラゲ」と付いていますが、実は私たちがよく知っているミズクラゲなどとは、進化的にまったく異なる動物のグループに属しています。見た目はよく似ているのに、体のつくりも、泳ぐ仕組みも、神経系の特徴もずいぶん違います。身近に見える生き物でも、調べてみると想像もしなかった世界が広がっているんですね。そして、名前まで覚えていただけて嬉しいです(笑)。名前に負けないように、クシクラゲの面白さをお伝えしていきたいと思います!
Q.8:
クシクラゲは体全体が脳みたいなものでしょうか? 平衡器や目で感知された信号は、どこが処理するのでしょうか?
A.8:
これは、私たちが現在取り組んでいる研究の核心に近い、とても面白い質問です。クシクラゲには、人間のように情報を一か所に集めて処理する脳はありません。その代わり、体のさまざまな場所に神経細胞が分布し、ネットワークをつくっています。その意味では、「体全体が脳のようなもの」という考え方も面白いと思います。ただし、すべての情報を体全体で均等に処理しているわけではなさそうです。例えば、クシクラゲには重力を感じる「平衡器」があります。体が傾くと、平衡器の中にある小さな重りが繊毛を押し、その刺激によって繊毛の動きが変化します。この動きは他の繊毛へと伝わり、泳ぐ方向の調節につながります。つまり、脳に情報を送って命令を待たなくても、感覚器そのものが刺激を受け取り、運動を調節できる仕組みがあるのです。さらに私たちは最近、平衡器の中にある神経細胞のつながりを電子顕微鏡で詳しく調べ、繊毛の運動を協調させる神経ネットワークが存在することを明らかにしました。一方、光を感じる細胞も平衡器の近くに存在していますが、光の情報がどのように処理され、運動に結びつくのかは、まだ研究が進んでいるところです。人間のような脳がなくても、感覚を統合し、状況に応じて行動を変えることができる。では、その「判断」はどこで生まれるのでしょうか。脳とは何なのか。そもそも、情報を処理するために脳は必要なのか。クシクラゲは、そんな根本的な問いを考えるための、とても興味深い動物だと思います。
松尾先生
Q.1:
太ったり、痩せたりするのは細胞がどのようになっているのでしょうか。
A.1:
「生成と散逸の回帰」です。
ご紹介した有機液滴はまず、水の表面張力を低下させる物質の生成で液滴が水面で収縮します。次に、先の生成物の散逸で表面張力が回復し、液滴が水面で大きくなります。この生成と散逸を繰り返すことで、液滴が収縮と肥大を繰り返します。
Q.2:
「生き物みたい」という言葉を使うことがありますが、それは何を見て感じると思いますか。
A.2:
私の場合は、入力に対する出力の「意外性」です。
意外性は、生命が約40億年の履歴で獲得した「個性」や「意志」を感じる源ではないでしょうか。
Q.3:
化学的アプローチからの生命創造は興味深かったです。情報処理的アプローチ(AIなど)からの生命創造についてはどう思われますか。将来的には融合出来そうですか。
A.3:
AI単独でしたら「NO」、人工情報処理システムでしたら「YES」が、私の個人的見解です。
生命は進化に広義の「身体」の継続は欠かすことができません。増殖過程でバラバラになり個を失うウイルスにはない特性で、それゆえに生物の進化適応性は著しくウイルスよりも高いです。現行のAI(フィジカルAIも含む)もバラバラなハードから再生産されるためウイルスに近といえ、進化適応性は低い(進化が遅いという意味ではないです)と私は考えています。身体性をともなった進化できる情報処理システムは生命の創造につながるのではないでしょうか。
Q.4:
化学的に作られた擬似生命が増殖していくのが何故なのか理解出来ませんでした。化学反応としても理解し難い内容でした。コアセルベートが出来る過程をもう少し詳しく説明していただきたかったです。
A.4:
「物理的自己触媒」です。
化学反応にご興味をお持ちいただき、うれしいです。広い皆さんに概観をご理解いただき、議論させていただきたかったため、詳説を省きました。お詳しいようですので、拙著ですが以下の58-62頁をご参照いただくと腑に落ちるかもしれません。https://www.tkd-pbl.com/book/b531206.html
Q.5:
正直、何ができれば生きていると言えると思われますか?個人の意見を伺いたい。
A.5:
私の答えは、「"生きている"と大多数の賛同が得られる状態」です。
「生命」や「生きている」というのはあくまでもヒトの感覚かと思います。
Q.6:
拍動する液滴の動きはなにがエネルギー源になりますか? 動きには餌が必要となりますか?
A.6:
「身体自体がエネルギー源」です。
このため、動くことで、エネルギー源を再度摂取しないと死(平衡状態)に至ります。
Q.7:
がん細胞も入れ替わってますか。
A.7:
私の専門ではないのでわかりませんが、がん細胞も代謝しているので、入れ替わっているのではないでしょうか?
Q.8:
メンチルアセテートを水の上に置いたときに自分で拍動していましたが、分子が不安定だから拍動するということですか。
A.8:
「高エネルギー(不安定物質)の分解」で駆動しています。
ご紹介した有機液滴はまず、高エネルギー物質から水の表面張力を低下させる物質が分解で生成され、液滴が水面で収縮します。次に、先の生成物の散逸で表面張力が回復し、液滴が水面で大きくなります。この生成と散逸を繰り返すことで、液滴が収縮と肥大を繰り返します。
Q.9:
エサをいれると液滴が大きくなるということでしたが、液滴同士の融合による巨大化とは違うのでしょうか?
A.9:
違うと考えています。
エサ添加後、(何時間だったか忘れましたが)ペプチド生成量の3分の1乗に液滴サイズが比例しているので、ペプチド生成による成長を示唆しています。それ以降は、融合による成長が主になります。
Q.10:
フィルトレーションで液滴を強制的に分裂させるということでしたが、将来的に液滴を自発的に分裂させる仕組みを創ることは可能とお考えでしょうか?
A.10:
はい、可能性はあると考えています。
Q.11:
このような大きなスケールで見られる液滴やオタマジャクシの群れ挙動は、小さい液滴でも再現可能なのでしょうか?
A.11:
"このような"が指す相互作用にもよりますが、大雑把にいえばVicsekモデルやMIPS、非相反相互作用を満たせば集団化自体は可能です。
コツはありますが、実験系の気持ちさえつかめば、わりと集団運動はつくりやすいです!とはいえ、実験系の声が聞こえないと始まらないので、実験で液滴をつったら、ひたすら観察されるといいと思います。結構、いろんな声が聞こえるはずです。
Q.12:
特に、前駆体を与えると、膜構造そのものが反応を促進し、自らを構成する膜材料を増やして成長・分裂するというお話が印象に残っています。このような理解でただしいですか?
A.13:
ご記述の通りです。中々、触媒も増えるという系がないので、そこが推しポイントの1つになります。
矢木先生
Q.1:
クマムシは寿命はどれくらいですか。死を判断するのはどこですか。老化しますか。
A.1:
寿命は種類によって異なり、数週間から数か月、種類によっては1年以上生きるものもいます。クマムシも老化しますが、乾眠中は代謝が極端に低下するため、老化の進行も大きく遅くなり、いったん止まったような状態になると考えられています。ただし、乾眠によって若返るわけではなく、乾眠前までに進んだ老化が元に戻るわけではありません。
「死」の判定は意外に難しく、乾眠中は動かないため、「動かない=死」とは判断できません。通常は、水を与えた後に一定時間観察し、体や脚の動き、刺激への反応が回復するかどうかで生存を判定します。
Q.2:
ミトコンドリアの中にもCAHSが内包されるのかどうか、素朴な質問が残りました。電子顕微鏡で乾眠を見たときに、ミトコンドリアがどこになるのかわからなくなる、という説明の時に少し気になりました。
A.2:
CAHSは主に細胞質に存在するタンパク質で、現在のところミトコンドリア内部に存在するとは考えられていません。
一方、クマムシにはMAHSなど、ミトコンドリアに局在して保護に関わる別のタンパク質があります。講演でお示しした乾眠時の電子顕微鏡像でミトコンドリアが見分けにくくなるのは、CAHSが内部に入るためではなく、脱水に伴って細胞全体の構造や細胞小器官の配置・形態が大きく変化するためと考えています。
Q.3:
ヨコヅナクマムシの乾燥状態からの復活の確率はどれくらいでしょうか。他のCAHSについても教えて欲しいです。
A.3:
ヨコヅナクマムシは非常に乾燥に強く、適切な条件で乾燥させれば、実験では非常に高い割合で復活します。ただし、復活率は乾燥方法、保存期間、温度、湿度、個体の年齢などによって大きく変わるため、一つの数字では表せません。
また、ヨコヅナクマムシにはCAHSの仲間が複数存在します。それぞれ、集まりやすさや細胞内での局在、保護する対象などが異なる可能性があり、私たちも現在、「どのCAHSが、どんな条件で、どこに集まり、何を守るのか」を比較して研究しています。
Q.4:
ファイバーと繊維を使い分けてありましたが、どう違うのでしょうか。クマムシはどのくらいの期間、乾眠状態でいることが可能なのでしょうか。また、どの程度まで乾燥しても回復可能なのでしょうか。
A.4:
今回の講演では、厳密に異なる構造を指して使い分けたわけではありません。「ファイバー」は英語の fiber をそのまま使った表現で、「繊維」は日本語表現です。別のもののように聞こえてしまったと思いますので、今後は基本的に「繊維状構造」として統一して説明したいと思います。ご指摘ありがとうございました。
Q.5:
クマムシの歩く姿が可愛くて、可愛くて。もとももクマムシは好きでしたが、その脅威のパワーーを再確認。まだまだわからないことがたくさんあることにワクワクしました。今後の研究に期待です。また発表してください。
A.5:
ありがとうございます。クマムシの歩く姿はとても愛らしいですよね。研究を進めるほど、「乾眠中の細胞の中では何が起きているのか」「タンパク質の集合が個体の乾燥耐性にどうつながるのか」など、まだ多くの謎が残っていることが分かります。今回の話をきっかけに、より一層クマムシに興味を持っていただけたのであれば、とてもうれしく思います。
Q.6:
CAHSをフリーズドライ食品に応用できますか?
A.6:
将来的な可能性はあると思います。CAHSには、乾燥や凍結乾燥の際に酵素やタンパク質の機能低下を抑える作用が報告されています。
そのため、まずは食品中の酵素や微生物など、乾燥で壊れやすい成分を守る技術への応用が考えられます。ただし、実際に食品へ使用するためには、安全性、消化性、アレルギー性、味や食感への影響、製造コストなど、多くの検討が必要です。現時点ですぐに食品添加物として使える段階ではありませんが、興味深い応用先の一つだと思います。
